レジスタンス編②
檻から俺達を救いに来てくれたおやっさん達。かつての仲間達との再会に驚く俺達だったが、俺達に取り付けられた手錠を見ておやっさん達は、顔をしかめていた。
「急げ! 地下道がバレちまう前に……早く!」
魔王城に幽閉されていた俺達は、おやっさん達に救われた事から脱出をしていた……。
――長い道だ。……こんな地下道が存在していただなんて……。
「いたぞ! 捕まえろ!」
走る俺達の後ろからは、追いかけてくる魔族達が……。おやっさん達の後を追いかけるように俺達は、走り続ける。
しかし……。
「……ねぇ、これ……いつまで走り続ければいいわけ? アタシ……ちょっと疲れたんだけど……」
疲れた顔を浮かべるシーフェの一言を聞いたおやっさんとクリーフが、互いに顔を見合わせて、困った様子。
それもそのはずだ。……シーフェだけではなかった。普段、運動なんてしなさそうなエカテリーナさんも……凄く辛そうにしている。
すると、先頭を走っている騎士クリーフが言った。
「……もう少しです! もう少し行った先が、人界領となります! そこまで来れば……魔族達も追ってきません!」
クリーフのその言葉を信じて、俺達は走り続けた。
――そして、しばらく走り続けた後に……。
「ここだ! ここまで来ればもう大丈夫だ!」
クリーフのその言葉に俺達は、次第に走る事をやめ、息を荒くしながらもゆっくり歩いて行った。クリーフの言う通り、人界領に入った途端に追いかけてきていたはずの魔族達も諦め、撤退しているのが見えた。
走り疲れを癒すように俺達は、ゆっくり歩いて地下道を移動していたが、その際に俺は、おやっさんに尋ねた。
「……どうしてアンタが、レジスタンスに?」
すると……。
「どうしてって事は、ねぇだろ。心配だったんだよ。それだけだ」
すると、その後におやっさんの言葉に付け足すようにクリーフも告げた。
「……ヘクターは、私を助けてくれた恩人でもある。彼が、君達を救いたいと言ってくれたから私は、彼をレジスタンスに迎え入れる事にした」
「アンタ……」
俺が、クリーフの方を向くと、彼は「こほん」と咳払いした後に告げた。
「……失礼したな。紹介が遅れた。俺は、クリストロフ王国の騎士クリーフ。……エカテリーナ様の騎士だ」
言われなくても既に知っている。……そもそも、お前を最初に助けたのは、俺達だ。と、言ってやりそうになったが気持ちを必死に堪える事にした。
すると、少し経ってから呼吸を整え終えて、落ち着いた様子となったエカテリーナさんが、騎士クリーフに告げた。
「……この先に、あるのですね? 我々の拠点が……」
「左様でございます! 姫様……ぜひ到着しましたら、同胞達にご挨拶の方をぜひとも……」
「分かっております。アブシエード殿……貴方にも頼んで良いでしょうか?」
エカテリーナさんが、そう告げると魔王アブシエードは、含み笑いを浮かべながら返事をするのであった。
「……良いだろう。私も協力しよう」
そんな彼の姿に同じ魔族であるルリィとサレサは、少し戸惑っていた。彼女達は、アブシエードを驚きの表情で見つめていた。
「……魔王様」
ルリィが、そう告げるとアブシエードは、答えた。
「良いのだ。ルリィ、サレサ。これは、魔王としてではなく1人の魔族としての俺の願いだ。……俺も争いは嫌いなのだ。戦いを止めたいから戦うというのは、矛盾しているかもしれないが、しかし致し方ない事だ。……お前達は、どうするつもりなのだ?」
魔王の言葉にルリィとサレサは、口を閉じてしまった。どうやら迷っているみたいだ。
無理もない。俺とて同じだった。戦いを止めたいというエカテリーナさんの思いは、正しいと思う。否定は、できない。だが、俺自身はどう思っているのか? 俺は、ただマリアさえ助けに行ければ……。
「……」
黙り込んだ俺達の傍では、スターバムがエカテリーナさんに告げていた。
「……私の目的は、変わりません。姫様。……誓った通り、私は……貴方の騎士として剣を振るうまでです。それが……私自身の願いの為でもあるのですから……」
「ありがとう。……スターバム。共に父を止めましょう」
「仰せのままに……」
スターバムは、あっさり決めやがった。……一体、アイツの願いというのは、何なんだ?
だが、これで次は俺達の番になったわけだ。……このままエカテリーナさん達と一緒に戦うか否か。どうする?
こんなに迷わなくても良いはずだ。こういう時、マリアなら……なんて言っていただろう? アイツは、誰よりも優しかった。……こういう時、アイツなら……きっと、戦争で困っている誰かの為に戦いたいと言っていたのだろうか? アイツは、傷ついた誰かを真っ先に癒しに行ったのだろうか?
俺にアイツのような癒しの力はない。俺には、一秒でも早く敵を殺す力しか持っていない。そんな俺が、マリアのようにできるだろうか?
そんな中、ルリィとサレサがエカテリーナさんに告げた。
「……女王様。アタシ達も仲間に入れてくれませんか?」
2人は、もう決めているみたいだった。彼女達の言葉にエカテリーナさんは、少し驚いていた。
ルリィが、続ける。
「……戦いたいんです。先輩が、そうしたみたいに」
サレサも言った――。
「……魔族を消し去るなんて絶対にさせない」
その言葉に……今度は、人間であるシーフェも告げるのだった。
「……ったく、しょうがないわね。でも確かにその王様ってのは、少し気に入らない。アタシで良ければ……協力してあげても良いわよ?」
皆、結構簡単に結論を出している。残るは、俺だけだ。俺は、どうしたい? 俺は……。
これまでの戦いの中で……時々、思う事があった。俺には、スターバムやエンジェル、マリア達のように戦う理由が、ない。
最初は、”ただ戦う”。それが、目的だった。でも、じゃあなんで戦うのか? その理由が、俺には明確に存在しなかった。いつもいつも……旅先で起こった事を解決する事で、手いっぱいだった。
俺は、俺の為に戦った事がない。エンジェル達を見て、そう思った。
「……悩んでいるようだな? 佐村ジャンゴ」
突然、隣からスターバムが声をかけてきた。アイツは、俺に対して言ってきた。
「戦うんじゃなかったのか? 守りたい者の為に……。お前は、明日の為に戦うと言っていたじゃないか?」
「……!?」
前に自分が言っていた言葉を思い出す。……そうだ。俺のするべき事は……もう決まっている。迷う事なんてなかったんだ。
「エカテリーナさん、俺も戦うよ。マリアを救って……俺は、コイツらと明日を過ごしたいから……。それを邪魔する王様を俺は、許さない」
「それが、貴方の決意……ですか?」
「あぁ……」
エカテリーナさんと俺の目がぴったり重なり合う。俺達は、互いに見つめ合い、そして……。
「良いでしょう! 歓迎いたしますわ! 我が組織、レジスタンスに!」
かくして俺達は、ようやく1つにまとまろうとしていた……。クリストロフ国王を倒す。その為に……俺達の心は、1つになろうとしていたのだ。