第52話 最強の末裔
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「―――――では以上がジグルス遺跡の地下迷宮調査での調査結果の報告ですか。…アスモ嬢の見解ではあの水晶竜も地獄門の放つ魔力に誘われて呼び寄せられたという事か?成程、確かに地獄門に怪物が呼び寄せられると言う報告は過去にも事例がある…」
アスモの報告に思慮を重ねた末、納得したような表情でモレッツが静かに頷く。
「多分、妾もその可能性が高いと思うのじゃ、…うまうま♪…でなければあのような場所に現れるとは思えぬ。妾の報告はこれで全てなのじゃ、もう帰っても良いか?うまうま♪」
応接室のソファーに腰をかけたアスモはテーブル一杯に置かれているケーキを幸せそうな表情で頬張りながら報告を行っていた。
「はい、アスモ様の報告はしかと記録しましたのでこれで結構です。但しお帰りになるのはもう暫くお待ちください。これから当ギルドからの報告があります。――今回の「天災」を退けた件で中央大陸にあるギルド総本部にアスモ様のS級昇格をギルド長モレッツと私、支配人ルゴスの連名で推挙しておきました。そして新たに報告頂いた「地獄門」封鎖及び上位悪魔バフォメット討伐も追加で後程、報告を行います。物証もお持ち帰りいただいておりますのでアスモ様の昇格に異議を唱える者は居ないかと思われます。」
モレッツに替わって今度はルゴスがS級昇格についての説明をアスモに始めた。
「おおっ!そうかそうか。これで妾もS級冒険者か…意外と簡単じゃったのう。これからはどんな依頼でも受ける事が可能か。報酬も上がるのう、クフフフフ♪うまうま♪」
S級昇格確定の報告に笑みを浮かべながらケーキを頬張り更に口角を上げる。とても無邪気で幸せそうな表情をしている。
「依頼に関してはアスモ様ならばS級依頼であっても特例としてお受けいただいて構いません。只、申し訳ありませんがS級の昇格の決定に関しては手続きに時間が掛かりますので最低でも一月は待って頂く事になるかと思われます。」
「何と、一月もかかるのか!?――うまうま♪」
その言葉に一瞬眉をピクリと動かしたが、ケーキの美味しさが勝っているのかその表情に不機嫌さは一切感じられない。
「申し訳ありません。S級の管理についてはギルド総本部が行いますので我ら地方ギルドでは口出しが出来ません。但し、アスモ様の昇格は間違いないので史上最速、最年少でのS級の昇格となります。」
ルゴスが頭を下げ陳謝の言葉を告げた。
「ふむぅ…まあ、仕方あるまい。一月位は我慢するかの、それから妾は史上最年少と言う肩書など別に気にしておらんからどうでも良いのじゃ。うまうま♪――ふぅーー、喰った喰った。やはりケーキは美味しいのう、いくらでも胃袋に入ってしまうのじゃ♪」
アスモは大人しくその謝罪の言葉と報告を受け入れた。本来のアスモであれば文句の一つは言っていただろうがこれもケーキの効果なのか?それにしてもテーブル一杯に置かれていた十数個のケーキをアスモは、あっという間に平らげてしまった。そして満足そうな顔をして余韻に浸っていた。
「ルゴス君の申した通り、S級昇格に関しての説明は以上になる。――さてアスモ嬢、今度はギルドとしての頼みなのだが今回君が手に入れ証拠品として預けて貰った戦利品をギルドに譲ってはくれないだろうか?無論、相場通りの金額は支払おう。「紫水晶竜の竜麟」、「バフォメットの首」、「奈落の残滓」の全てがとても希少価値の高いアイテムなのだよ。」
モレッツがアスモに戦利品の引き取りに関しての交渉を始めた。
「すまぬがそれは出来ぬ相談じゃ、希少なアイテムだからこそ妾も簡単に譲る事は出来ぬ。魔道具なども怪物の素材や魔法結晶などを使って作成するのじゃろう?それにお主らも先程、妾が「導きの珠」を譲って欲しいと言うたら希少な魔道具だから駄目じゃと断ったではないか。多分アレも怪物を素材にしておるのじゃろう?」
アスモはモレッツの要望に意見を伝え、首を横に振って拒否の態度を示した。
「…確かにアスモ嬢の仰る通りですな。希少価値の高いアイテムを簡単に譲って貰えるなどと烏滸がましかったな。こちらの身勝手な申し出をお詫びする。」
アスモの言葉に納得したのかモレッツが謝辞を述べた。
ふん、妾の頼みを断っておきながら何故こちらが主らの頼みを聞いてやらねばならぬのじゃ?人間如きが調子に乗るでないわ!
……いや、待てよ。「バフォメットの首」、「奈落の残滓」は貴重じゃが、「紫水晶竜の竜麟」はいくらでも手に入るのではないか?結構な値で売れるのであれば売り払って今後の世界征服資金の足しに出来るではないか。
今回、回収したのは3枚…じゃが、主殿の装備にも使うてやりたいから便宜上、一枚は手元に置いて使用したと見せねばならぬ。ならば二枚は売り払うとするか?
一応、買値だけは聞いておくかの。まあ、どちらにしても簡単に譲るつもりは無いのじゃがな…
「そう畏まらずともよいぞギルド長、考え直したのじゃがこれから世話になるギルドの頼みを無碍にするのも少し気が引けるのじゃ。買値にもよるが「紫水晶竜の竜麟」については三枚ある内の二枚は譲っても良いと考えておる。まあ、滅多に手に入らぬ貴重品じゃからそれなりの額はすると思うがのう…」
「それは本当かね!?では一枚に付き金貨1,000枚でどうかな?二枚で金貨2,000枚支払わせて頂こう!相場も大体それぐらいかと思われるが。」
「売ったあぁぁーーー!!!」
予想を遥かに上回る高額の提示にアスモは身を乗り出し即決の声を上げた。
「おお、売って下されるか!!感謝しますぞ。――只、今回の「天災」よる脅威が確実に無くなったと公国中に布告するのは2,3日後を予定しており、それまで役所や銀行が閉鎖となっておりましてな。申し訳ないが支払いに関しましては2,3日お待ち頂きたい。」
交渉成立に安堵した様子のモレッツも笑みを浮かべて代金の支払いに関しての話を伝える。
「別に構わぬのじゃ。しかし鱗一枚で金貨1,000枚とは…そこまで価値があるものなのか?」
「そうですね。仮に「紫水晶竜の竜麟」が死骸から採った物ならば相場は金貨200~300枚位ですね。しかし今回アスモ様が持ち帰ったのは魔力の通っている新鮮な竜麟、武具などに加工すれば最低でも伝説級の武具を生成する事が可能な代物です。まして上位竜種である水晶竜の希少な亜種の竜麟です。通常は手に入る事など無い代物…その希少性からすればギルド長が提示した金貨1,000枚の価値は十分あります。」
「紫水晶竜の竜麟」の相場に関しての説明をルゴスがモレッツに替わってアスモに始めた。
「成程のう……じゃあもう一つ質問するがこの「紫水晶竜の竜麟」は何枚あっても同じ価格で買い取ってもらえるのか?」
何かを思いついたような顔をしたアスモがルゴスに更に質問を続ける。
「勿論、何枚でも同じ価格で買い取らせて頂きます。それに希少アイテムとしてだけでは無く、その美しさから美術品や置物として欲しがる好事家も居るでしょうし需要はいくらでもあるでしょう。――しかし何故そのような事をお聞きになるのでしょうか?まさか……」
その質問を聞いて嫌な予感を感じ取ったのかルゴスがピクリと眉を動かした。
「うむ、高く売れるならば奴が逃げ込んだ山まで行って鱗を剥ぎ取りに行ってやろうかと―――」
「駄目です!!今度こそ「天災」を刺激する事により公国に被害が出る可能性があります。申し訳ありませんが如何にアスモ様とは言え、もう一度アレと戦って撃退が出来るとは思えません。ご自重ください!」
アスモの話しを遮るようにルゴスが力強い声で止める様に叫んだ。
「ルゴス君の言う通りだ。アスモ嬢、それは流石に勘弁して下され。」
慌ててモレッツも制止しようとアスモを説得する。
ちっ!別に戦う事など無くポチに頼めば何枚でも手に入ると言うのに面倒な話じゃな。まあ、今の妾のレベルでは紫水晶竜に勝つ事は不可能と思われても致し方あるまい。
ならば好事家や商人に裏から流すか?……しかしギルドを通さず市場に流し、更に職能を使って流通経路が分からぬ様に細工をしたとしても出所として妾が疑われる事になる可能性は高い。そうなってはギルドとの約束を守らず公国を危険に晒したと難癖つけられてS級冒険者の昇格を反故にされてしまう可能性だけでなく最悪の場合は妾が紫水晶竜と通じておる事が疑われる事もあるやもしれんのじゃ、それは困る。妾だけでは無く主殿にも迷惑がかかってしまう恐れがある事は今は出来ぬのじゃ。
……仕方あるまい今回は我慢しておくかの。
「―――むぅ…つまらぬのう。じゃが公国の為と言われては仕方あるまい、今は我慢しておくのじゃ。」
アスモはそつなく演技をこなし少し不機嫌そうな顔をしながらも納得したような素振りを見せる。
「ご理解頂けた様で感謝いたします。―――それから先程、アスモ様の所望した「導きの珠」の件についてですが、あれは「単眼魔牛」と言う怪物の巨大な眼球を加工して作る魔道具です。お譲りしたいのはやまやまなのですが、単眼魔牛自体が希少なのとその厄介な能力の為に中々倒すことが難しい怪物なので市場にも中々出回りません。」
渋々とは言え要望に了承したアスモに感謝を述べた後、ルゴスがアスモが欲しがっていた「導きの珠」に必要な素材についての説明を始めた。
「厄介な能力?そ奴は強いのか?妾を楽しませる事が出来るのか?」
厄介な怪物と聞いて単眼魔牛が自分を楽しませる事が出来るかもしれないと考え、アスモは期待の瞳でルゴスを見つめる。
「いや、流石にアスモ様の足元にも及ばないレベルです。大体レベル40前後くらいかと…只、単眼魔牛の瞳には石化能力がありましてその瞳で睨んだ者を石化し喰らうと言う習性を持っております。レベルは40前後ですがA級冒険者でも手を焼く危険な怪物です。だから公国では討伐に動く者が居なく他国から回ってくる品物をオークションで落札するぐらいでしか手に入らない希少アイテムなのです。」
「ふーん、レベル40前後に石化能力ねぇ…まあ、妾には無意味じゃな。で、そ奴はどこに生息しておるのじゃ?」
少し残念そうな顔をしながらも更に詳しい説明をルゴスに求めた。
「確か生息地は…トルキア山脈の中腹とガオラ山岳地帯の山頂部に生息しております。但し、今は行く事をお勧めしません。トルキア山脈は竜神が現れてから山脈の怪物の気性が荒くなった報告を受けておりますし、ガオラ山岳地帯はあの紫水晶竜が逃げ込んだ国境付近にあります。流石のアスモ様でも簡単にはいかないと思われます。」
「そうか…忠告は感謝する。――あと報酬の事なのじゃが…」
「申し訳ありませんが現在、ギルドには金貨300枚は保管されておりません。今回のジグルス遺跡の地下迷宮調査における依頼の成功報酬は明日に王宮から頂く事になっておりますのでお待ちください。」
「うむ、それは構わぬ。只、今回の先遣隊であるシンシアともう一人の生き残り…そして亡くなった者達の家族にも多少の手当てを出してやって欲しいのじゃ。あ奴らが居なければ今回の事件を解決する事は出来なかったじゃろうからな。もしかしたらもっと最悪な事態になっておったやもしれぬ。」
そして再び心にもない偽善の言葉をその場に居る全員に伝える。
「何と!そこまで考えているとは……感嘆しました!ギルド長、私はアスモ様の意見に賛成です!」
思いがけない言葉にルゴスは再びアスモを称賛しその提案を支持した。
「うむ、ワシも文句など一切無い。アスモ嬢の譲歩により元々の報酬よりもギルドには多額の収入が入る事になっておる。――アスモ嬢、この件はこのモレッツが確約させて頂く、ご安心して下され。」
モレッツもそれに同調するように頷き、アスモに対してその提案を確約した。
「それは重畳じゃ♪妾の提案を応じてくれた事を感謝するぞ。さて、以上で終了ならば妾はもう帰らせて貰うのじゃ。――あっ!?……すまぬが金を少し貸してくれぬか?先程シンシアに財布ごとやってしもうたから無一文になってしもうたのじゃ。明日の報酬から引いて構わぬから金貨一枚ほど貸してくれんか…ダメか?」
アスモがモレッツ達に上目遣いで可愛らしくおねだりをした。その仕草と表情にその場に居た全員が簡単に魅入られてしまう。
「がはははは!!何も問題ありませんぞ、私の持ち合わせている分で良ければいくらでもお貸ししましょう!金貨一枚ですな?少しお待ちを―――さあ、どうぞアスモ嬢。」
アスモの要望に応えてモレッツが財布から金貨を一枚取出し手渡した。大金であるが故に持ち合わせが無かった為モレッツしか手渡せなかったのだが、一瞬で彼らを虜にしたその表情は持ち合わせがあれば全員が思わず財布ごと差し出してしまいそうになるほど強力なものであった。
「感謝するのじゃ、では失礼する。――ああ、それからケーキ美味かったのじゃ♪馳走になったぞ。」
金貨を受け取り上機嫌のアスモが礼の言葉を述べて腰かけていたソファーから立ち上がる。
「――アスモ様、お待ちください!」
退出しようと席を立ったアスモをルゴスが引き留めた。
「……何じゃ、まだ用があるのか?」
少し不機嫌そうな顔をしながらアスモが返事を返す。
「お引き留めして申し訳ありません。最後にもう一つだけ、アスモ様の職能についてなのですが近日中にでも教会に行って儀式を行いクラスチェンジをしてみてはどうでしょうか?確実に今の職能よりもグレードアップした職能を得る事が出来ると思われます。今後の仕事に置いても影響があると思われますのでお勧めします。」
「ふむ、職能のクラスチェンジのう……承知した。近日中に教会とやらに出向いてみる事にしよう。助言感謝するぞ支配人よ。――では今度こそさらばじゃ!」
何か思うところがあるのか、ふと何かを考えるような仕草をしながら別れの挨拶をルゴス達に告げ、アスモは部屋を出た行った。
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「ふぅー、本当に凄い子供でしたね。」
「しかし、レベル103とは驚きましたな。ここまでのレベルの上昇…これが「先祖返り」の力なのか?」
「いや、それだったとしても眉唾物だぞ。こんな話聞いた事も無い。」
アスモが退室した応接室でギルド幹部達がアスモについて話をしていた。
「まあ、君たちがアスモ嬢の偉業に対して耳を疑うのも分かるが、ワシとルゴス君は「千里眼」で彼女があの紫水晶竜を撃退したのを目の当たりにしておる。アレは紛れも無い事実であり奇跡であった。」
未だに信じられないといった表情を浮かべる3人の役員達に対してモレッツが今回の出来事が嘘偽りのない事だと強調し伝える。
「………ええ、ギルド長の言う通り間違いありません。そして彼女のレベルの上昇や強さ等についても私の仮説が確かならば皆さんも納得が出来ると思います。」
モレッツに続いてルゴスも事実であると肯定する。そして神妙な面持ちをしながら先程から考え込んでいたアスモの事に対しての主張があるとその場に居る全員に告げた。
「支配人の仮説…ですか?」
「それは面白そうだ。話を聞かせてくれんかルゴス君。」
「はい、では私の仮説を申し上げます。……彼女はあの魔王バルバトスの末裔だと思われます。」
「「「魔王バルバトス!?」」」
ルゴスの発した「バルバトス」と言う名前を聞いた途端、その場に居た全員が驚愕の声を上げ顔を引き攣らせた。
「ルゴス君…その名は禁忌の名前、そしてその末裔については既に絶えた…いや、滅ぼされた筈だ。」
ルゴスの口にした禁忌の名前を耳にした瞬間、モレッツの緩んでいた表情が神妙な顔に変わる。そしてルゴスを真剣に見つめて話しかけた。
「ええ、確かにギルド長の仰る通り、かの魔王バルバトスは竜神により倒され、その末裔は闘神教により全て根絶やしにされたと言われております。……しかし、皆様ご存じの通り、魔王バルバトスの子を孕んだ愛妾がこの北のアルガルズ大陸に落ち延びたとの言い伝えがあるのをご存じでしょう?そしてその時に産まれた子孫が生き残っているという噂が未だにこのアルガルズ大陸に根付いている事を…」
「……ふむう、確かにワシが生まれる遥か前から言い伝えられている伝説と言うか逸話でもあるが、あくまで伝説、それこそ眉唾物の話だぞ。」
考え込むように眉を持ち上げ首を傾げながらもモレッツがルゴスの持論をあくまでお伽噺だと強調しながら否定する。だが、言葉では馬鹿にしながらもその表情はその事実を信じたくないと言った様な渋い表情をしていた。
「ですが、彼女のあの実力をどう説明するのです?彼女は間違いなく魔人です。ギルドの「真実を視る水晶球」で「能力隠蔽」による隠ぺい工作があるかを確認をしましたが、その形跡すらありませんでした。それから彼女の能力は如何に姿が完全に魔神に近いとは言え、若干8歳の魔人にしてはあまりにも強力すぎます。ですが彼女の先祖が只の魔神ではなく魔王級であるならばあの姿も実力も全てが納得出来ます。そしてそれがあの史上最強と謳われし魔王バルバトスならば尚の事…」
反論の声を否定する様にルゴスはアスモについて思慮を巡らせ辿り着いた独自の主張を続ける。
「最強の魔王か…但し、最悪の魔王でもある。800年以上前の話だが、嘗て魔王バルバトスは三人の闘神すらも退け世界を恐怖の底に叩き落とした存在…そして人の手では手に負えなくなった時にかの妖精王女の説得により動いた伝説の竜神により討滅された魔王…そのレベルは600を優に超えていたとも聞く。確かにアスモ嬢が魔王バルバトスの末裔ならばあの異常な実力も魔力も頷ける。あの威風堂々とした風格や子供とは思えぬ知性を感じさせる言葉遣いからして今回の大戦でヴェノア帝国に故郷を追われた高貴な家のご令嬢や亜人種の隠れ里の姫君ではないかとは思っていたが……ルゴス君の言う通りあの噂が真実であったという事なのか?」
訝しげな表情をしながらもルゴスの話した主張に思い当たる節があるのかモレッツは顔を顰めて真剣に考え込む。
「しかし、それが本当ならば危険です!そう言えば先程、ハンズ殿にも殺すぞなどと言っていましたな。」
「そうです!あの最強最悪の魔王の子孫が生きていたとなれば闘神教が黙っていませんぞ!」
「我らではあの娘は手に負えません。中央大陸の闘神…いや、S級冒険者を手配して対処せねば…」
モレッツの様子を目の当たりにした役員達もルゴスの話が妄言では無く真実なのかと思い込み不安な表情を浮かべる。そして最悪の事態を回避する為についてアスモの対処について各々の意見を述べ話し合っていた。
「ふざけるなっ!!何を馬鹿な事を言っているのだ貴方達は!!」
アスモを処分するかのように話を進めている様子を見て怒りを露わにしたルゴスが役員達を一喝した。
「「「っ!?」」」
3人の役員達は普段温厚な支配人であるルゴスが激昂している事に驚き、その迫力に気圧され唖然としていた。少しの間その場に沈黙が流れる。
「――良く聞いて欲しい、今の話はあくまで私の仮説…例えそれが真実であったとしても彼女に何の罪があると言うのだ?貴方達は見聞きし感じた筈だ!彼女の功績とその慈愛を持った清らかな心を…邪な心を持つ者が己の身を顧みずに「天災」に立ち向かって誰かを守る事など有り得ない!まして亡くなった者達やその家族の事を心配などする事も無い!――それにハンズ君に関しては完全に彼が悪いのは一目瞭然です!あの行為を放置していた我々大人たちが恥ずべき事案ですよ、彼女を責める事など筋違いだ!!」
ルゴスが肩を震わせ感情をあらわにしながらアスモの潔白を主張し自分達こそ嘆かわしいと怒りの声を上げ彼らを非難した。
「――まあまあ、少し落ち着きなさいルゴス君。さて諸君、ルゴス君の言う通り仮にアスモ嬢がそうであったとしても彼女に罪など無いのは明白である。確たる証拠も無いのに彼女を責める事など出来ないよ。それに彼女はまだ小さな子供だ。我々大人が手本となり正しい道に導いてやれば立派な冒険者になるだろう。いや、あの誠実さや優しさを持っていればワシらが居なくても素晴らしい大人に育つだろう。ワシらは彼女の成長を温かく見守っておれば良いのだ。良いな、この事はこの場に居るワシらの胸の内にしまっておくのだぞ。」
先程まで考え込んでいたモレッツが間に入りルゴスを宥めながら役員達に対して今後の対応に関しての意見を伝える。
「……そうですね、親の罪を子が背負わなければならないという事でさえ馬鹿馬鹿しい話なのに子孫が800年前の先祖の罪を償わなければいけないなんて事は全くありませんね。まあ、彼女が本当にそうだとも限りませんし。」
「それに彼女は公国にとって最重要人物とも言える存在…何よりも正義感も強く素晴らしい才能に恵まれた大器でもあり当ギルド最強の冒険者だからな。まして魔神の子孫であることが罪ならば全ての魔人が該当する事になる。」
「もし彼女に邪な心があるならば既に王都は陥落しているだろうな。そしてそれが可能なほどの実力者でもある。仮定の話で混乱していた我々大人が恥ずかしいものです。」
ルゴスの戒めの言葉とモレッツの意見を聞いて説き伏せられ冷静さを取り戻した役員達がその言葉に納得するように各々の意見を交わし頷く。
「うむ、皆納得してくれたようで良かった。あとルゴス君、この話は議事録から抜いておいてくれたまえ。流石に総本部に報告する訳にはいかんからな。それにここでの話は部屋に展開してある「消音結界」によって外へ洩れる事は無い。」
「議事録の件は承知いたしました。それに皆さんも納得してくれたようで何よりです。私も混乱させてしまうような話をして申し訳なかった。この通り許して頂きたい。ギルド長の言う通り彼女が何者であっても我々が冒険者の見本として導けば良いだけなのです。皆さん、A級冒険者が4人もいなくなり大変な時ではありますが新しく大きな希望が現れた事を僥倖として、これからもこのギルドを繁栄させる為に頑張っていきましょう!」
「「「ルゴス殿の意見に我ら一同賛成する!!」」」
役員達はルゴスの提案を支持し、それに呼応する。そして全員がアスモの出自や経歴に関しての仮説、そしてこの場で出た話の内容の全てを自分達の胸の内にしまい口外しない事を心に誓った。
アスモを正しい道に導くといった敵わぬ夢物語に陶酔している彼らが件の悪魔王よりも遥かに凶悪な魔神王の掌の上で踊らされているだけの愚かな道化だと気付く事は永遠に訪れる事は無いだろう。
そして手を取り合い協力を誓う彼らの話を部屋の外で見聞きしながらフフッと笑みを浮かべ嘲笑する存在が居た事など知る由も無かった。
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クフフフフ…甘いのう、妾の前では「消音結界」など無意味じゃ、しかとこの目と耳で聞いておったぞ。
それにしても妾が魔王の眷属じゃと?…本当に阿呆じゃのぉ、妾自身がその魔王なのじゃ!しかも人間界におった悪魔王如きの雑魚とは次元が違う魔神王アスモデウス様なのじゃ!!
まあ良い、阿呆共の仮説とやらに乗っかってやろうではないか。率直に魔王の子孫であると公表するのでは無く、やんごとなき身分の姫君としてその雰囲気を醸し出すように行動すれば良いのじゃ。さすれば阿呆共も妾に尊敬と畏怖の念を抱くであろう。
丁度良い、ポチを妾の従者兼護衛として扱う事にしよう。明日落ち合った時に新たな設定の打ち合わせをせねばならぬな。
ああ面白い♪妾の芝居にまんまと騙されて勝手に踊る愚かな人間共の姿は実に滑稽な事じゃ♪これからも妾を楽しませて貰わねばな。クフフフフ♪
それにしてもバルバトス?……はて?どこかで聞いたような名じゃったが………まあ良い、思い出せぬという事は大した事でもあるまい。最強と言っても人間共にとっての事で所詮、竜神とやらに敗北しおった悪魔王の事じゃ。妾の足元にも及ばぬ雑魚などどうでも良い事じゃな。
ギルド受付近くの椅子に腰かけながら話を盗み聞きしていたアスモが口角を上げニヤリと嗤っていた。
「アスモ様、どうかなされましたか?」
心配そうな表情を浮かべながらでセレナがアスモの顔を覗き込む。
「ん?いや、何でも無いのじゃ。それにしてもお主の買ってきたケーキは最高に美味かったのじゃ!帰る前に礼を言っておこうと思ってな。」
「気に入って頂けたようで良かったです。また美味しいスイーツの店をピックアップして教えて差し上げますね!それからシンシアさんは客室でお休みになっておられます。」
「うむ、シンシアも落ち着いたか。それは重畳じゃ。それからケーキの件は楽しみにしておるぞ♪では妾はこれで帰る、さらばなのじゃ!」
「「「本日はお疲れ様でしたアスモ様!!」」」
受付嬢や職員たちに見送られながら手を軽く振り挨拶を送り返してアスモはギルドを後にする――
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「ふぅーー、喰うた、喰うた!やはりプリンが最強じゃのう♪本当に美味かったのじゃ!ついつい10個も喰うてしもうたぞ。それに土産も色々と沢山買ったし主殿にも少し分けてやるとするかの。それから今日の依頼や実験の成功についても話さねばならんからのう。丁度、家の方に気配を感じるから帰ってきておるようじゃし、土産と報告を聞けば主殿も喜ぶじゃろうて。クフフフフ♪」
日もすっかり落ちた夕暮れに両手一杯の荷物を抱えたアスモが満足そうに笑みを浮かべながら主の待つ自宅への帰路を辿っていた。
「――さて、家に着いたは良いがドアを開けるのに両手が塞がっておっては無理か。わざわざ荷物を下ろすのも面倒くさいし尻尾で開けるか……よっと、ほいっ!」
大事そうに荷物を抱えながら自宅前に到着したアスモはドアにお尻を向けて尻尾を使い器用にドアを開けた。
「主殿~、ただいまなのじゃ!主殿の可愛い可愛いアスモが今帰ったぞ♪早う出迎え―――主殿っ!?どうした主殿!何があったのじゃ!!」
玄関の扉を開けたアスモの視界に映ったのは廊下で倒れているゼフォンの姿だった――




