序章
クリストロフ王国王城内――玉座の間。国王の元に1人の女が送られて来た。その女は、棺のようなものに入っており、まるで死んだように眠っている。
そんな女の事を見つめていた国王は、口元をいやらしく歪ませた。そして王は、自分の髭を触りながら不気味な微笑と共に告げた。
「……計画も、そろそろ最終段階……といった所かのぉ……」
――計画……? それは、一体何の事なのか……。わたくし=エカテリーナには、想像もつかなかった。父上が言っていたこの言葉の真意とは……。
わたくしは、父上が見ている女性の方に視線を移した。すると、そこには……。
「……あの御方は?」
見覚えがあった。何処かで……会った事があるのだろうか? 分からなかったが……わたくしの記憶の何かに引っ掛かった。
しかし……彼女が何者であるかは、良いとして……。なぜ、父上はあの方をここへ連れてきたのか? しかも、客としてではなく……あんな死体同然のような姿で……。
「……そこにいるのか? エカテリーナ」
――と、その時突然、声をかけられた。父上に……。わたくしは、父上に見つかってしまった事に驚き、背中がガクッと震えたのが分かった。
慌ててわたくしは、玉座の間のドアを開けて、中へと進んで行った。すると、玉座の前に置かれた棺の中に入った女性を眺めながら後ろ姿だけをわたくしに見せてきた状態で父上は、告げてきた。
「……どうした? 何か、わしにようか?」
父上は、決してこっちを見ては来なかった。ただ、冷たい声でそう言っている。父上の顔を見れないせいで、何を思ってそう言っているのかわたくしには、よく分からない。
しかし、わたくしが単に父上の事を見ていたというだけの事。それ以上でもそれ以下でもない。
「……たまたま、この辺りを歩いておりましたら……父上の玉座の間が開いており、少し覗いておりましたわ。申し訳ございませんわ。父上のお仕事の邪魔をしてしまいましたら……」
すると、今さっき父上が少しだけ笑ったような気がした。わたくしの中で緊張感が更に加速する。
父上は、告げた。
「……そうか。いや、別に良いのだ。それよりも……エカテリーナよ。お前も少しこっちへ来てみろ。良いものを見せてやろう」
「……はい」
わたくしは、恐る恐る父上の元へやって来た。階段を一段一段駆け上がり……この国の一番高い所へ駆け上がる。まさか、自分がこの階段を昇る日が、こんなに早く訪れるとは……思いも寄らなかった。わたくしは、階段を昇り終わり、父上の隣へ到着する。
「……これは」
すると、やはりそこには棺があり、その中に1人の女性が眠っている。まるで、聖女のように美しい女性。綺麗な髪の毛と美しい白い肌が特徴的な女性だった。彼女の美貌に一瞬だけ見惚れてしまいそうになったわたくしに父上は、告げた。
「……エカテリーナよ。もうじき、戦争が始まる」
「え……? お父様、それはどういう……」
「そのまんまの意味じゃよ。魔族と人……。その戦いが、もうじき始まろうとしている。これまでの歴史上、幾度となく行われて来た戦いも……おそらく今回が最後となるであろうがな……」
「最後……?」
父上の言っている事にわたくしの疑問が止まらなかった。なぜ、そう言う事を言っているのか? 父上の言う……戦争の最後とは。言葉の真意を考えていると父上は告げた。
「……次の戦争、わしらはまた再び……魔族共に勝利する。これまで、何度打ち負かしてきても、しぶとく生き残って来た魔族共をようやくわしの力で駆逐す事ができるのじゃ……」
「……お父様も戦場へ行かれるのですか?」
と、わたくしが尋ねると……父上は、鼻で笑って告げてきた。
「……愚問だな。エカテリーナよ。わしが、戦場へ? そんな事するわけなかろう。わしは、王じゃ。わしが、戦場へ赴けばこの国を統治する者がいなくなってしまう。……そうではない。ワシら王族は、戦場へは行かぬ。そうではなく……”切札”を使うのじゃ」
「……切札?」
何を言っているの? お父様……。切札って……。
わたくしは、息を呑んだ。お父様がこれから申そうとしている事に耳を傾けて……。
「……そうじゃ。これまでは、ずっと……その切り札の断片を集める事に必死になっていて、なかなかパズルのピースが揃わず、苦労したが……もう違う。わしは今、ようやくパズルのピースのうち……その1つを手にする事ができた。……そして、残るパズルのピースは2つ」
「それが、この御方なのですか? お父様……お父様は、何を考えておられるのですか? この方と……それから、残る2人の人……。3人の人を使って……何を?」
「3人……?」
すると、突然今度は、父上の顔に少しばかり疑問が浮かんだ。少ししてから父上は、わたくしの事を鼻で笑った後に告げた。
「……3人ではないぞ。4人だ。……パズルのピースは、全部で4つ。4つ目のパズルのピースは、お前だ。エカテリーナよ」
「……わたくし?」
「そうだ。……喜べ。エカテリーナ! お前は、人類を魔族から救うための最後の希望となるのだ! お前とこの女と……そして、残る2人が揃えば……ワシらは、永遠の頂きに立つ事ができる!」
「永遠の頂き……」
「そうじゃ。……ワシらは、一生この国の王家として頂点に君臨し続け……民は、一生ワシらを尊敬し、敬い続ける。そして、邪魔な魔族共は、この世から完全に姿を消すのだ!」
――邪魔な魔族共……。父上のこの発言から察するに……わたくしの抱いている理想の戦争終結とは、程遠いのだ。それが、よく分かった。
父上は……おそらく、魔族を最後の一匹まで根こそぎ殺し尽くすつもりだ。次の戦争で……この地から魔族を消し去る。そのために……わたくしやこの御方を利用する……。
それこそが、父上の作戦……。しかし、どうやって……わたくしは、勿論。この方も戦う力を持っているようには、見えない……。
むしろ、わたくしが得意としている魔法は、治癒の魔法であるし……体術なんて、そもそも運動神経が良くないし……。
すると、父上は語り出した。
「……良いか? エカテリーナ。お前は……この国の王の娘なのじゃ。この国の……人間の為に尽くす事は、当然の事である。……わしは、お前が幼い頃にそう教えたはずじゃ……」
「はい……。お父様」
「今が、その時なのじゃ……。スターバムとの結婚も……そのためじゃ。まぁ、最も……もうその必要もなくなったがな……」
「え……?」
どういう事……? だって、この前まで……お父様は、わたくしに……。突然の事にわたくしの頭は、混乱していた。
すると、父上は最後にわたくしの肩に手を置き、立ち去り際に告げた。
「……ようやく、お前も人類の為に働けるのぉ。良かった良かった……」
父上は、怪しい笑みを浮かべて去って行ってしまった。
「人類の為……」
残されたわたくしは、棺の中にいる女性の事を見つめながら1人、そんな事を呟いていた。
お父様のあの言葉の真意……。人類のため……お父様の言葉に嘘偽りはないだろう。それは、間違いない。……なのに、どうしてだろうか。不思議と引っかかってしまう。
「永遠の頂き……」
あの言葉を口にしていた時のお父様は、何処か楽しそうだった。まるで、自分がその頂きに立つ事ができる日が近くてうずうずしているみたいに……。
前からお父様が、何か良からぬ事を考えているのではないかと疑っていたが……今日で、その疑いも完全にはっきりした。
お父様は、やっぱり何かを企んでいる。それも……戦争で。人と魔族の戦争を始めて、魔族を本格的に全て根こそぎ滅ぼそうとしているのだ……。
その為には、何故か……わたくしとこの御方が必要……。良いのか? そんな事。父上に任せてしまって良いのだろうか?
仮にわたくしに戦うための力があるというのなら……わたくしは、父上に力を託すべきなのだろうか。
――どうも違う気がしてしまう……!
クリーフともあれから連絡が、一切取れないし……何かあったに違いない。父上の様子も最近は、特におかしいし……何か、ただ事ではない事が、起こっているような気がする。
そして、それは……全てこのわたくしにかかっている……かもしれない。確信は持てないが……父上の発言からも察するに……わたくしには、魔族の命がかかっているようだった。
「……だとすれば、わたくしの為すべき事は、たった一つのみ……!」
その時、わたくしはある1つの大事な決断をした。
次回『愛のウォーリアー編』




