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後日譚

「とどめは、俺がさす!」


 そう言いながら、エンジェルは立ち上がった。俺=佐村光矢は、苦しそうな顔をしながらも立ち上がる奴に声をかけた。


「……倒すったってお前……既に槍が……」


 と言いかけた所で、突然エンジェルは、苦しそうに頭を抑えて藻掻きだした。


「……うぅ!」


「おい……! エンジェル!」


 彼が、頭を抑えて苦しそうにしている姿を見て、すぐに察した。やはり、アイツの記憶削除は、既に始まっている。……エンジェル・アイは、勇者の力を使うと、戦いの後に記憶を失くす。そして今、エンジェルは先程、ガルレリウスとの戦いの中で金色の槍=勇者の力を使ってしまった。最後の一回を……。つまり、もうアイツの記憶は……。


「やめろ! エンジェル! 今のお前には、無理だ。俺がやる! お前は、黙ってそこで見ていろ!」


 だが――。


「……良いから。そこを退け! ジャン……ゴ……? とどめは、俺がさす。この戦いは、俺にとって最後になるんだ。ここで、コイツと決着をつけなければ俺は……」


「エンジェル……」


 既に俺の事も忘れかけている。そんな状態で……人を殺す事なんてできるのか? そもそも、金色の槍も、もう使えないんじゃ……。


 ――しかし、そう思っていた矢先。


「……うおおぉぉぉ!」


 エンジェルは、最後の力を振り絞ってか、魔法陣を展開し、本来なら出す事もできないはずの金色の槍を魔法陣から取り出し、それを持ったままゆっくりとガルレリウスに近づいて行った。


 ……彼は、苦しそうに頭を抑えながらガルレリウスの元へ近づいて行こうとしていたが……しかし!


「……うっ……うぅ!」


 またも彼は、苦しみだし、それと同時に手に持っていた金色の槍を落としてしまう。そして、落ちてしまったのと同時に槍は、姿を消して、消滅してしまう。


 ――そんな影響もあってか、彼は再び苦しみだす。


 苦しむエンジェルの姿を見ていたガルレリウスは、彼の事を嘲笑った。


「……はっ、はははっ! なんだよ! カッコつけたくせに……やっぱり大した事ないじゃないか! 僕の予想通りだ! やっぱり、お前は……記憶と共に戦う力も失くしていってしまう! もう、お前は勇者でも何でもないんだよ! お前は、ただの……異世界人。……そうさ! この世界の何処にもお前の居場所なんてない! お前は、残りの人生……永遠にこの世界を1人っきりで彷徨う。ただのはぐれ者だ!」


 だが、そんなガルレリウスの言葉を聞いていたエッタは、目に涙を浮かべながら苦しそうに記憶を失くしているエンジェルに叫んだ。


「アイくん! 頑張って!」


 エッタの声援を受けたエンジェルは、彼女の事を見つめる。その顔には、ほんの少し疑問のようなものが現れていた。


「……エッ……タ?」


 既に、彼の頭の中からは、彼女の事さえも忘れようとしているのだろう。そして、それが……エンジェルの心と葛藤している……。彼は、自分自身の授かってしまった勇者の力と今、戦っているのだ。必死に戦って……そして、決着をつけるためにも今、目の前にいるあのガルレリウスを殺す……!


 ――お前の思い……何となくだが、理解したぞ。……エンジェル!


 俺は、苦しそうに頭を抑えるエンジェルに向かって叫んだ。


「……エンジェル! これを使え!」


 そして、俺は自分の持っている合体状態の銃を2つに分離させて、その1つをアイツに手渡した。エンジェルは、俺が銃を渡して来た事に対して、既にポカン……と口を半開きにしていた。


 エンジェルが、膝をついている目の前に俺の銃が地面の上に置かれる。俺は、言った。


「……引き金を引くんだ! お前の決意を……その銃に込めろ! 最後の弾丸を撃てェェェェ!」


「最後の……弾丸……? 君は……」


 もう、俺が誰であるかなんてどうでも良い。ここまで来たら果たせ。お前のやりたい事を……。記憶が完全に消えてしまう前に。


 俺は、アイツの事を真っ直ぐ見つめて目で伝えた。


 ――やるんだ!


 そして、その思いが伝わったのかエンジェルは、銃を手に持ち……そして、ゆっくりと再び立ち上がった。


「なんだと……!?」


 驚くガルレリウス。しかし、彼は震えた手でガルレリウスに銃口を向けるエンジェルの事を見て、嘲笑いながら告げた。


「……ふっ! そんな震えた手で僕を撃とうというの! 無理だよ! だって、君にはもうここにいる奴らとの記憶なんてほとんどないんだろう? 何のために俺を殺さなくちゃいけないのか……。それも分からなくなっているはずだ! できるのかい! それでも尚、俺を殺す事が……。ただの人殺しが……君にできるのか!」


 エンジェルの顔にほんの少しの曇りが見える。エッタが、心配そうに彼の事を見つめていた。


「アイくん……」


 だが、その隣ではシーフェが、真剣な顔になって言っていた。


「……良いや。できるわ! アタシは、知っている。あの目をした男ってのは……誰にも負けない心を持っている時よ。彼ならきっとできるわ! そうよね!」


 向こうからシーフェが、俺に聞いてくる。


「……あぁ」


 返事を返しながら俺は、エンジェルの事を見ていた。


 ――頑張れ……! エンジェル!


 すると、その時だった。突如、エンジェルはジャケットの内ポケットから懐中時計を1つ取り出し始めた。


「あれは……私が、昔あげた誕生日プレゼント……」


 エッタは、目を丸くしていた。……そうだ。エンジェルが、戦いの前に言っていた。エッタから貰った大切なものだと……。と言う事は……。


「アイツ、まだアンタの事は……忘れちゃいないんだ。戦っているんだよ。自分と……。アンタの事が、大好きだから……」


「アイ……くん」


 エッタや俺達が見守る中、エンジェルは懐中時計についたオルゴールを鳴らし始める。優しいメロディーだった。優しくて……耳心地が良くて……何処か懐かしい気分になれる。そんな曲が流れ始めた。


 曲を流しながらエンジェルは、告げた。


「……これを聞いていれば……力が湧いて来るんだ……! 俺は……俺は、戦う! 大切な人との”今”を守るために……俺は、俺は……そのためなら自分の明日さえも……昨日さえも捧げてやる!」


 そして、エンジェルは俺の銃を持った方の手を一度、下げて……ガルレリウスの事を睨みつけた。


「……コイツぅ!」


 ガルレリウスもエンジェルの事を睨みつける。――両者は、互いに殺意の籠った目で睨み合っている。2人の間には、オルゴールのメロディーが流れており、互いに少し間を開けた状態で立っていた。


「……決闘か」


 魔法と魔法のぶつかり合い……。杖の早撃ち対決。……と言っても、エンジェルが持っているのは、実際は杖ではなく、俺の銃。ガルレリウスが、手に持っている杖と……エンジェルの持っている銃。


 どちらが先に殺す事ができるか? シンプルな早撃ち対決だ。そして、この戦いの決着は恐らく……。



 ――このオルゴールの音が、終わった頃に始まり……終わる!


「勝てよ。エンジェル……!」


「アイくん……!」


 俺やエッタ、それにシーフェが見守る中、ついにオルゴールの音は、終わろうとしていた。そして、次の瞬間に――音が、ピタッと途切れたその刹那――!


                      *


 俺=エンジェル・アイ……? は、最後の引き金を引こうとしていた。もう直、曲は終わる。その時、俺は目の前に見えるあの男を殺さねばならない。


 理由は……なんだったか? どうしてだか、思い出せない。なんだか、あの男が凄く憎かった気がするのに……今では、その理由さえも分からない。


 そもそもこの曲は……えーっと……確か、そこにいる女の子が……俺にくれた……これは、何だろう? あの女の子の名前は……エッ……タ?


 あぁ……ダメだ。やっぱり……どんどん頭から抜けていく。走馬灯みたいに色々な記憶が、思い出されていくのに……その全てが、次々と消えていっている。


 2人で、外を散歩していた時に王国の騎士達が、現れて……逃げようってなって……でも、逃げられないから俺は、戦ったんだっけ? どうやって? でも、それで戦った後に……俺達、家に帰ろうとしたけど家の周り……騎士達に囲まれていて……帰れなくなって……それで、俺とあの子は……一緒に旅をする事になったんだ。


 大丈夫。……まだ、覚えている。まだ……俺の記憶は、大丈夫……。だから、泣かないで。そこの可愛い女の子。……いつの間にか……なんか、凄く成長して……。俺……。



 ――気づくと、決闘は終わっていた。俺は人を殺してしまった。この変な黒い武器を地面に落とし、俺は立ち尽くした。


 すると、そんな俺の元にあの子が、走って来た。


「あぁ……エ……」


「言わないで……」


 その子は、俺の背中に抱き着き、俺の顔を見る事なく俺の背中で涙を流した。


 どうして……泣いているんだ? 俺が、人殺しだから? あれ……でも、俺は一体誰を……殺したんだっけ? この子は……一体……。


 女の子は、俺に言った。


「……今までずっと……。一緒に旅ができて楽しかったよ」


「……うん」


 旅……俺は、旅をして……。


「……アイくん。最後に……言わせて……。貴方は、もう私の事なんて覚えていないかもしれない。けれど、貴方の記憶から完全に私が消えてしまう前に……どうしても伝えたい。……私は……私は、ずっと……ずっと前から……貴方に初めて出会ったあの時から……貴方の事が……大好きでした」


「え……?」


「貴方にとって、最後で最初の告白になるかもしれません。けれど、これだけは言いたかった。……私、貴方が例え、記憶を失くしてしまってもずっと傍にいるよ。……これからもずっと一緒に……貴方の焼いたさつまいもを食べて……貴方の傍で支え続ける。……だから、これからもよろしくね!」


「君は……一体?」


 頭の痛みもだいぶなくなってきた。もう結構、元気になって来た頃、俺は後ろにいた女の子の顔を見た。――その顔は、涙を流しながらも満足げで嬉しそうな……とっても綺麗な顔。素敵な人の顔だった。


 女の子は、俺に言った。


「……私は、貴方の……恋人です!」


                     *


 エンジェルとガルレリウスの戦いが、終わったのと同じ頃、リュカリレオンの城の前の森の中では、アタシ=ルリィとサレサが大勢の騎士達を相手に戦っていた。


「……これでも食らいなさい!」


 アタシは、もうとっくに本気の状態となっている。人間の姿となり、身体強化の魔法を駆使して次々と騎士共を蹴散らしていた。


 実力そのものは、大した事のない騎士達だったが、厄介なのは数が多い事。アタシは、息を切らしながらも着実に1人1人倒していった。


 アタシの傍ではサレサも……同じように敵を倒している。


「……これで、53……サレサは……?」


「54……1人勝ってる」


「負けられないですわね……」


 と、アタシが意気込んだ次の瞬間、城の方から大きな白い花火が上がり、白旗を振るう騎士の姿が見える。


「全軍撤退ぃぃぃぃぃぃ! ガルレリウス様が、破られた! 撤退だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その言葉を聞いて戦場にいた騎士達は、ぼそぼそと話し始めた。


「ガルレリウス様が……? まさか、あの人が……」


「おいおい! それじゃあ、早く逃げないとまずくないか?」


 そうして、騎士達は次々と戦場を後にし、あちこちへ逃げて行った。その様子を見ていたアタシとサレサは、お互いに地面に座って一息ついた。


「やりましたのね。殿方様達」


「うん……。私達もこれで、ようやく一仕事終わり」


「お疲れ様ですわ。サレサ……」


「うん……。お疲れ様。ルリィ……」


 アタシ達は、そう言い合うとお互いに拳を合わせた。良い感じの雰囲気で戦いは、終わろうとしていたが……その時、サレサがアタシに言ってきた。


「……て、事でムー君の膝枕権は、私が貰うね」


「んがっ!」


 やっぱり、このクソエルフ……。


                     *


 エンジェルとエッタは、戦い終えた。2人は一緒に何処かへ旅立って行った。これにて、一件落着。想思って、俺がエッタが乗っていた馬車を覗きに行き、マリアの名前を呼ぶ。


「おーい! マリア! マリア~。迎えに来たぞ。おーい」


 だが、彼女からの返事は、返ってこない。おかしいなと思って、俺が馬車の中へ入って探してみる。だが――。


「あれ……? マリア……いない?」


 急いで、馬車を降りてシーフェに尋ねてみる。


「おい……。マリアがいないぞ」


「え? そんな訳ないでしょう! だって、あの時……確かにあの騎士は、この馬車に乗っているって……」


「ふふふ……ぐふふっ。あーはっはっはっ!」


 と、シーフェが言ったその時、倒れていたはずのガルレリウスが高らかに笑い出す。驚いたシーフェが、慌てて俺の服の袖を引っ張りながら後ろに隠れるように近づいて来た。



「……何がおかしい?」


 俺が、奴の事を睨みつけながらそう言うと……ガルレリウスは、苦しそうに言った。


「……お前の探している……マリアは……既に王都にいる……父上の所へ送っているのさ。……君らが来る事は、最初から読めていた……だから、先に1人分でも……仕事を済ませておいた」


「なん……だと!?」


「ジャンゴ……マリアを取り戻したかったら……王都へ向かうしかないぞ? だが……君は、王都へ辿り着けるかな? ……これは、僕からの忠告だ。ジャンゴ……。王都へ辿り着くには、残る3人の四柱を倒さねばならない。……東部、南部、北部……。それぞれにいる3人の王族だ……。だが、君では奴らを倒せない。そして、万が一倒せたとしても……父上には……国王陛下には、勝てない!」


「貴様ら……どうして、マリアを! マリアは……お前らと同じ人間のはずだ! それなのにどうして……! お前ら王族は、何を企んでいる!」


「マリアは……我々の切り札だ……。魔族を殲滅するための……そして、それには……お前達の力が必要……」


 と、最後に言い残してガルレリウスは、永遠の眠りについた。


 俺は、そんな奴の死体と誰もいない馬車の前で……1人立ち尽くした。


 ――マリア……。


                     *


 そして、また同じ頃……王都、王城内部……玉座の間に1人の女が国王に送られて来た。その女こそ……マリアであった。彼女は、眠らされており、そんな眠った彼女の事を見つめながら国王は、不気味な微笑みを浮かべ、告げた。



「……計画も、そろそろ最終段階……といった所かのぉ……」

 と、いうわけで皆さんこんにちは! 最近、卒論も就活も終わってほっと一息な上野蒼良です。さて、いつものあとがきコーナーというわけで……ここまで読んでくださった読者の方々、ありがとうございます!


 これにて、第八章も完結と言う事で……。いやぁ、今回は色々大変でしたね。物語じたいも長くなってしまって……なかなか収拾がつかないと言った感じでしたが、何とか終わらせる事ができました。いかがでしたでしょうか?


 この第八章は、エンジェル編の第一部最終章となります。これまで、自分の記憶が消えていくデメリットに苦しんでいたエンジェルが、最後の最後に自力で立ち上がり、自分達の今を守るために立ち向かっていくというシナリオなわけです。


 今回のエンジェルの決闘については、映画「夕日のガンマン」からアイディアを頂戴しました。正直、あの映画の決闘シーンが大好きなわけで……いつか、あんな決闘シーンを描けたらと思っていたのですが……今日、ついにそれも叶える事ができました! これも日頃、応援して下さっている皆さんのおかげです!


 さて、そしてシーフェちゃんお帰り! と言う事で……。ようやく、合流しましたね。皆さん、お気づきかもしれませんが、今回から最終決戦に向けて動き出しています。今までのキャラ達が、集まって来ていたりするのもそのためです。今後もジャンゴ達の戦いは、続いて行きます。


 さて、こんなものですかね。第八章に関しては、語る事少ないです。ていうか、本文にだいたいの事は書き尽くした気がするので……。


 応援してくれた皆さんにもう一度感謝を。


 次回は、第九章「愛のウォーリアー編」となります。次回の第九章の主人公は、なんとジャンゴではなく、皆さん大好きな(好きなのか?)スターバムとなります。ジャンゴについても勿論書くつもりですけど、メインはスターバム。彼の事について色々書けたらなと思っております。


 それでは皆さん、またいつか会いましょう! サラダバー!

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