運命さえも撃ち抜く弾丸(ヴェラドリング)編⑦
「待て! エンジェル! 俺は、お前の敵じゃない! 記憶を失くしたのか? 俺は、お前とは戦いたくないんだ! 信じてくれ!」
そう呼びかけても、今のエンジェルには通じなかった。彼は、金色の槍で俺に攻撃をしながら告げてきた。
「……黙れ! そんな言葉で俺を騙せると思ったか? 俺達を指名手配する人間は……全て俺達の敵だ!」
「……アイくん! やめて!」
向こうでエッタの叫ぶ声もするが、エンジェルは聞き耳を持たない。彼は、引き続き槍を振り回して攻撃を続ける。
「エッタ! 隠れていろ! こいつらは、俺が倒す!」
「違うよ! アイくん!」
エッタに必死の叫びも聞かず、エンジェルは俺を攻撃し続ける。俺は、奴の攻撃をかわし続けていたが、防戦一方でかなり圧されていた。
──まさか、さっきのスターバムの攻撃で戦闘モードの解除と同時に俺たちに関する記憶を失くすとは……。
いや、これは起こる事は、最初から想定できた。エンジェルの記憶が戦いの度に消えていくデメリットを知った時から……しかし、まさかこんなタイミングで来てしまうとは……。
すると、俺が奴の攻撃をかわしているとその時だった。今度は、後ろからスターバムが魔法剣を振り下ろしてきて、斬りかかってきた。
すかさず、ギリギリのところでこの攻撃も交わした俺にスターバムは、告げてきた。
「……おっと、流石は佐村ジャンゴ。だが、仲間割れにばかり関心がいっているようでは、私の攻撃は、そう何度も避けられる程、生ぬるくないぞ!」
スターバムが、すかさず俺に斬りかかろうとしたその時、向こうから金色のやつを振り回して突っ込んできたエンジェルが、スターバムを攻撃しながら告げる。
「……お前もそこのおっさんにばかり気を取られていると、危ねぇぞ?」
スターバムは、魔法剣で槍の攻撃を受け止めてからエンジェルの攻撃をしながら怒鳴りつける。
「……黙れ! おっさんではなく、佐村ジャンゴだ! 私の認めた男をおっさん呼ばわりするな! ……貴様、さっきまでと全く雰囲気も異なるが、何が狙いだ? 私を錯乱しようとしても無駄だぞ?」
「んな、つもりはねぇ。ただ、俺は人よりもちょっと記憶が持たないんだ。だから感情の赴くままに戦っているまでだ! お前の事はよく知らない。だが、見ているだけで気に食わない! 騎士甲冑を着ているお前も俺達の敵だ!」
「……なに? 記憶……」
スターバムは、そう呟きながら槍と剣をぶつけ合っている最中にエンジェルから距離をとって、一度呼吸を整える。
それからエンジェルの事を一旦見つめた後にスターバムは、告げた。
「……ふっ、なるほどな。記憶か……。そういう事か。なるほど……哀れな男だ」
「……なに!?」
「……記憶が持たないから自分の感情に素直になるだなんて……なんて滑稽な男だ。お前に一つ教えてやろう! 人間の感情など状況次第でいくらでも変化するものだ! 変わらない思いなどこの世で、私を差し置いて存在するものか!」
「黙れ……!」
エンジェルとスターバムは、その後も激しくお互いぶつかり合う。そんな中、少し離れたところで戦いを見ていた俺は、エンジェルがスターバムと戦っている間に銃のリロードを行っていたのだが──。
本当に弾をこめていいのか? こんな状況で戦って……このままだと俺が最悪、エンジェルを殺しかねない。
――だが……。戦わないとこの場は……どうにもできない。今の俺に……あの2人を止められる程の力が、あるのか……?
振り返ってみれば……エンジェルが、今の状態になってしまった原因も……スターバムとの戦いに勝てない事も……全て俺自身に魔力がないから……だった。
今までは、魔力がなくとも自分の銃の腕1つで何とかなってきた。だが、スターバムの時間停止をはじめとする彼らの魔法は、俺の想像を遥かに超えるものだった。
高速移動までなら対応できても……時間停止となると……一度は、破った事のある魔法とはいえ……あれも俺の中に心臓を動かすために必要な魔力が俺の中に残っていたから出来た事であって、今の魔力のない俺には、それさえもできない。
――分かってはいた。魔力がない今のままじゃ……そのうち大変な事になるのではないかと薄々気づいてはいた。仲間が増えるたびに……その気持ちを隠そうと自分にも嘘をついてきた。
でも……目の前でルリィが負傷をして……エンジェルまで……。人間、手遅れになってから色々気づくというのは、いつになってもそうなのかもしれない。
「……そこにいたか! おっさん!」
その時――こちらへ向かってきたエンジェルが、金色の槍を振り回してきて、俺を攻撃してきた。俺は、見事に槍の一撃をくらってしまい、そのまま軽く吹っ飛ばされてしまう。地面に叩きつけられた俺は、槍によって切られてしまった右肩の傷を抑えながらエンジェルを見つめた。
「……止してくれ。エンジェル……俺は、お前とは……戦いたくない……」
「……甘いな。前に俺とどうゆう関係だったのかは、知らないが……今の俺にとってお前は敵だ」
エンジェルが、槍を大きく振り上げる。彼の槍の先端が、目の前の太陽に被さり、俺の回りに影ができる。
――くそ……結局、俺は……。
「しねぇぇい!」
エンジェルの槍が、当たろうとしたその刹那――! 上空から巨大な火球が、エンジェル目掛けて降りかかる。咄嗟に攻撃をかわしたエンジェル。俺は、何が起こったのか炎が飛んできた上空を見上げてみるとそこにいたのは……。
「……殿方様! お待たせしました!」
「……ルリィ!? お前、どうして魔龍の姿に? 怪我は……? ていうか、今まで何処に……」
すると、ルリィは鋭い爪と力強い獰猛な龍の腕に持っていた何かを俺に投げて叫んできた。
「……殿方様、これを! 受け取ってくださいまし!」
彼女が、俺に向かって投げてきたそれを俺は、キャッチする。見てみると……何とそれは、2丁の拳銃。しかも……俺が持っているのと見た目は、凄くよく似ている。色が、真っ黒なのから青のラインが入ったりしてカラーリングが違う2丁の銃と、ライトブルーのプラズマのようなエネルギーを放出し、輝く弾丸。
「……これは?」
「説明は、後でいたしますわ! でも、とにかくそれが……ヘクターおじ様の開発した新しい武器でございますわ! その青い弾丸……ヴェラドリングを銃の中に装填してください!」
「……これが、おやっさんの……」
俺は、武器と目の前で俺に敵意を向けているエンジェル。そして、こちらへやって来たスターバムの
2人を見つめる。
新しい力を今、手にしたとて……。俺の迷いは、まだ晴れなかった。しかし――。
「……ジャンゴさん!」
その時、向こうからエッタの声がしてきた。彼女は、俺に告げる。
「止めて下さい! アイくんを……。お願いします!」
エッタは、頭を下げてそう告げてきた。……俺は、彼女のその姿を見て……次にルリィから渡された武器を見つめる。すると、不思議な事に武器からおやっさんの気持ちのようなものが、伝わって来て……。
――ソイツは、お前の気持ちに答えてくれる。お前の意志に答えてくれる。……お前が、どうしたいのか……お前自身の意志を……弾丸に込めな!
……やがて俺は、エンジェル達の事を睨みつける。
「……やってやるよ。これから先、もう誰も俺のせいで傷つけたりしない。俺は、戦う。守りたい奴らとの明日の為に……!」
そう宣言してから俺は、2丁の拳銃のリボルバーを展開。そして、6つの穴の中に青い光を放つ弾丸を装填し、戦闘態勢を整える。リボルバーを自分の両腕で走らせるように回して、2丁拳銃の銃口の先を向ける。
「……行くぞ!」
エンジェルとスターバムが、それぞれ武器を持って俺の元へ駆け込んで来る。俺は、奴らの事を目で追いかけながら弾丸に自分の意志を念じ込めた……。
――エンジェルを救う……そのための力を俺にくれ!
するとその刹那、銃口から青い光を放ち始める。俺がエンジェルを狙って引き金を引くと、銃口から弾丸が発射される。しかし、エンジェルは弾丸が当たるギリギリの所で槍を振り回して弾丸を弾こうとする。
――しかし、俺の意志が籠った弾丸は、エンジェルの槍が当たる直前に軌道を変えて曲がり、そのままエンジェルに命中する。
「何……!?」
撃たれて困惑するエンジェルだったが、しかし彼自身にダメージはない。再び俺に襲い掛かろうとするが、その瞬間だった。それまで鋭い目で見ていたエンジェルの顔が、急に眠たそうになり……彼は、倒れ込んでしまい、そのまま眠ってしまった。それと同時に彼の金色の槍も姿を消してしまい、戦闘不能となった。俺は、そんな様子を見てエッタに告げた。
「……眠っているだけだ! しばらくしたら起きる! 早く、ソイツを安全な場所へ!」
エッタは、すぐに眠っているエンジェルを担ぐ。すると、魔龍の姿になったルリィが、彼女達に背中に乗るよう告げて、ルリィが2人を安全な場所まで運んでくれるのだった。
――よしっ。これで、まず1つは、クリア……。
と、安心していると今度は、スターバムが魔法剣で斬り込んで来る。
「……ようやく2人きりだな! 佐村ジャンゴ!」
奴の攻撃をかわしながら俺は、2丁の拳銃の銃口を向けて攻撃を繰り出す。しかし、スターバムの華麗な体術によって弾丸は、次々とかわされてしまう。
「ふっふ! 甘いぞ! その程度の攻撃が、私に通用するものか!」
だが、それこそ俺の真の狙いでもあった。俺は、スターバムから少しだけ距離をとると、そのまま指をパチンと鳴らした。
すると刹那、スターバムがかわした3つの弾丸が、スターバムの近くで止まって、たちまちその3つの弾丸は、姿形を変えて、ネットのようになり、スターバムの動きを捕えた。
「これは……!? 捕縛魔法!? だが、君には魔力なんてないはず……? 魔法は、使えないはずだ。なぜ、そんな君が……魔力でできたネットを使って私を……」
「おやっさんが、作ってくれたこの新しい弾丸……コイツ事態に強力な魔力が込められているんだ。後は、俺が弾丸に念じさえすれば……魔力のない俺でも魔法を使っているみたいになるんだ!」
「なんだと……!?」
「もう今までのようには、行かないぜ!」
そう告げると、俺は捕縛したスターバムを狙って弾丸を2発撃ち込む。だが、スターバムは俺の捕縛の魔法を自らの持つ魔法剣で斬り裂き、見事に脱出してしまう。しかし、俺の弾丸は当然、スターバムを追いかける。彼は、弾丸から逃れようと魔法剣を振り回しながら高速移動の魔法で弾丸をかわしていったが、しかし俺の撃った弾丸は、スターバムに当たらない限り止まる事はない――!
自動追尾機能を持った今のこの弾丸から逃れる事はできない。スターバムは、とうとう一瞬の隙を突かれて、弾丸を食らってしまう。彼は、すぐに傷を修復するために自らの傷に時を巻き戻す魔法をかけて、簡易的に治療を行った。
「……なんて、厄介な力を……!」
スターバムが、そう告げる中、ふと向こうからルリィの声が聞こえてくる。
「殿方様!」
どうやら、エンジェル達を非難し終わったみたいで、彼女は魔龍の姿から人の姿に戻り、俺の傍へ着地。傷も完全に癒えており、元気そうだ。
「ルリィ……」
すると、彼女は俺におやっさんからの伝言を告げてきた。
「……その2つの銃を合体させてください! そうすれば、より強力な弾丸を撃つ事ができますわ!」
「合体……。そうか!」
俺は、彼女に言われた通り、2丁の拳銃のグリップの部分を変形させて、片方の銃口にもう片方の銃身を合体させて、少しだけ大きな銃を作り上げる。
「これは……」
「超弩級暴発光線銃・弐式。弾丸に意志を込めてください!」
「……」
奴を睨みつける。これまで散々、酷い目にあってきた。……アイツのせいで、エンジェルも……ルリィも……。もう絶対に許さない。
この一撃に俺は、自分の思いを込める。……奴に対する殺意を。
そして……。
「……そこだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今までにないくらい……強力な力が、銃口から放出された。凄まじいパワーの魔力の弾丸が……スターバムに襲い掛かろうとしている――!
*
――だが、その攻撃は届かない。君の思いは、私には届かない! 佐村ジャンゴ。
私こと、勇者スターバムには、まだ最後の切り札がある。高速移動でも避けきれない弾丸。追尾してくる銃弾……確かに強力だ。だが――。
「幕間!」
その瞬間、この世界の時空は、閉ざされる。完全停止世界……。誰一人としてこの世界の中で動く事は許されない。万能の肉体を持つ私を除いて……。私は、この止まった世界だろうと核爆発の起こった場所だろうといつも通り動く事ができる。だが、それ以外のモノは……動く事はできない。私に触れる事も……。
前は、佐村ジャンゴが一瞬だけ私だけの時の世界の門をこじ開けてきたが……今回は、違う。
「……君に魔力がない事は、よ~く知っている。今の君は、自ら心臓を止めてもこの前のように動けない。だ・か・ら♡」
私は、ジャンゴのいる場所を目指して歩き出す。そして、彼の胸元に手を当てて、私は動く事のない彼の事を見つめながら告げた。
「……ようやく、私のモノになるのだね。愛しき心臓よ……。勇者の力は、選ばれし者1人につき、1つと……神話では、そう伝えられている。本来なら、君の心臓を奪うだなんて事は、できないが……私は、この世界に来てからずっと開発していたんだ。勇者の力を取り換える魔法をね……力を奪わせてもらうよ。佐村ジャンゴ! 楽しかったよ……君との恋人ごっこは……。だが、すまないね。君じゃないんだ。私の本当に愛する者は……」
そう告げて、私は彼の心臓と一体化している「鋼の心臓」を取り出そうと、魔法を発動させる。
「これで、やっと手に入る……!」
そう思っていた。しかし――。
「なんだ!? 今、魔力が稼働している気配が……」
俺は、瞬時に違和感を覚えた。時が止まったこの世界で私の魔法以外に動くものは、ないはず……。なのに、いや……。
「存在する! 停止した世界でも動こうとしているものが!?」
急いでその魔力を感じる方を見てみるとそこには……佐村ジャンゴが、私に向けて撃った例の弾丸が、存在していた。その弾丸は、今にも動き出そうとしていた。まるで、鎖を打ち破って檻から出て来ようとする獰猛な獣の如く……狙った獲物を確実に仕留めるためだけに……奴の弾丸が、今にも動き出そうとしている。
「いや、そんな馬鹿な……動けるはずが……」
――だが、私の意志に反して弾丸は、ついに行動を開始した。ここは、止まった時の世界。しかし、それさえも関係ないと言わんばかりに弾丸は、私を追いかける。
「まっまずい! 加速だ! 加速しろ!」
しかし、時が止まっている世界では、時間を操る他の魔法を使用する事はできない。私は、すぐにそれに気が付き、急いで逃げようとした。
しかし……弾丸は、無慈悲にも私を追いかけてくる。
「……私だけの世界にも介入してくるのか! 佐村ジャンゴぉぉぉぉぉぉ!」
そして、とうとう逃げられなくなった私は、その攻撃を食らってしまう。そして、それと同時に時間停止の魔法の効力は、切れる。
時は、動き出す――。
「ぐううううううあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の叫びが、再始動した世界に木霊する中、私は薄れていく自分の意識の中、最後に佐村ジャンゴを睨みつけた。
――流石は、私の……認めた戦士……だ。




