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序章

 ――それは、私がまだ若かった頃、当時の私は……荒れていた。幼い頃に両親を亡くし、極貧の中で最終的に王都のスラム街で暮らす事になってしまった私は、スラムの世界で生き抜くために必死だったのと同時に誰かを信じる事ができなかった。


 自分の事は、全て自分1人の力で何とかしなければならない。生き残るためには、そうしなければならない。私が、スラムの世界で学んだ事は、それだった。裏切り……暴力、強奪。これらが日常茶飯事だったスラムの世界で、私は生き抜くために群れる事を捨てた。やがて、1人孤独に生き残るために拳を握って立ち向かい続けた私の元に「兄貴」と言って慕ってくる者が増えた。まぁ、そのほとんどが、魔力を持たない奴隷階級の者達だったのだが……。


 スラムには、様々な事情を抱えてやって来る者達がいた。私のように奴隷階級でなく、魔力を持っていても両親を失って行き場を失くした者もいれば……元々奴隷階級で帰る家のない者もいる。


 そんな様々な人が、子分になりたがったが、彼らの事も私は、信用できなかった。どうせ……弱肉強食の世界で、自分1人じゃ生き残る事もできないような哀れな奴らだ。私を利用して食べれるようになりたい……そんな所だろう。


 しかし、子分が増えた事で、私の日々の狩りもやりやすくなった。私は、奴らを使って狩りをするようになった。


 だが、そうやって王都のあちこちで暴れ回っていると……いつしか私は、王都で危険人物として王国にマークされるようになった。


 そして、段々追い詰められていき……最終的に私は、王国の騎士達によって捉えられ、その場で処刑されそうになった。


 ――しかし、その直前。


「待って!」


 1人の少女が、私の斬首刑を止めてくれた。その少女は、頭にティアラを乗せ、高級感のあるドレスを身に纏った美しい美少女だった。


 少女は、私に尋ねた。


「……貴方が、最近……王都を騒がせている……」


 少女は、真っ直ぐと私を見つめてきて、そう言ってきた。不思議な事にその少女は、私よりも遥かに身長も体格も小さかったのに全く恐れず、ただ真っ直ぐと私を見つめていた。


 私は、そんな少女の雰囲気にこの時から既に吸い込まれつつあった。


「……そうだが、アンタは……」


 と、尋ねると少女は、告げた。


「……わたくしの元で働きませんか?」


「は……?」


 全然話がかみ合っていない。自己紹介をして欲しいはずが……少女は、いきなり私に部下になれと言ってきたのだ。


「訳が分からない? 私を雇いたいのか? 私は……この王都を混乱させてきた極悪非道だぞ……。そんな奴を仲間にしたいだなんて……貴方は、馬鹿なのか?」


 すると、少女は告げた。


「……わたくしには、分かります。貴方は、心の奥底で悲しんでいる。本当は、自分のその力をもっと……崇高な目的の為に使いたいと思っているのに……。それが、出来ない事に葛藤している。そして、貴方には仲間の為に自らを犠牲に出来る程の優しさがある……!」


「え……? いや、何を言っているんだ? 私は、子分達の事なんて……どうだって……」


「いいえ。違います。貴方は、子分達を守るためにわざと自分が囮となってわたくし達の前に現れた。そうでしょう?」


「……」


「わたくしの目に狂いは、ありません。これからは、その力をこの国のために使いなさい!」


 しかし、少女にそう言われた時、私は我慢ならなくなった。


「……国の為? ふっ! 笑わせる……。俺を捨てたこの国の為に……尽くせと言いたいのか? 言っておくが……それだけは、御免だ! 絶対にな! そうなる位なら……ここで首を斬られた方がマシだ」


 そう吐き捨てて……私が、自らの処刑を待っていると、少女は私に言ってきた。


「……ならば、わたくしの為に働きなさい。この命の恩人であるわたくしの為に……」


「なんだと……?」


「貴方にとって、今は不満があるかもしれませんが……いつか、その心も変わって来る事でしょう。わたくしは、この国を……いいえ、この世界を変えたい。人が人を虐げ……そして、魔族と殺し合うこの世界を……私達は、きっともっと……平和になれるはずなのです。手と手を取り合う事が……」


「……!?」


「わたくしの崇高なる目的の為にも……貴方の力が必要です」


 少女の言っている事は、理想論だ。綺麗ごとだ。どうやったって、不可能なのだ。この世界に「魔力」という概念が存在し、ある人とない人で分かれてしまっているこんな世界で……ましてや、敵対勢力として魔族までもが存在する。その全てと手を取り合うなんて……不可能に近い。できるわけがなかった。


 そんな事は、スラムで今日まで生き残って来た私には、分かっている事だ。


 ――しかし……いや、しかし……綺麗ごとだからこそ、良いのだろう。現実といって……誰もが、目の前の出来事を余分に汚しがちだが……きっと、本当は……こういう綺麗ごとの為に頑張る事が良いのだろう。私には、それがなかった。今まで……生きるためにしか生きれなかったのだ。


「……アンタの名前は?」


 少女は、真っ直ぐ私を見おろして告げた。


「……エカテリーナ……と申します」


「そうか……エカテリーナ姫」


「貴方のお名前は、何と言うのです?」


「俺の……名前……?」


 名前なんて覚えていない。両親に着けて貰った名前……もう分からない。


 すると、エカテリーナは、そんな私に告げてきた。


「それなら、貴方の名前は……クリーフ。そうしましょう。おいでなさいクリーフ! 共に変えるのです。この世界を!」




                      *


 目を覚ますと、知らない天井。そして、知らないベッドの上にいた。


「ここは……?」


 私=クリーフは、どうやら夢を見ていたようだ。我が主、エカテリーナ様との出会いを……。しかし、それにしてもここが、何処なのか……それが分からない。こんな経験は、久しぶりだ。


 起きたら知らない家のベッドだなんて……スラムでやんちゃしてた時以来だ。そもそも……どうして、自分がこんな所で寝ているのか? 私は、確か……あの時……ガルレリウス様と交戦して、敗れ……川に突き落とされて……。それ以降の記憶はなかった。


 しかし、一体誰が……私を……。そう思って私が、ドアを開けて、家の廊下を歩いて行くと、ベランダで1人、何かを作っている年をとった男を発見した。男に尋ねようと思い、近づいていくと……彼は告げた。


「……起きたか。……ったく、俺もついてねぇぜ。2回連続で……男を救っちまうんだ。次の一回は、別嬪さんを吊り上げたいもんだぜ」


 男は、鉄でできた筒のようなものを作っており、それを床に置きながらトンカチのようなもので、叩いたりしていた。私は、そんな男に告げた。


「……貴方が、私を……助けて下さり感謝します」


 すると――。


「……助けたのは、俺じゃねぇ」


「え……? では、誰が……」


 すると、男はトンカチで叩くのを一度辞めて言った。


「……馬鹿弟子だ。俺の馬鹿弟子……。今は、ここにはいねぇよ。アイツは、旅をしているんだ。あちこちを回ってな」


「旅を……?」


「そう。棺桶1つで……仲間達と一緒にな……」


「棺桶……1つ?」


 その時、私は自分がここへやって来た大事な用事について思い出した。それと同時に目の前のこの男が語ったその話に私は、驚きつつ……男の事を睨みつける。


「……貴方は、何者ですか? ここは、一体……それに……その棺桶の男というのは、名前は……」


「聞きたい事は、1つずつにしろ……。まぁ良い。初対面だ。今回は、特別に一気に答えてやる。……俺の名は、ヘクター。”ナイスガイのヘクター”だ! そして、ここは……西部の最果て。……この辺りに住んでいるのは、まぁ俺くらいだ。……んで、おそらくアンタが一番知りたがっているであろう……その棺桶の男の名だが……ソイツの名前は、ジャンゴだ」


「……ジャン……ゴ? まさか、それは……!?」


「ご名答! 西部のあちこちで馬鹿やってるあのジャンゴだ。そして、アイツは俺の弟子だ。与えたおもちゃをすぐ壊す不出来なね」


 やはり……と言う事は、私はようやく姫様のミッションを達成する事ができたのか! それなら――。


「……早速、そのジャンゴに会わせてくれ! 私は、そのために王都から……」


「あー、無理だ」


「は? いや、ヘクター殿。……貴方は、さっき自分の弟子であると……弟子の居場所くらい師匠なら知っているでしょう?」


「そ~れが、知らないんだなぁ。これが~。弟子と言っても、別にそんなガッチリしたものでもねぇ。どちらかというと、師弟というより……家族みたいなもんだ。かわいい子には、旅っていうしな。まぁ、そゆこと」


「ふざけるな! 私は、王国の騎士だ。エカテリーナ様の命によって、ここへやって来た! 居所を教えなければ……ここで叩き切っても……」


 そう言って、私が男を威嚇しようと腰にあった剣を抜く動作を見せるも……男の方は、全く意に介さず、淡々とした様子で私の事を睨みつけて告げた。


「……やってみろよ! アンタにできるのか? 俺は、こう見えて……かなり速いぜ? 少なくともアンタが魔力を発動させた頃には、その命の鼓動も止まってるだろうよ……」


 そう言いながら、ヘクターは作り途中の鉄の筒の先を私に見せてきながら強烈に睨みつける。彼から感じる圧倒的強者のオーラが……私の本能に訴えてくる。


 ――この男を敵に回してはいけない……と。


 私は、グッと堪えて剣をしまう事にした。すると、ヘクターはそんな私に言ってきた。


「……よろしい! それなら……始めようか」


 ヘクターは、突然立ち上がってキッチンの方へ向いだした。私は、そんな彼の姿を見て何がなんだか分からなかった。


「……何をしているんだ?」


 私が尋ねてみると、ヘクターは告げた。


「……ティータイムだ! お前にも付き合ってもらうぞ! 俺の話し相手としてな!」


 

次回『それぞれの戦い編』

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