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迫りくる運命編②

 俺=佐村光矢は今、気まずくて仕方がなかった。マリアを助けに王都へ向かうこの旅もようやく中盤まで来た。昨日今日辺りから敵の襲撃も極端に減った。どうしてなのか? その理由は、分からなかったがしかし、旅を進める絶好のチャンスだと思い、ついこの間まで南部と西部の間辺りにいた俺達だったが、今ではもうそろそろ南部も終わりかけの地点まで辿り着けていた。


 だが、旅が順調に進んでくれている事とは別に……。俺の脳裏に1つの疑念が浮かび上がった。


 それは……この前の戦いの時の事だった……。


 ――クリストロフ王国第二皇子クルルトリス。奴の圧倒的な実力を前に俺達は、苦戦を強いられた。最後の最後、奴のトリッキーな攻撃に対してようやく一矢報いる事のできた俺とルアだったが、そんな俺達に衝撃の事実が告げられる……。



 ――ルアは、ゆかり……。


 里華奈ゆかり。……俺の幼馴染だ。小さい頃、よく一緒に遊んだ地元の女の子だった。いつも周りの奴らからいじめを受けていて、そこを幼い頃の俺が助けた形になる。


 その時から俺達は、ずっと一緒に遊んでいたのだが……ある時俺は、母親から遊びを禁止されてしまい、以降は全く会う事はなくなってしまった。そして、しばらく経った後にゆかりは、この世を去った。



 あの時の幼馴染が今、俺の目の前にいるなんて……思わなかった。いや、何となく彼女の面影があるなとは、思っていた。でも、まさか本当にそうなんて……。それに、ゆかりは女の子だった。ルアは、自分で自分の事を男だと言っていたし……それだと辻褄が合わない。


 ルアが嘘をついている可能性もあるかと考えたが……それにしても、ゆかりの事について知り過ぎている。だとすれば、やはりルアがゆかりだと考えて妥当だろう……。


 と、色々考え事をしている時、龍の姿となっているルリィが、話しかけてきた。


「……何かありましたの? 殿方様……」


 ルリィは、目をこちらに向けて自分の背中の上に乗っている俺に話しかけてくる。俺は、そんな彼女に対して告げた。


「いや……何でもない」


 言えるわけがない。ルアとの事を……。アイツの正体が、前世で俺が殺した女の子だっただなんて……。ルリィは、しばらく経ってから目線を戻して素っ気ない様子で「そうですの……」と告げてきた。


 せっかく心配してくれた事は、凄く嬉しいのだが……やはり、ここで言える事ではなかった。銃の中にルアがいるんだ。もしも、ここで話してしまえば……。気まずい……。


 そんな事を考えながら俺は、前を向き続けた。……いけない。今は、それどころじゃないんだ。一日でも早く王都に辿り着いて……マリアを救わないと!


                     *


 アタシ=ルリィは、あえて何も言わないでおいた。旅をする仲間の事は、色々知っておきたいという気持ちは、勿論あるが……しかし、殿方様がここまで悩んでいる事自体が珍しい事。それならアタシが、あえて口出しするのも何かが違うと考えたのだ。


 ここ数日、殿方様とルアさんの様子が明らかにおかしい事は、アタシだけでなくサレサもシーフェも気づいている事だ。


 だけど、誰もその事に触れようとしない。まぁ、触れずらいだけなのだが……。


 事情を聞こうにも聞きづらいし……それでも仲直りはしてもらいたいのですけれど……。


 などと、考えている所に今度は、サレサの声が聞こえてくる。


「……ルリィ、聞こえる?」


 サレサは、アタシのお尻の辺りにおり、そこからアタシに対してテレパシーの魔法を駆使して直接意識の方へ語りかけてきていた。


「聞こえますわよ。どういたしました?」


 アタシもサレサと同じテレパシーの魔法を使って、応答する。すると、サレサはアタシに告げた。


「……ムー君の事。シーフェとも少しだけ話したんだけど、やっぱりこのままじゃまずいと思って」


 やっぱり、その事ですわね。……何となくそうだとは、思っていましたが……。


「それで、どうするおつもりですの?」


「そろそろ、暗くなる頃でしょう? そうしたら、夕食を食べるために下に下りると思うの。その時に……ルアさんとムー君を2人きりにしようと思って……」


「なるほど。古典的ですけれど……なかなか良いアイディアですわね。良いでしょう。それなら、このルリィ、協力差し上げますわ!」


「それじゃあ、決行はまた後で!」


「かしこまりましたわ!」


 アタシ達は、秘密の作戦を練り上げていた。殿方様とルアさんの仲を元に戻すため……そのためなら、仕方ありません。ここ最近の戦いは、激化してきている。王都へ近づけば近づくほどにだ。アタシ達のパーティーの中で、一番強いのは、やはり殿方様とルアさんのコンビネーション。その2人が、喧嘩などされては、当然困る。


 ――今日で、きっちりと仲直りさせますわよ!


 気合いっぱいで、アタシはこれから先の夕食に臨む事とした……。


                      *


「……どうして、こうなった?」


 俺=佐村光矢は、唖然としていた。まさか、誰もいなくなるなんて誰が想像できただろうか。いつもなら楽しみに待っていてくれるルリィ達3人は、突如としてトイレに行ってくるなど言って、皆いなくなってしまったのだった……。いや、まぁ……うん。今までトイレ我慢してたって事もあるだろうし……良いんだけどさ。


 しかし、こうして3人が一遍にいなくなってしまうと……今は、かなり気まずい。ただでさえ、ルアと色々あった後だから……こうして、2人きりとなってしまうと……。いや、アイツは今銃の中だから実質一人ぼっちなんだけどさ。


 とりあえず、俺は黙々と調理を続ける事にした。包丁を手に持ち……丁寧に野菜を切り分けていく。そうする事で、俺は今のグチャグチャな気持ちを整理していた。


 大の大人が、びびってどうする。いつも通り……いつも通りで良いんだ。そうやって、俺が黙々と調理を続けていると……。


「あ……」


 つい、うっかり包丁の扱いを間違ってしまい、指を軽く切ってしまった。指から血が出始めて俺は、すぐに怪我した箇所を舐める事にした。こんな程度の傷で精霊の涙は、使いたくないからな。すぐに血を止めて、調理を再開しないと……。


 しかし、切り傷による血は、なかなか収まらない……。何度指を舐めても血は、溢れ出てくる。


 まずいな……いい加減野菜を切りたいんだが……このままだと……。


 と、困っているとその時だった――。


 ぼわん! と、煙が出て来て、その煙の中からルアが姿を現した。彼女は、俺の代わりに包丁を持ってくれて、野菜を切り始めた。


「……あ……」


 ルアは、黙々と野菜を切りながら告げた。


「……良いよ。後は、僕がやるから……。主は、血が収まるまで休んでてよ……」


「お……おう」


 言われるがままに俺は、血が止まらない指を舐めながらルアの包丁さばきを見ていた。……流石だった。俺の大好きな料理を作ってくれた人の娘なだけある。作り方も母親と何度も一緒に作った事があるから……頭の中に入っているのだろう。


 俺は、黙って調理をするルアの姿を眺めていた。すると――。


「……まだ、気まずい?」


「え……?」


「僕が、里華奈ゆかりだって事……」


「それは……」


 気まずいに決まっている。だって、俺のせいでアイツは、死んでしまったのだから……。


 すると、ルアは野菜を炒めながら言ってきた。


「……あのね、主……。僕、主には謝らなくちゃいけない事があるんだ」


「え?」


「……昔、一緒に遊んでくれて……主は……いいや、光矢は僕に言ってくれたよね? いつか、俺達だけの学校を作ろうって……そのために……光矢は、先生になるって……」


 ――そういえば、そんな約束をした事があったっけ? かなり昔の事だ。朧げにしか覚えていなかったが……。


「……僕、嬉しかったんだ。その時は……。初めて僕の事を友達として認めてくれる人がいたんだって……。男のくせに女の子みたいだからって理由で虐められていた僕に……光矢は、唯一優しくしてくれた」


「ルア、俺は――」


「でもね、僕……光矢との約束を守ってあげられなかったね。光矢と会わなくなってから僕は、また孤独だったんだ。家に帰ると、お母さんが僕を受け止めてくれたんだけどね……先生も学校の皆も……周りの他の大人達は、全然分かってくれなかった。辛かったんだ……。僕、それでもう耐えきれなくて……自分で……しちゃった……」


「……」


「僕なんて生まれてくる意味なんてないって……ずっと思ってた。そんな時、この世界に飛ばされてきて、僕の魂は精霊として……生まれ変わったんだ。しかも、銃の精霊としてね。そのせいで、永遠に死ねなくなっちゃって……。先代の勇者と出会った時、彼は僕とはあんまり会話してくれなかった。僕の事は、あくまで道具って言う認識だったからね。それから、先代の勇者が、いなくなって……長い年月眠っていたんだ。そしたら……光矢とまた、出会えた」


「ルア……」


「嬉しかったなぁ。再会できて……。僕、君が召喚されてきてすぐに分かったんだよ。見た目は、かなりおっさんになってたけど、面影はまだあるというか……。しかも、本当に先生になっていて……それが、たまらなく嬉しかった。約束、守ってくれたんだなって……」


「覚えてなかった……。そんな約束……先生になった事だって、たまたまさ。俺は、最低野郎なんだ。だから……」


「違うよ。光矢。そんな事ない……。何万年と生きて来て僕も分かった。あれは、誰のせいでもないんだよ。そうなってしまう運命だった。それにいくら忘れていたとはいえ、光矢が先生になった何かしらの要因として……きっと僕との約束だってあったはずだしね。光矢は、ずっと……自分が、僕を殺したって思っていたみたいだけど、それも違う。殺したのは、紛れもない自分自身。光矢に母親に対抗する勇気がなかったように……僕には、人生に抗おうとする勇気がなかったんだ」


「ルア……」


「……ねぇ、光矢。……こうして、もう一度巡り合えたんだしさ……もう良いよ。光矢が、考えすぎる事じゃない! それよりもさ、また前みたいに一緒にお料理しようよ! 僕、そうしたい! 光矢とまた

一緒にいれるんだもん!」


 この子は、いつの間にか尋常じゃないくらい強くなっていたのだ。考えてみればそうだ。何万年と生きてきたのだ。俺なんかとは、生きてきた年数も違い過ぎる。大の大人とか言っていた自分が、小さく見える。


「……そうだな。ホント……色々ごめんなさい。そして、おかえり! ゆかり!」


「うん!」


 こうして、俺達は仲直りする事ができた。せっかくもう一度会えた昔の友達との時間を……俺は、全力でやり直す事にしたのだ。


 それが、ゆかりに対するせめての罪滅ぼしだと……俺は、思った。

 

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