愛のウォーリアー編①
――ジャンゴ達が、ガルレリウスと戦っていたのと同じ頃。
「着いた……久しぶりの王城……」
私=スターバムは今、久しぶりの王城に到着した。私は、これまでとある任務の為に西部にいたのだが……今回、国王の命により、王城へ帰還する事となった。
一体、なぜ急に呼び出される事になったのか……? 皆目見当もつかない。私は、忙しいというのに……。
この前の戦いで勇者ジャンゴと戦った時、奴は新しい力を手に入れた。ヴェラドリング……あんな凄い武器を持っていたとは、思わなかった。
これまでジャンゴが自分よりも劣っている最大の理由は、魔力が無い事だと思っていた。奴に魔力がないからこそ、そこを突く。そうすれば、奴の体の中にある”鋼の心臓”を手に入れる事ができると思っていた。
――だが、全く簡単にはいかなかったのが現実だ。魔力がないジャンゴは、ないなりに工夫を凝らし、見事にこの私と互角以上にやり合っていた。
しかも、それがこの前の戦いで事実上、魔力を持つようになってしまったのだから本当に手の付けようがない。
あの時見せたあの……一撃。私が、時を止めても尚、止まる事なく私に襲い掛かって来たあの弾丸……。あの時は、かろうじて自分の傷口に巻き戻しの魔法をかけて応急処置は出来たが……。
本当に……厄介極まりない男だよ。ジャンゴ……。
――そして、奴の事についてこれから色々と考えなければならないこの大事な時に国王からの呼び出しだ。
今まで、国王は私に対して基本的に仕事のほとんどを任せてもらっていた。だから、私も好きに出来ていたし……お互いにウィンウィンな関係を築けていたと思っていたのだが、今日が初めてだ。突然、呼び出されて報告しろだなんて……。
私には、もうそこまで時間がないのに……。第三の勇者エンジェルが、現れた事もあって……国王にバレる事なく秘密裏に”目的を遂行”しなければならないのに……。
色々思いながらも私は、王城の中へ入って行き、そして真っ直ぐと玉座の間に到着した。大きなドアを開けて私は、玉座の間の中に入って行く。すると、中には大きな階段を上った先で玉座に座ってくつろいでいる。国王……クリストファー・C・クリストロフの姿があった。
――それと、なんだ? どうして奴が、ここに?
玉座の間には、もう1人知っている人物がいた。玉座の間の端っこに立っている1人の騎士。騎士ユダ。私の部下だ。部下として私と共に西部に行っていたはずの奴がなぜ? いや……今、思い出したがそういえば奴には、国王への報告係としての仕事を任命したんだった。と言う事は、奴は国王に何か報告に来ていたのか?
すると、国王は、私が到着するや否やいつもの調子で言ってきた。
「……お~! 勇者スターバム殿! よく戻って来た。ここまでの活躍ご苦労であったぞ~」
「国王陛下! お久しぶりでございます。勇者スターバム……ただいま帰還いたしました」
「ご苦労。まぁ、座ってくれたまえ」
「……失礼します」
私は、国王に言われた通り、膝をついて座った。すると、国王はそんな私の事を見おろしながら告げてきた。
「……それで、西部はどうだったかな?」
はじまった……。報告と言っても、やはりこのような雑談会か。全く、老人で1人寂しいからって……わざわざ私を呼びつけるのは、やめてくれないかな……。
と、内心思いながら私は、告げた。
「……はい。陛下。陛下の治める国は、何処だってすばらしゅうございます。西部では、こことは違った気候で慣れない事もありましたが、それはそれは楽しくやっておりました」
「ほぉ~、そうかそうか。それなら良かった」
王は、そう言いながら自分の白い髭を触ってニコニコしていた。……はっ! 何が楽しくだ。全く、楽しくなんかなかったわ! ジャンゴは、捕まらないし……変なのは、出てくるし……。
すると、またしても王が言ってきた。
「……マクドエルについては、残念であったな」
「あっ、あぁ……はい……」
なんだ。あのクソ野郎か……。あんな男、死んでくれた方が個人的には、良かった。奴は、私の認めたジャンゴをクズと吐き捨て……挙句は、普段の行いも酷いせいで、私の騎士隊の評判は、落ちるしで最悪だった。始末しておいて良かったランキングなんて作ったら上位に来る。
しかし、国王は続けて言った。
「……彼は、本当に優秀な騎士だった。高い魔力を持ち、運動能力も申し分ない。彼については、色々と期待していたのだが……まぁ、戦死した者について色々言っても仕方ないか……」
国王的には、お気に入りだったのか……。あんなのの何処が良いのか? 私には、皆目見当もつかない。
「仰る通りでございます。国王陛下……わたくし、現地では直属のモールスを亡くしてしまい、余計にショックでございます」
「ほう……。そうか……それもやはり、魔族による襲撃でか?」
「はい……。西部の地域は、とても楽しかった半面、過酷でございました」
――いや、本当に……。
と、俺が色々嘘の報告をし終えると、今度はいきなり国王の表情が少し変わって告げてきた。
「……ところで、例の謎の男の捜索については、どうなのだね?」
「……あぁ!」
――来たか。今回の報告で一番重要な所だ。下手な嘘をついてしまえばバレる危険性がある。だからこそ、ここははっきりと……分かりませんと伝えるべきだ。今の所、国王の元にそのような報告はされていないと私もあらかじめ、王城に提出されていた報告書をあらかた読んで来た。だから、私も……他の者達に合わせて……。
「……申し訳ございません。陛下。……ここまで、一切の情報も掴む事ができず、このスターバム。自らの無能さに大変悔しさを噛みしめております。これからすぐに現地へ戻って再び調査の方を再開し、陛下に一日でも早く真実をお伝えできるよう努めて参りたい次第でございます」
決まった……! 我ながらかなり良いデタラメが言えた気がする。完璧な嘘だった。これなら、このジジイにもバレる事なくすぐに西部に戻ってジャンゴ対策を考えられる。
我ながら大勝利ってわけだ! ふふふっ……さぁ、王よ! さっさとこんな無駄な報告会なんぞ終わらせて私を西部に帰すのだ! さぁ!
……と、思っていたその時。
「……そうか。残念だ。……スターバム、お前は……やはり”大嘘つき”であったのだな」
「え……?」
次の瞬間、誰もいなかったはずの玉座の間に突如として大勢の騎士達が、長い槍を構えて私の周りを囲んで来た。彼らは、明確に私に敵意を持って槍を構えており、私はこの状況に困惑しかなかった。
「……これは!?」
驚いている私に国王陛下は、告げた。
「……残念じゃよ。スターバム……お前が、やはり裏切り者だったなんて……」
「裏切り者?」
どういう事だ? 私は、ただ……。と、思っているとその時、たまたま端っこに立っていた騎士ユダと目が合ってしまった。奴は、私の事を見るや否や私を鼻で笑い飛ばし始めた。
ユダの目は、まるで私に対して「ざまぁ~」と煽るような目だった。……そして、この瞬間に私は、全てを理解した。
――嵌められた。私は……そこにいるユダに嵌められたのだ! この玉座の間にやって来た時の違和感は、それだった。奴は、私が国王に嘘の報告をすると国王に話をして……。
すると、国王が玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下がっていき、告げた。
「……勇者スターバム、お前は私に……隠し事をしているみたいだな」
「なっ、何の事でしょう……?」
「とぼけるな! わしは、既に知っておる。お前が謎の男ジャンゴと接触している事も……。その男こそが、勇者の1人である事も……そして、第三の勇者エンジェル・アイの存在も……」
「……!?」
私は、すぐにユダを睨んだ。奴は、私を嘲笑う様な目で見ていた。王は、続ける。
「……お前は、これまでワシの命令に背き、西部で好き勝手にやっていたようじゃな。魔族の里にも無断で入って……かなり好き勝手にやってくれておったようじゃが……。もうそれも終わりじゃ! このものを地下牢に送れ!」
「はっ!」
周りにいた槍を持った騎士の1人が、そう返事を返すと、周りにいた他の騎士達が、私の両手を拘束しながら檻へ連れて行こうとする。
「……待ってください!」
しかし、ここで終わらないのがこの勇者スターバム! まだ、挽回できる! なんせ、私はこれまで国王との間に信頼ポイントを積み上げてきた。国王の命令をいつも素直に聞いて、頑張る可愛い部下を演じてきたのだ! そのポイントを今ここで……。
「国王陛下! 私は、無実でございます! そこにいる我が部下ユダが……全部デタラメを申しておるのです! 私は、本当に……国王の為に火の中水の中……頑張り続けました! そうでしょう! 国王陛下……お忘れになりましたか? 私は、陛下の為にこれまで沢山尽くしてまいりました! この世界に来て、右も左も分からなかった私にこの世界での生き方を教えて下さったのも陛下でした! その陛下を裏切るような事……私にできますでしょうか!? いいえ、到底できません! できるわけがありません!」
この訴えを聞いて、国王も少しは納得してくれるかと思っていたが……。そうはいかない。国王は、私の肩に手を置いて、告げた。
「……お前は、わしの為に働いた事など一度もないだろう? ユダから聞く前から知っておった。こうするのも時間の問題だと思っておった。残念じゃが……スターバムよ。お前の未来は変わらぬ。お前が、どんな目的で動き、ジャンゴ達の事を隠して来たのかは、知らぬが……もう遅いと言う事だ」
「そんな……」
じゃあ、俺は最初から……。
「連れていけ……」
騎士達が、俺を地下牢獄に連れて行く……!
「いやだ! やめろ! 離せェェェェェェェ! 私は、私は……私には、果たさねばならない事がっ! 雪音ェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」




