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迫り来る運命編⑤

 魔王軍と人界軍の衝突――二つの勢力がぶつかり合う。戦いは、続き……時刻もそろそろ夕方となる頃、10時間にも及ぶ戦争は、ようやく一日目を終えて、両陣営は一時休息の時を迎える。


 魔王軍を率いていたエンジェル・アイもこの日は、魔王としての初仕事と言う事もあって、くたびれた様子だ。彼は、魔王軍の他の者達から少し遠ざかった場所に立って、夜空と夕焼けの切り替わる狭間の空を1人でぼーっと見上げていた。


「……エッタ」


 奴の姿が星の光に照らされて鮮明に見える……。夜空の下で上を見つめる奴に俺は、告げた。


「……こんな所で、何をやっているんだ?」


 そう話しかけたのと同時に俺は、月の光に照らされたせいで、シーフェにかけてもらった潜伏の魔法が解けてしまう。次の瞬間、エンジェルの前に俺は、姿を現した状態でそう告げると、エンジェルは俺の事を知らない人を見るような目で見つめてきてこう告げた。


「お前……」


「そうか。……覚えていないのも仕方ないか。俺の名は、佐村光矢。ここでは、ジャンゴとも呼ばれている。……お前と同じ転生者なんだ。……お前が記憶を失くす前、一緒に戦った事もある」


「……そう言えば、ガルレリウスと戦った時……」


 エンジェルは、少しだけ覚えてくれていたみたいだ。どうやら、疑われずに済みそうだ。それなら、話しは早い。早速、俺は奴に告げた。


「……エンジェル、どうしてなんだ? どうして、お前が魔王になってしまったんだ。人間であるはずのお前が……。エッタは、どうした? あの子は、今どこに……」


「黙れ……。俺を人間というのは、辞めろ。俺はもう…………。それに、エッタは関係ないだろう。これは、俺の戦いでもある。人間達への復讐だ。邪魔は、させない……」


「エンジェル……。何言ってんだ。お前は、俺達と同じ人間だろ? エッタを愛したただの人間だ。こんな戦いは、よせ。それよりも……お前とエッタは、この国から出て行った方が……」


「出て行こうとしたさ」


「何……!?」


「しかし、ダメだった。俺達は、何処に行こうにも……追われ続ける。一生、何処にも逃げる事はできない」


「エンジェル……」


「だから、俺が……この手で壊すしかないんだ。逃げられないのなら戦うしかない。それが……俺の決意だ」


「……エンジェル。それが、エッタの望んだ事なのか?」


「何?」


「あの人は、お前に魔王になって欲しいなんて思っていたのか?」


「……」


「俺だってクリストロフが憎いさ。けど魔王にはなりたくないな。そこは、本来……別の男が座るはずの場所だ。俺達人間が、ついて良い玉座じゃない」


「先代アブシエードの事か? それなら、俺が殺した……」


「何……!?」


「今は、俺が魔王だ……!」


 その瞬間、俺の心の中に込み上げてくるものがあった。アブシエードの死。……ただのうざったい奴だったはずなのに。それでも、自分の国民の幸せを真剣に考える王としての姿は、何処か尊敬できる部分もあった。


 いつも何処か裏がありそうな胡散臭い感じの奴だったのに……。


「……エンジェル!」


 次の瞬間、俺は奴に殴りかかった――。エンジェルの頬を殴ろうとしたのだ。しかし、その攻撃は奴に軽くあしらわれてしまい、素振りとなってしまった俺の拳をもう一度握りしめ、後ろにいるエンジェルにもう一度殴りかかろうとしたが、しかし――。


 一歩遅れてしまった……。俺が奴の頬を殴ろうとするよりも先にエンジェルは、金色の槍の先を俺に向けていたのだ。俺の方が先に王手を打たれた気分だ。固まって俺は、エンジェルを睨みつけた。すると、奴は槍を持ったまま告げた。



「……無駄だ。そんな拳では、俺には勝てない」


「エンジェル、お前……どうして? 勇者の力は失ったはずじゃ……」


「俺は、魔王だ。……お前如きただの人間には、負けない。戦う気持ちもないお前にはな――!」


 エンジェルは、槍の持ち手の部分で俺の頬を叩いて来た。軽く吹き飛ばされてしまった俺が、地面をゴロゴロ転がっていると、近くにいた他の仲間達が、駆けつけてくれた。


 ルリィ達は、倒れた俺の元にやって来ると、同時に彼女達にもかかっていた潜伏の魔法が、月の光に照らされたせいで解除される。


「殿方様! しっかり!」


「ムー君!」


 ルリィとサレサは、必死にそう呼びかける。すると、彼女達の姿を見たエンジェルが、驚いた様子に鳴って告げてきた。


「……貴様ら、魔族か? 魔族が……なぜ人間と一緒にいる?」


「は……?」


 ルリィは、訳が分からない様子でそう呟いた。すると――。


「まぁ良い。とにかく、お前達まとめて全員――」


 と、彼が何かを言いかけたその時だった――!


「……エンジェル・アイィィィィィィ!」


 エンジェルの背後から1人の男が、大きな魔法剣を振りあげて斬りかかって来る姿が見えた。その男は、顔の整ったイケメンで――。


「……スターバム!?」


 そう、剣でエンジェルに斬りかかって来たのは、あの勇者スターバムだった。彼がどうしてここにいるのか? アイツは、あの時俺が倒したはずじゃ……。確かに手ごたえはあったのに。それにアイツは、人界軍側のはずじゃ……だとしたら、今日の戦争はもう終わっているはずなのに……。


 俺の疑問を他所にスターバムの剣が、エンジェルの持つ金色の槍と衝突する。凄まじい火花が散り合う中、2人は激しくぶつかり合う。スターバムは、告げた。


「……佐村ジャンゴは、渡さない! 奴は、私の獲物だ! 貴様如き……私の愛の大きさに比べれば……!」


 スターバムの荒ぶる剣さばきに少しずつ押されるエンジェル。しかし、そんなエンジェルだったが、スターバムに対して彼は、少しだけ面白そうに微笑むと、彼は告げた。


「……面白い。戦いとは、こうでなくてはな……。ならば……俺も少しだけ本気を出そう」


 次の瞬間、エンジェルの持っていた金色の槍が、輝きを放ち――途端に周りにいた俺達やスターバムに対してエンジェルは、強力な魔力を練り上げ、一斉に発射してみせるのであった。


「……無限創槍撃(ジュビア・メビウス)!」


 次の瞬間にエンジェルの立っている周りを囲むように全方位に魔法陣が展開され、それらから一斉に無数の槍が、飛び出して俺達やスターバムを攻撃してくるのだった。


 次々と繰り出される攻撃に対して、俺の周りにいたルリィやサレサが、槍から身を守るために自身の魔力を解放させる――!


 ルリィは、自身の姿を龍に変えて、更にそこへ身体強化の魔法を加える事で、自分の皮膚を強固なものにし、攻撃から身を守った。


 更にサレサは、大自然の力で地面から蔓を伸ばし、振って来る槍を一本ずつ絡めとる事で攻撃から身を守った。


 また、一方でスターバムも物体の動きを止める魔法で槍の攻撃を止めていたのだが……。


「……スターバム?」


 どうも奴の様子がおかしい。……スターバムは、攻撃を受けていないのに苦しそうに魔法を使っている……。


 ――俺の心配は、的中した。スターバムは、徐々に押し切られてしまい、次第に時を止める魔法も突破されてしまい、エンジェルの槍が彼の肩で擦れる。


 スターバムは、痛そうに肩を抑えた状態で、地面に落ちる。


「スターバム!」


 俺が、奴の心配をした次の瞬間に今度は、ルリィ達も……エンジェルの攻撃に対応できなくなってしまい、突破されてしまう。俺達は、エンジェルの槍による攻撃を受けて、またしても吹き飛ばされる。ルリィも龍の姿から人間の姿に戻ってしまい、彼女は苦しそうに地面に伏していた。


 そうして吹き飛ばされた俺達とスターバムが、エンジェルを睨みつけていると、真ん中に立つエンジェルは、告げた。


「……口ほどにも無い。この程度か。……勇者の力というのも」


「なんだと?」


 倒れていたスターバムが、上半身を起こしてエンジェルをより鋭い目つきで睨みつける。そんな中、今度は向こうから別の人間の声が聞こえてくる。


「……そんな所にいたのかぁ。エンジェル」


 その男は、俺と同じカウボーイハットを被っており、ブロンドの髪の毛を持った白人。……雰囲気的にアメリカ人って感じの人で、どうも……何処かで写真を見た事があるような……。


 と、思っているとそのカウボーイハットの男にエンジェルは、告げた。


「……すまない。邪魔が入った。サンダンス、コイツらを魔王城の牢獄まで連れて行ってくれ」


 ――サンダンス!? その瞬間、俺は思い出した。……サンダンス・キッド。アメリカ西部開拓時代末期に実在したとされるギャングの1人。なぜ、奴がここに……。そもそも、どうして生きているんだ?


 俺の考えている事と裏腹にサンダンスは、エンジェルに告げた。


「……それなんだがな、そこにいる奴らの他にもう一組、不審な奴らを発見した」


 すると、サンダンスの後ろに立っていた大きな巨体を持った鬼の見た目をした男が、2人の人間(?)を連れてきた。俺が人間であるかを疑った理由は、その連れてきた者達が、全員パーカーを深く被っており、顔が分からず、更には魔力でさえも探知できないからだ。


 正体は、よく分からなかったが、とても人間らしい雰囲気の者達で、鬼がその者達をエンジェルの前に差し出すと、エンジェルは告げた。


「……ほう。どうやら、今日は……俺に反旗を翻したい者達のオンパレードのようだな。良いだろう……。ここにいる全員、牢獄に連れて行け」


「はっ!」


 大きな鬼は、そう返事を返すと、そのパーカーを被った者達の腕に繋がれていた手錠を持ったままノソノソと歩き始める。そんな様子を見ていると、今度は俺達の元にサンダンスが、近づいて来て手錠を手にしたまま告げてきた。


「……そう言うわけだ。俺達の魔王様がそう言うんだから。おとなしくしてもらうぜ~」


「アンタは……人間のはずだ。どうして、魔王軍に……。いや、そもそもなんで、俺達と同じ時間に生きているんだ! アンタは、100年以上前に警官隊に撃たれて死んだはずじゃ……」


 すると、サンダンスは嬉しそうに告げてきた。


「……ほぉ。俺の事を知ってくれてんのか? 嬉しいねぇ。けどまぁ、悪いな。初対面のアンタに答えるつもりはない。……あえて1つ言うのなら、オーストラリアに行きたかった。それだけだ」


「は……?」


 訳が分からなかったが、しかしサンダンスはそんな俺達に手錠をはめた。そして、その後に今度は、向こうへ歩いて行き、スターバムにも手錠をはめようとした。だが、奴がスターバムの手に手錠をはめようとした次の瞬間、スターバムはサンダンスの手を激しく引きはがし、再び地面に落ちていた剣を手にしてサンダンスの喉元に剣先を向けたまま告げた。


「……その人を離せ! 暴れたのは俺だ。その人達は、関係ないだろう……。今すぐ、離せ!」


 だが、スターバムが威勢よくそう叫んだ直後、今度は後ろに立っていた大きな鬼が、スターバムの後ろから手刀を打って、彼を気絶させてしまった。


「スターバム!」


 彼は、呆気なく手錠をはめる事になってしまい、この場にいる俺達全員は、エンジェルの率いる魔王軍に捕らえられてしまった。


 エンジェルは、もう一度部下である鬼に告げた。


「……すぐに魔王城のある所へ運べ。そして、牢に入れてじっくりと時間をかけていたぶるんだ。良いな?」


「……はっ!」


 鬼は、整列して返事を返すと、そのまま俺達を巨大なドラゴンの背中に乗せる。俺は、行ってしまう前に告げた。


「待ってくれ! エンジェル! 俺は、王都に行かなきゃならないんだ! 放してくれ! 王都にいるマリアを救わなきゃならないんだ!」


「何……?」


 その瞬間、エンジェルの顔が少しだけピクッと反応したが、彼はすぐにいつもの調子に戻って告げた。


「……良い情報を得られた。クリストロフ国王の女神復活計画。……どうやら、俺達も急がなければならないみたいだな」


「は……?」


 女神復活? 何を言って……。分からない俺だったが、エンジェルは俺達に背を向けて告げた。


「……さらばだ。お前達は、牢の中でジッとしていろ。再び会う時は、この俺が勝利を手にしている時、クリストロフの最期の日だ」


 そうして、次の瞬間にドラゴンを空高くへ飛び出し、俺達を運んだまま……大空へ飛び立った――。


「……待て! エンジェル! 離せ! 行かなきゃならないんだ! 俺は! 離せ! はなせぇぇぇぇぇぇ! ようやく、ここまで辿り着いたのに……くそぉぉぉぉぉぉ!」




 こうして、俺達の冒険は再び振り出しに戻る事になる……。


 

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