愛のウォーリアー編⑥
「私は、愛する者の為なら……自分の命をも賭ける覚悟だ。そのために私は、今日までこの世界で生きてきた……! 私にとって……雪音は、全てだ。私の人生の全てなんだ! 何としてでも……アイツにだけは、生きていて欲しい! そのためなら何だって利用する! エカテリーナ姫! 貴方もだ。貴方の事も……私は、利用するつもりでいる! 全ては、雪音のため……! 私は、そのためにこの世界にいるんだ!」
スターバムは、わたくしに語った。彼の目を見れば……スターバムの気持ちの本気度が伺える。その目は、覚悟の目だ。間違いない……。なるほど。……これが、彼の……。
「……それが、貴方の戦う理由……ですか」
スターバムの話を聞いて、わたくしの心は非常にスッキリしていた。……これまで、この男から感じていた謎の違和感や得体の知れなさのようなものが、一気に晴れた気分だ。
そして、それと同時にわたくしは今、彼に対して物凄い共感の気持ちが込み上げて来ていた。それは、先程も申した通り、わたくしと彼は本当に似ていたのだ。
この男は、愛する者のために戦っている。最早、戻って来る可能性は、1%もないような……そんな賭けをこの男は、行っている。
わたくしも似ている気がした。……サム・コーヤ。転生したばかりのあの御方の目は……とても綺麗に見えた。不思議と……僅か一瞬だけしか会っていないはずのあの方の事が……わたくしは、どうしても忘れられない。
これが、俗にいう……一目惚れというものなのだろうか? はしたない。……自分が恥ずかしくなる。こんな事を他の者には、絶対に言う事なんてできないというのに……一国の姫であるこのわたくしが、あのような得体の知れない男に対して恋心を抱いてしまうとは……。でも、彼がいなくなってからこの気持ちを余計に拗らせてしまっている。まだ、生きていたら……そう思うくらいに。
彼がこの世界にやって来たのは、勇者としてこの世界を平和にするため。それなら……彼の果たせなかった役目をわたくしは、果たしたい。少しでもそれが、彼に報いる方法だと信じているから……。
……と、思っているとスターバムは、わたくしに背中を向けて告げた。
「……笑いたきゃ笑え。どうせ、もう起き上がる事などないというのに……ただでさえ、科学の力じゃどうにもならないような問題を……魔法で解決しようとしているこの俺を……馬鹿にしたければすれば良い……」
「笑いませんわ」
わたくしは、自分の思っている気持ちを正直にスターバムに伝えた。
「……貴方の成そうとしている事は、とても素晴らしい事ですわ。それを笑う事など……むしろ、尊敬いたします。貴方の愛する者のためなら泥にまみれてでも……救おうとするその純粋で力強い思い……。わたくしも尊敬せねばならないのかもしれません……」
「……エカテリーナ姫?」
「しかし……同時に愚かでもありますわ。どうして、そこまでの大志を抱いているというのに……貴方は、この世界であなた自身に与えられた運命と真っ向から戦おうとしないのですか? 何故、貴方は……恋人の為に頑張ろうとする事は、できても……自らの為に剣を振れないのですか?」
「なに……?」
「……できるはずです。貴方には……。父上や……勇者としての運命にさえも立ち向かっていく程の力が……。その力を……自分の為にも使ってみてはいかがですか? 恋人を仮に助けたとしても……貴方自身にとって最悪な結末が待っているかもしれない。その時、目覚めた貴方の恋人は、貴方を見て幸せに思いますか?」
「……」
スターバムとわたくしが、お互いに目を合わせる。やはり彼の目は、わたくしと似ている。助けたいという思いが伝わって来る。
しかし、そんな時に……だった。突如、わたくし達のいる建物のドアが叩き壊されて、外から4人ほど騎士達が入って来て、彼らが自分達の持っている小さい杖をわたくし達に向けて、笑いながら近づいて来た。
騎士の1人が、わたくし達に向けて告げた。
「……こんな所にいたとは。しかも……スターバムだけではなく、エカテリーナ様まで! これはこれは……運が良い。2人まとめて……王城へ連れて帰りますよ」
「お前は……ユダ!」
ユダと呼ばれたその騎士は、見覚えがあった。確か、スターバムの部下だった騎士だ。
スターバムは、騎士達の姿を見た途端に一瞬だけ迷いある目で彼らの事を見つめた。騎士達が、杖を向けて威嚇しつつ、わたくし達の傍までゆっくり歩いて来る中、スターバムの迷いは、更に加速し始める。
わたくしは、そんな彼の気持ちを察しつつ……騎士達の事を睨みつける。少しだけ後ろへ後退しながらわたくしは、隣に立っていたスターバムにだけ聞こえるくらいのボリュームで告げた。
「……決めるのは、貴方ですわ。貴方が……その恋人の為に命をかける。そのためにわたくしを王城まで連れて帰ろうとするのであれば……わたくしは、喜んでお供いたします。しかし……もしも、貴方の心にほんの少しでも……わたくしと共にこの国と……父上と戦う意志があるのであれば……貴方に真っ向から立ち向かう勇気があるのであれば……共に……自分達の過去と……愛の為に……戦って行きましょう! わたくし
も……それならば、喜んで貴方に力をお貸しいたします!」
「……エカテリーナ」
――だんだん近づいて来る騎士達が、スターバムの方を睨みつける。そんな中、騎士ユダは、スターバムに告げる。
「……スターバム様! 今、その隣にいる姫様をこちらに差し出してくれれば……貴方の無実を晴らして差し上げましょう! このユダ! 貴方の部下であった時の忠誠心もまだ残っております! スターバム様……貴方がもしも、姫様を私達に渡し、我が部下になると言って下さるのであれば……私は、おおいに歓迎です! どうでしょう? スターバム様……貴方とて、王国に戻りたいはずだ。転生者である貴方に居場所などないのだから……」
騎士ユダが、スターバムにそう言う。
*
私=スターバムの脳内には、ユダの言葉よりも……雪音との思い出がフラッシュバックしていた。
アイツと過ごした高校最後の年……毎日のように進路について話し合った不安でいっぱいだったあの頃だ……。
「……もう! 裕也ったら、自分の将来なんだからもっと真面目に考えなさいよ!」
「しょうがないだろう! 私は、お前さえいてくれれば、それで良いんだ……。後は、どうでも良い。自分の将来なんて……まぁ、お前と一緒に過ごせるだけの金があれば、それで充分だろ?」
高校の帰り――。学校の近くでこっそり止めていた自前のバイクに乗った私と雪音は、地元の海まで2人乗りしながらそんな話をしていた。海までの坂道をバイクで疾走する私達。バイクの音と波の音で、互いの声が聞き取りづらいはずなのに……自然とアイツの声だけ耳に落ち着く。
すると、私のお腹の辺りに手を回していた雪音が、少しだけ照れくさそうに笑いながら言ってくれた。
「……もう! 裕也ったら……そう言う風に言われたら……嬉しいじゃん。……でも、裕也はもっと……自分の為になんかしてみるって事も大事だと思うよ!」
「自分の為? いや、してるじゃん。来年に向けて、お前と暮らすための資金……バイトしまくって稼いでる所だぞ?」
「ちーがう! そうじゃなくて! もっと……裕也自身の為っていうかさ、私とのじゃなくて……裕也のためだけの事についてだよ! あのね、裕也……自分の事を一番理解できないのは、自分なんだけど……同時に自分の事を一番幸せにできるのも自分なんだよ!」
「なんだか、私は……馬鹿だからよく分からないな……」
――雪音……お前も……私の幸せを望んでくれているのか? ふと、過去の記憶を思い出して、そんな事を思う私は……雪音が言っていた言葉を思い出していた。
――自分の事を一番理解できないのは、自分だけど、同時に自分の事を一番幸せにできるのも自分……か。
確かに……私は、自分の事なんてあんまり考えた事がなかった。幼い頃は、父を喜ばせるために勉学に励み、高校に入ってからは雪音を喜ばせたいがために日々を過ごし、高校卒業後は雪音を復活させるために……再び勉学に励んだ。
私の人生は、常に他人あってのものだった。そこに私自身の意志は……いや、分からない。その答えすらもよく分からない。現に、私は雪音の事が今でも大好きだ。だから、意志がなかったわけではないはずなのだ。
でも……自分を幸せにする事……どうすれば良いのか……分からない。けど、雪音が……私の幸せを望んでくれているのなら……私は!
その時、私の心の中で沸き上がる力を感じた。私は、エカテリーナの前に立ち、そして剣を抜き、後ろにいる彼女に向かって宣言した。
「……良いでしょう。……なってあげますよ! 貴方の騎士に! この命……私は、国王ではなく貴方に捧げる! 我が全力を持って貴方を西部まで送り届ける。……主の願いを果たすため……そして、私は……私は、己の過去を乗り越えるために……貴方を守る騎士として貴方の剣となりましょう!」
自分の為……自分の願いの為……そして、愛する雪音を救うため。この女についていき、西部まで戻ってみるのもありかもしれない。それが……今、自分にできる自分のための選択。……そう思った。
エカテリーナは、誓いの言葉を口にした私に力強い言葉で告げた。
「貴方の決意……しかと、心に刻みました。行きなさい! 我が騎士、スターバムよ! 敵を殲滅するのです! 愛の戦士スターバムよ!」
「……イエス! マイ・クイーン!」
次回『後日譚』




