第19話 誤解と反省
「「「院長先生ただいまー!」」」
「ただ今帰りました院長先生」
子供達とマヘリアがグレイヴ院長に帰宅の挨拶をする。
「はい、みんなお帰り。買い出しご苦労様。」
グレイヴ院長は皆に労いの言葉をかける。
「院長先生あのねー、今日悪い奴らにマルスお兄ちゃんとクレアちゃんが虐められて危ないところをアスモちゃんが助けてくれたって」
「ホントだよ。アーちゃんが助けてくれたの。すっごくカッコ良かったの!」
子供達やクレアが今日起こった事のいきさつを院長に説明した。
「-そんな事があったのか。マルスとクレアは大丈夫だったかい?」
「院長先生ごめんなさい。喧嘩は良くないって言われてたのに相手の挑発に乗って皆を危険な目に合わせてしまった。しかも俺…皆を守らなくちゃいけないのに…一人じゃ守れなかった。」
マルスが先程の事を思い出し落胆している。
「何を言ってるんだ、相手が手を出すまで我慢していたじゃないか、そして弟や妹たちを逃がそうとしたマルスの勇気は大したものだよ。今回はアスモちゃんに感謝しなければいけないね。」
「うん、アスモには本当に感謝している。でも俺ももっとみんなを守れるぐらい強くなりたい。だから決めた事があるんだ!」
マルスは何かを決意したようだ。
「そうか‥でもあまり無理をしてはいけないよ。暴力は本当はよくないのだから。」
院長はマルスの決意を受け入れながらも危険な事はしな様に諭す。
その様子をアスモはじっと観察していた。
何が「そんな事があったのか…」じゃ、惚けおって狸が!
最初から「千里眼」で様子を視ておったであろうが。
アスモはその事に疑問を覚えながら院長を睨む。その視線に院長は気付きアスモに話しかけた。
「アスモちゃん、ちょっといいかな?先程の件で少し話したいことがあるのだが。」
「…良かろう。」
「院長先生、アスモちゃんを怒らないで!」
「アーちゃんを怒っちゃヤダ!」
子供達が必死にアスモの擁護をする。
「ハハハ、心配ないよ。今日の件のお礼と少し話したい事があるだけだよ。怒る事なんて一切無いから安心しなさい。逆に謝らなければいけない位だよ。」
院長がやさしく説明し子供達を安心させた。
「じゃあ、アスモちゃん院長室まで来てくれるかな?」
「承知した。」
アスモと院長は院長室まで向かって行った―
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「さあ、そこのソファーに座ると良い。色々と話があるようだしね。紅茶でも淹れようか?」
「では所望する、あと話をすると言う事は今回の件は惚けるつもりは無いようじゃな?こちらからはいろいろと質問があるからの。」
院長は出来上がった紅茶をカップに注ぎアスモの前に置いて自身も向かい側のソファーに腰かけた。
「…私の話せる範囲なら全て話そう。」
神妙な顔をしているがアスモの質問に答える気があるようにみられる。
「では、まずは何故「千里眼」で監視していた?普段から子供達の監視をしているのかそれとも妾の事を見ていたのかどちらじゃ?」
「…子供たちの様子を視ていたと言うのが本当の事だが君の監視をしていたと言うのも間違ってはいない。君には悪いが君が確実に子供達に危害を加えないと確証が持てなかったと言う事が本音だよ。でも君は子供達を助けてくれた。本当に感謝している、ありがとう。」
「そうか‥だがそれは結果論だな。大事なら何故、子供達が危険になった時に助けに行かなかった?」
「ゼフォンが君に子供達を守る様に依頼してあると聞いていた。だから少し様子を見ていた。結果、君はゼフォンの依頼通りに子供達を守ってくれた。それに子供の喧嘩程度なら私は直接行く事は無い、マヘリアも居るしね。何かあれば念話でマヘリアに連絡するつもりだった。あの子も人間としては高レベルに達しているからね。最悪の場合は私が行く事になっただろうけど。」
「ふむ、マヘリアのレベルは24の職能は魔導師と治癒士じゃったな。確かに今日の糞餓鬼共では問題にもならんな。」
「そういえば君の職能に鑑定士があったね。ならばマヘリアの能力はお見通しだったか、それから君の能力は私も拝見させてもらったよレベル68…公国で君に勝てる者はいないね、いくらゼフォンが召喚した存在とは言え召喚者であるゼフォンよりも強力な存在だ。だから警戒していたんだよ。」
「警戒ね‥別に警戒せんでも気に入らなければ妾を仕留める事など容易いじゃろ?本気のお主ならな。」
「本気?何を言っているんだい?確かに私はマヘリアよりもレベルが高いが君やゼフォンには遠く及ばない筈だけど…」
「多分お主は自分よりレベルの低い妾が自分の能力を変更しておる「能力隠蔽」を見抜く事が出来ないと思っておるのじゃろうな。じゃがお主の本当の能力はこの孤児院に来た時既に見ておるぞ。」
「…なっ!」
先程まで冷静に対応していたグレイヴ院長はアスモのその言葉に驚愕し動揺を隠せないでいる。
「妾には「能力隠蔽」を無効化する力があるのでな。これは冗談ではないぞ、何なら貴様の本当の種族でも言ってみようか?」
「―本当に「能力隠蔽」を見抜いたみたいだね。‥この事はゼフォンには言っているのかい?」
「いや、言っておらん。じゃが、正直妾もお主の事を信用していない。先程の子供達の件理解できたが、何故お主は先日の戦争の時に主殿を助けに行かなかったのじゃ?子供達は大事でも「待たざる者」であった主殿はお主にとって必要ない存在か?いや、子供達が本当に危険な目にあってもその時は助けに行くのか?」
バンッ!!!
「馬鹿にするな!!そんな訳が無いだろう、私にとってゼフォンも子供達も変わりなく守りたい大事な存在だ!!」
院長は激高し強く机を叩いた。だがすぐにハッとした表情になり我に戻った。
「すまない、少し興奮してしまったようだ。信じてくれとしか言いようがないが本当に私はゼフォンを見捨てるもりなど無かった。しかし、途中で諦めてしまった事も事実だ‥」
「先程も言ったが、ならば何故助けに行かなかった?お主が本気を出せばあの戦場に居た竜種どころか帝国の司令官の竜人ですら簡単に屠れたはずじゃ。そう考えれば妾にはお主が主殿を助けるつもりなど無かったと思えるぞ。何か理由があるなら言うてみよ。」
院長の真の実力見抜いているアスモからすれば彼が本気で戦争に参戦していれば帝国軍を撃退出来たかもしれないのに参加せず、そして家族であるゼフォンを見捨てたと言う事に対し不信感を持っているのだ。
しかしこれはアスモの思い込みでもある。
「…言い訳するつもりは無いが正直情けない話でもある。だが真実を話すよ。―――」
院長はあの時に何があったかを真剣な目でアスモを見つめ語りだした―
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「そ、そうかー、それは大変じゃったな。うん、ならば仕方がないなー」
アスモは院長の話を聞いてから様子がおかしい。言葉は棒読みになり冷や汗をかいているようだ。
その内容はこうだった。
戦争が始まった時、院長は戦争で不安になっている子供達を安心させる為に孤児院で皆の様子を見る事になったが戦場に居るゼフォンの事も心配し「千里眼」を使い戦場の様子を視ていた。
3日間の戦闘でゼフォンはその実力を発揮し問題無く闘っていた。
そして帝国軍の援軍が現れ竜種が投入された時は危険だと思ったが、彼が戦場に行く前に無理はしないように注意し、そして危険ならば孤児院まで逃げて来るようにと告げていたのでゼフォンもその場は退却するであろうと思っていた事もあり油断していた。
だが予想は外れ家族を守る為にゼフォンは竜種に突撃し戦闘を開始した。
院長は急いで戦場まで向かったが王都から戦場までの距離は遠く、院長の脚力をもってしても数十分はかかってしまう。
しかし、彼は諦めず戦場に向かった。
そして移動しながら「千里眼」を発動した時に異常が起こった。
何者かの妨害によって「千里眼」を発動しても戦場を視る事が出来なくなったのだ。
そしてその直後に空が紅く染まり日食が始まった―
つまり戦場に向かう途中でアスモ(魔神王アスモデウス)が召喚されたのだ。
何者かの妨害は解除されず降臨した存在を「千里眼」で視る事も出来ない上に肉眼でもほど遠い距離があった。
しかし遠く離れていても感じる圧倒的、いや絶望的な力と体の奥底から湧き上がってくる恐怖に身体が硬直してしまった。
ゼフォンはもう助からない―
そう諦めてしまいそうになったが、院長は一縷の望みを捨てる事が出来ず大事な家族を守る為に己を鼓舞し、恐怖を何とか克服して戦場に向かった。
だが、近づくにつれ見えてきた天を衝く巨大な金色の竜神が目に入った時、戦場の中心から広がってきた漆黒の闇の壁に吹き飛ばされた。
身動きが出来ないほどの重傷を負い、その場で気を失ってしまったのだ。
そして彼が目覚めた時はグエン平原は何も無い更地になりトルキア山脈まで消失していた。
その時彼はゼフォンを助ける事が出来なかったと後悔していたが、孤児院でゼフォンの無事を聞いた時に安堵し涙が出るほど嬉しかったとアスモに説明した―
こ奴の眼に嘘は無い、こ奴は主殿をちゃんと助けに行っておったのじゃ。
ふむ、冷静に考えても妾の思い込みであったようじゃな。
どうしよう…言い過ぎてしまった手前、今更前言撤回じゃ!とは言えんぞ。
というかこ奴を怪我させたのは妾の「暗黒の獄」ではないか、当たり所が悪かったら死んでおったぞ。どう考えても妾のせいではないか!
どうするのじゃ?主殿にばれたら怒られるかもしれんの。それに召喚された存在が妾であると言うのは絶対に秘密じゃからのう、まあこ奴もアジ・ダハーカが召喚されたと思っておる様じゃし、このまま黙っておくのも手じゃな‥
しかし、このままでは流石にこ奴に悪いぞ、それとなく謝るか?
「まあ、この通り情けない話だが本当の事なんだよ。‥信じてくれとしか言えないがね。」
院長はばつが悪そうな顔をしている。
「いやいや、うんうん。そうじゃったかー、先程は妾も言いすぎてしまったのう。大丈夫じゃ妾も信じるぞ、うん、信じておるぞ。なんせあの金色の竜王は凄かったからのー、妾も主殿も必死で逃げ出したくらいじゃ。全然情けなくなど無いぞ、うんうん、あれは怖かった。――ごめんなのじゃ。」
アスモは必死にごまかそうとしているが相変わらずの棒読みと目が泳いでいた。そして密かにボソッと謝った。
「そうか、君もゼフォンと一緒にあの場所にいたんだったね。それは大変だっただろう、君達が無事で本当に良かったよ。」
院長はアスモが話を信じてくれた事に安堵したようだ。ちなみにアスモの囁きのような謝罪は聞こえなかったみたいである。
「‥お主、お人よしにも程があるの。誤解とはいえお主を責めた妾に文句を言っても問題など無いのじゃぞ。」
「お人よしか‥そんな事は無いよ。実際、ゼフォンが戻ってきたら孤児院の皆を連れてこの国を捨てて他国に逃げるつもりだったからね。大切なのは家族の事だけで公国を守ろうなんて事は最初から考えて無かったからね。」
「それは仕方が無い事じゃな。この孤児院は公国から援助を受けていないと主殿から聞いておるからの。何も与えず見返りを求める方がおかしいのじゃ。」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。…他に質問はあるかな?」
「いや、お主の人となりは理解出来た。「能力隠蔽」で能力を変更しておるのは過去に何かがあったと言う事じゃろうな、そこまで根掘り葉掘りしつこく問いただす気もない。じゃが、お主には主殿が魔力を使えるようになったと言う事はここに来た時に伝えたじゃろ?」
「ああ、聞いたし、その場で彼の能力も確認したからね。」
「では言っておくが、いずれ主殿は「鑑定士」の職能を会得する事になる。そしてその時はお主の「能力隠蔽」は見破られることになる。それだけは覚悟しておくとよい。ばれる前に話すかどうかはお主の自由じゃ。」
院長はアスモの目をじっと見ている。そして何かを感じ取ったようだ。
「‥嘘ではないようだね。ゼフォンが魔力を使えるようになったのは君のおかげと聞いている。ならば私の。「能力隠蔽」を見抜く力を彼が使う事が出来るというのも本当の事だろうね。…その時まで時間は少しあるだろうから考えさせてもらうよ。」
「そうじゃな。好きにするとよい。あと妾から助言じゃが主殿はお主が正体を隠しておったとしてもお主に対する態度を変える事は無いと思うぞ。無論ここにいる孤児たちも含めてな。何せ皆がお人よしじゃからな」
「そうだね。皆、私の自慢の良い子達だったね。ありがとうアスモちゃん、気が楽になったよ。」
「そうか、ではこれで話は終わりじゃな。…いや、一つ聞き忘れていた事があった。何かが召喚される前から何者かの妨害で「千里眼」が発動しなかったと言っておったがそれは誰が行ったかはわからぬか?」
アスモは自分が召喚された際に何者かの思惑で魔方陣が細工されていたことを思い出していた。
「誰かまでは分からないが、間違いなく精霊が干渉していたと思う。何故精霊が妨害したのかはわからないが…何か問題でもあったかな?」
「いや、そんな事は無いのじゃ。ただ少し気になったものでな。」
精霊?ふむ、では犯人は奴ではないようじゃな。奴は精霊を使役することは出来ん筈じゃからな。
では一体誰が魔方陣に細工をしたのじゃ?もう少し落ち着いてから調べてみるとするか。
謎は深まったが、当初から犯人ではないかとして考えていた候補が違うと確認出来た事についてある意味ほっとしていた。
「さて、今度こそ終わりじゃ。…それから表で聞き耳立てとる奴らには聞こえないように室内に防音結界を張っておったから問題はないぞ。」
「えっ!ははは…本当に君は何者なんだい?」
院長は驚いていたが、アスモの気配りに感謝しているようだ。
「妾か?無論、魔人アスモじゃ!」
そう言ってドアを引いた。
「「わー!」」
「危ないから押すなって!」
「でも、アーちゃん怒られてるかも…」
「院長先生は怒らないって言ってたよ」
ドアのそばで聞き耳を立てていた子供達がドアが開いたと同時に院長室に押し出されてきた。
「はあ…お主ら何やっとんじゃ?」
「いや、あのさ…」
マルスはばつの悪そうな顔をしている、
「アーちゃんが心配だったの!怒られてない?」
クレアは相変わらずアスモの心配ばかりしている。
「大丈夫じゃ、別に怒られてはいない。それより感謝されたぐらいじゃ。さてと、夕食まで寝るとするか。」
「ちょっと待ってくれアスモ、いやアスモさん。」
「アスモ…さん?何じゃお主、何か変な物でも食ったのか?いや、さっきの喧嘩で頭の打ちどころでも悪かったか?治したはずじゃが、どれもう一度診てやろう。」
「いや違うんだ、大事な話があるからこっちに来てくれるか?」
マルスは何かを決意したように真剣な表情をしている。
「‥まあ、良かろう」
アスモはマルスの後を歩き孤児院の裏までついて行った。
随分と真剣な顔をしておるのう、まあわからんでもない。
こ奴も妾の魅力の虜になってしまったのじゃな。仕方あるまい、全て妾が悪いのじゃ、この姿でも可憐で美しい妾がの。
しかし、こ奴には可哀想じゃが現実の厳しさを教えてやらねばならんな。妾は貴様には絶対に手の届かぬ高嶺の花じゃと。
マルスは立ち止まりアスモに向かって深く頭を下げた。
「アスモさん!俺を弟子にしてください!お願いします!!」
「‥はあ?」
「今日は俺は何も出来なかった。アスモさんがいなければクレア達が大怪我をしていたかもしれない、同年代には負けない自信があったけど、それは只の驕りであることを自覚したんだ!だから強くなるために俺、いや僕を弟子にしてください!!!」
マルスはさらに土下座をする。
「アーちゃん、私も弟子にしてください!!強くなってアーちゃんを守れるようになりたいの!!」
クレアもつられて土下座をした。
「待て、待て!取り敢えず土下座はやめい、皆が見ておるぞ、ほら立たんか。」
子供たちが自分に土下座している光景に流石に焦り立ち上がらせようとした。
「弟子にしてくれるまで立ちません!」
「クレアも!」
2人は頑なに拒む。
「お前らいい加減―ん?」
念話が頭の中に響いた。
『2人とも真剣なようだし、すまないがお願いできないかな?』
『院長か、本気で言っておるのか?』
『帰ってきた時からマルスは決意をした表情をしていたからね。そしてクレアは純血種のダークエルフだから狙われる可能性があるんだよ。身を守る術を教えると言う事でお願い出来ないかな?才能は一番あると思うからね。かといって今の私が教えるわけにもいかないし、ゼフォンも仕事で無理だろうから、もし良ければここにいる間だけでもお願いできないだろうか?』
アスモは少し考える。
妾が弟子じゃと?確かに主殿は魔法を覚えさせる必要がある故、教える事になっておるが、こ奴らまで教えてやる義理など無いはずじゃ。
しかし、院長の頼みでもあるしの…なんせ院長を怪我させたのは妾であった上に誤解とはいえ罵ってしまったからのう。
ふう、仕方あるまい。
『分かった、お主の顔を立てるとしよう。』
『ありがとう感謝するよ。』
アスモはため息をつき2人に向かって声をかけた。
「わかった、わかった、弟子にしてやるから立ち上がらんか。」
「本当か!…いや、ですか?」
「アーちゃんありがとう!」
2人は満面の笑みで喜んでいる。
「お前ら強情すぎてしつこいからのう、但し、弟子にするからには厳しく指導する事になるぞ。音を上げるようなら破門にするからそのつもりでおれ。」
「はい!分かりました師匠!!」
「クレアも頑張る!アーちゃ…ししょー!!」
師匠か‥中々いい響きではないか。
「よし、今日は夕方じゃから明日からお主達の指導をしてやろう。良いな?」
「「はい!」」
アスモに人間界で初めての弟子が出来た瞬間であった―




