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第9話 洞穴

 フィリップが走り去り、一時間経って戻ってきた。

「おーい、流朗!」

 フィリップは仰向けになっている私の隣に腰を下ろす。

「流朗、洞穴を見つけたぞ! 見る限りあそこは安全みたいだ。洞穴に行こう。肩をかしたら、歩くことはできそうか?」

『うん、大丈夫』

「そうか、だったら行こうぜ」

『待って、洞穴までの道のりは覚えてる?』

「それだったら大丈夫だ。なんせ、洞穴までの道のりに印をつけたからな」

『それなら安心』

 そうして、フィリップの肩をかりて、森の中に歩いて行った。

 しばらく歩いていると大きな悲鳴が聞こえてきた。

『うわああああーーー!!!』

 何事かとフィリップと顔を合わせて、叫び声が聞こえる方へ向かった。すると、そこにはとんでもない光景があった。

 なんなんだ、あの動物は……

 四本足で、全長が五メートルほどある動物は鋭く大きな牙をさっきの罪人六人に向けていた。

 これは、動物よりも化け物と言った方があっている。

 化け物の名にふさわしいくらいにおぞましい姿だ。

「ち、近寄るなー!!」

「グゥアアア!!!」

「た、助けでー!! うわあああああ!!」

 あの化け物は罪人の一人を喰っていた。

「……」

 その場にいる全員が絶句した。

「逃げろー!!!」

 誰かが叫ぶ。しかし、化け物は一人喰った後、また一人と襲い掛かって喰っていた。

「おい、流朗! 早く俺たちも逃げるぞ!」

 血相を変えたフィリップの言葉に頷いて、私たちは逃げる。

 逃げる間も罪人たちのおぞましい悲鳴が一人、二人、三人……風と共に耳に入り込む。

「はぁ、はぁ、もう少し行ったら、洞穴がある。はぁ、はぁ、頑張ろうぜ」

「ひゅーはぁー、ひゅーはぁー」

 伝わっているか分からないが、『うん、がんばろう』と、口から漏れる息で返事をする。

 だが――

「グゥアアア!!!」

 ――化け物の声が後ろから聞こえてきた。

 声の大きさからして、こっちに近づいているのが分かった。

 頑張って洞穴に向かっても、到着する前に2人とも喰われてしまう……

 私はそう考えた。

 そんな時に、フィリップは

「流朗、もしもの時、俺があの化け物を引き付けるから、その時は先に逃げてくれ」

 は? 何を言って……そんなことできるわけがない……

 私は一人で走って逃げるどころか歩くことができない。

 顔を横に振り、フィリップの言葉を否定した。

「いいから逃げてくれ」

 それでも、私は顔を横に振る。

 そんな時、

「グゥアアア!!!」

 後ろを振り向くと、遠くの方だが化け物がこちらに向かって走ってくるのがみえた。

「ふぅー、ここまでか……君一人で逃げるんだ」

 フィリップの肩に置いている私の手を引きはがそうとした。

 な、なにやってるの!?

 引きはがされまいと、私は必死にフィリップの肩を力が入らない手で掴む。

「流朗……いや、桐島先生、あなたは生きるべき方です」

 え? 今なんて……

「ここは俺が引き付けます! 早く洞穴に逃げてください! そのまままっすぐ行ったら洞穴があります!」

 フィリップはそう言うと、私が掴んでいた手を無理矢理にはがした。

 言われた通りに私はまっすぐに走った。

『ありがとうございました……桐島先生……』

 そんなフィリップの最後の言葉が背後から聞こえたような気がした。

 化け物から逃れるため、必死で走りきったおかげで洞穴に到着することができた。

 身の安全を確信した後、力が抜けるようにバタリと地面に倒れた。

 ああ、もう動けない。体が重くて、動けない。

「……」

 死ぬのか……

 だんだんと体の感覚がなくなってきた。

 この場所でこの体とおさらばか……

 フィリップ……ありがとう……

 ……みなさん、どうか無事で生きてください。

 心の底から願う。

 すると――


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