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俺はJKを助けたいのか、それとも助けられたいのか  作者: 酉 真菜
第1章:世界と世界の交錯の始まり
12/40

第12話:アニメ道、始めます

「MRユシマに来たぞー!」


 俺は3人を引き連れ、MR. Yushima Amusement Parkにやってきた。

 3人に驚きの表情は見られない。おそらく、どんなことが体験できるのかよく知らないのであろう。

 MR. Yushima Amusement Parkは湯島駅から徒歩10分のところにあるガラス張りの10階建ての施設である。

 外からMRを楽しんでいる人たちがよく見える。

 完成から3か月経っているが、6か月先までチケットが取れないといううわさも聞く。

 俺は竿田にもらった関係者用のPASSを取り出し、大通りに面する自動ドアを抜けた。


 俺が自動ドアを潜り抜けることを感知して、目の前に大きな空中スクリーンが現れる。

 スクリーン上に女性が現れると、チケットをお見せくださいと言った。

 俺は手に持っている関係者用PASSを軽くスクリーンの方へ押し出した。

 誤ってスクリーンを通り越してしまったが、どうやら認証されたらしい。

 スクリーンが消えると、俺たちの方にロボットが1台やってきた。

 俺たちはロボットについていくと、小さめの会議室に通された。

 ロボットが会議室から出ていくのと同時に、スタッフがやってきた。

 そのスタッフは、試作機のARグラスを机の上に4台置く。

 スタッフと向かい合うように座り、30分ぐらいARグラスなどの説明を受けた。

 竿田から回答フォームが送られてくるので、フィードバックは後日そこに書き込めばよいという。


「今回はアニメキャラクターとのグリーティングの体験です。皆様が今日体験してもらう作品は先日送っていただいた7作品でよろしいですね?」


「はい、大丈夫です」


 塩尻の家で俺が渡した8作品を真菜たちは見終わっていると思う。

 そのうちの4作品を含めた7作品を今回は選択した。

 みこが俺の方へ振り替えると、また意外にも不服そうだ。

 みこが好きそうな最新デバイスが使えるというのに……。


「7作品って、みこは選べないの?」


「仕方ないだろ。俺が前に決めてしまったのだから」


「まあ、いいけど……」


 みこは目の前にあるARグラスをいじり始める。お願いだから、壊すなよ……。

 今回の試作機は画質や遅延がかなり改善されているという。

 搭載されているエウダイモニアの正確な能力値がわからないこともあり、処理が軽めのARグラスが現在では使われている。

 マイナーチェンジであることは確かだが、MRにおいて臨場感を担う要素は生命線でもある。最新型を体験できる機会が得られて幸運だとしか言えないだろう。

 持つべきは友だな……。


 ARグラスを俺たち4人はかけると、会議室を出た。

 出るとそこは、黒い壁が入り組んでいる場所だった。

 ばらばらといるARグラスをかけた人々以外には、何か印があるわけでもなく、イスのような、はたまたテーブルのような箱や、なんだかわからない曲線のものなどが置かれていた。

 スタッフの案内された場所に着くと、グラスが勝手に起動する。

 目の前にあった人工的で殺風景な部屋が瞬時に、町中の風景となる。

 建物の中にいるはずなのに、目の前は大通りで車が多く走っている。

 道路脇のカフェのテラス席で様々な人が談笑していた。

 雲一つない青空の下で、車が行きかう風を感じながら、歩き出してみる。


 俺は3人のことをすっかり忘れ、その『街角』の探索を始めてしまった。

 カフェのほかにカラオケ店や花屋、オフィスなど豊富なバリエーションの店が構えてある。

 ジュエリー店の隣には、『異世界』というレストランか喫茶店のような外観の建物があった。

 俺は、その『レストラン異世界』に興味を持ち、試しにその扉を開けてみた。


 扉をくぐると、そこはまた別の街角の様だった。

 今度は、道にレンガが敷いてある。簡単に木で組んだ露店が数多く並び、馬の代わりにドラゴンが荷馬車を引いていた。

 そう、ここは本当に『異世界』なのだ。振り返ると、そこには『レストラン異世界』とほとんど同じ店構えをした『現代』という店があった。

 どうやらここが世界の出入り口になっているようだった。


 俺はもう一度『現代』に戻ると、3人は道の反対側にいた。

 ここはかなり交通量が多い。横断歩道以外の場所ではわたりづらく、また信号無視もできなさそうだ。

 俺は横断歩道を渡って、道路の反対側に向かった。

 目の前には、小さな公園があった。その真ん中には桜が咲いている。

 そういえば、こちら側は照り付ける日差しというより、春のあたたかな陽気を感じさせてくれた。

 小鳥たちが高い声でさえずっている。道端に咲くタンポポがそよ風に吹かれて、小さく揺れていた。


 3人は、その公園ベンチに座り、ある女の子と話しているようだった。

 その女の子とは、まさに『神巫女物語』の乃々ちゃんだった。

 近くで見ても、誰が実在して、誰がバーチャルな存在なのかわからない。


 俺が話している4人に近づいていく。

 すると、奥の滑り台の裏から、青年が現れた。

 こちらを凝視している。そう、彼は乃々ちゃんの兄、高橋だ。

 せっかくなので、乃々ちゃんは後回しにして、高橋と話すことにした。


「うぃーす、高橋」


「なれなれしいな。初対面の人にその態度はないだろう。乃々と話させるわけにはいかないな」


 鋭い目つきでこちらを見ている。俺のことが気に食わないらしい。

 これは2期が終わった後の高橋だ。1期初めのほうの高橋なら、デュフフッと笑っているか、語尾がござるとなっている。

 それに見た目は、髪の寝ぐせが直っておらず、もっと猫背で話すだろう。


「すいません、ちょっと知り合いと勘違いしてしまったもので……」


「チッ、どいつもこいつも俺をなめた態度を取りあがって……」


 こんな風に最初の方は険悪なムードだったが、話しているうちにかなり仲良くなれたと思う。しゃべり方も元オタクが隠せなくなってきている。


 聞くところによると、ここにいるキャラたちは客一人一人についてそこそこ覚えているという。

 本当にそこに人間がいるかのように、印象が強い客ほど次回来た時に覚えてくれているという。

 実際にキャラが実在するかのようにふるまってくれるというメリットがある反面、一度悪い印象を持たれるとリセットできないというデメリットも存在しているのだ。


 しばらく高橋と話した後、3人と乃々の会話に加わった。

 十分会話を楽しんだ後、俺と真菜たちはその公園を後にした。

 道なりに歩いていくと、老舗の定食屋があった。

 俺たち4人はそこで、昼食をとることにした。

 店の中に入ると、キャラとの相席か別席か選べる。

 せっかくなので相席を選ぶと、俺は定食屋の一角に『おっちゃんは魔法使い』のおっちゃんとイブキが食事をとっていた。

 彼らと食事を共にしてみよう。


 俺と真菜たちは注文を頼むと、俺はさっそく隣のおっちゃんに話しかけてみた。


「あの……最近どうですか?」


 俺みたいなコミュ障にとってみれば、上出来なのかもしれない。

「最近どうですか?」なんて話しかけるのは、自分でもかなりヤバい人だと思うが、少なくともおっちゃんに話しかけることはできた。


「最近ですか……」


 おっちゃんは俺から目をそらし、おっちゃんの食べているナポリタンに目を向ける。

 店の中をぐるっと見回し、その前に座っている女子高生イブキに視線を向けた。

 わかる、俺がおっちゃんだとしたら、イブキに視線でヘルプを出すだろう。

 イブキは少しため息をつくと、


「この人、人見知りのところあるからごめんねぇ」


 英利羽は俺を見つめると、イブキの方を向いて話し始める。


「この人もコミュニケーションまともにできないから。気にしないで!」


 英利羽は俺の背中をドンドンと叩く。もうちょっと叩き方ってもんがあるだろ、痛い……。

 すると今度はみこが手を挙げた。


「アッサラームアライクム!」


「アッサラームアライクム!!」


 ――――――パンッ!


 みことイブキがハイタッチする。

 カオスだ。この席はカオスだ……。


 みことイブキがなぜか熱い視線で見つめあっている。何か通じ合ったものがあるらしい。

 実際、アニメの中でもイブキはアッサラームアライクムを挨拶としてよく使っていた。

 この挨拶のおかげか、みことイブキを中心に話が盛り上がっていった。

 しばらくすると、俺が注文していたハヤシライスがくる。

 ハヤシライスのいい香りがする。隣には小さいサラダが置かれていた。

 スプーンですくって食べてみる。おいしい……。ARグラスで見ているものなのにおいしい。

 グラスを外したら、芋虫のスープで作ったさなぎご飯のハヤシライスでないことを願う。

 定食屋を出た後も、俺たちはいろいろな店、世界に入り存分に今回のグリーティングを楽しめたと思う。


 最初のカフェテリアに戻ってくると、ARグラス上に「退出しますか?」という文言が出てきた。俺は小さく「はい」というとグラスに映し出されていた景色はなくなり、元の無機質な部屋になっていた。

 時間はもう夕方の18:00だ。8,9時間はMRの世界にいたのだろう。

 最新のデバイスだからか、VR酔いも全くない。

 さっきの会議室に赴くと、ARグラスを返却した。


 少し挨拶をした後、俺たちは空中ディスプレイのあった出口に向かう。すると、出口から少し太った眼鏡の男が入ってきた。

 真菜が空中ディスプレイを越えたとき、その男は話しかけてきた。


「おー、グラスかけていないのにもうARが始まっているんだな。真菜ちゃん、よろしくね」


 その男は真菜の手を取ると、握手をした。真菜は少しのけぞって苦笑いをしている。

 俺は、真菜のところまで行くと、男の顔を見た。

 男は顔をしかめる。

 俺は真菜の手を取り、その男の手を優しく真菜の手から引き離した。


「人違いですよ。ここはまだエントランスなので、目の前に出ているディスプレイからチケット確認してください。では」


 俺は真菜の手を強引に引き、MRユシマから出た。

 英利羽とみこは俺の後を急ぎ足で着いてくるしかできなかった。


極秘調査報告書 12

MR. Yushima Amusement Park

株式会社MR Parkが運営するAR体験施設。千代田線湯島駅から徒歩10分で着くことができる。コンセプトとして、「普段コンタクトを取れない相手とも気軽に会話できるテーマパーク」を掲げている。歴史上の人物や著名人、アニメキャラクター、バーチャルライバーなど様々な方と会話することができる。MR. Yushima Amusement Parkに搭載されたエウダイモニアの処理によって、実現できている。この施設は10階建てだが、とても構造が複雑になっているため、実際はその2倍以上の床面積があるのではないかといわれている。その一例として、AR上で横断歩道を設けることで、交通整理により同じ空間を異なる仮想空間に分割することが可能になっている。

(ツーヨルゥ協定世界調整機構ミスリム山脈収容所所蔵)

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