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第18話 子供の喧嘩

 

「アスモ、気にするな、早く行くぞ。ホラお前らも。」

 マルスが少年たちを無視するように歩き出そうとしたが少年達がアスモ達の道を塞ぐ。


「待てよ、貧乏孤児共。」


「待つつもりも無いし急いでいるから退いてくれないか?」


「嫌だって言ったらどうする?」

「ハハハ、駄目だよベン君、ガキ共泣いちゃうんじゃね?」

「こいつらスゲエビビってるよ。ハハハ」

 ベンと言うリーダー格の少年と腰巾着2人が絡んでくる。



 こ奴らが非人間種を差別している奴らか?いや、それどころか孤児たちを卑下して見ているようじゃ。

 見た感じこのバカ面3人の方が妾には下等に見えるけどのう。

 さて、どうするか?主殿ぬしどのにはあまり目立つなと言われておるし、暫し静観してみるか。



「冒険者になりたいんだってな?どうだお前の腕を見てやろうか?」

 リーダー格のベンがマルス達に近づいてきた。

「別に必要ない。通してくれるか?」

 マルスは冷静に答えた。

「嫌だって言っただろ。通して欲しかったら土下座して有り金全部置いて行けよ。」


「断る。」


「何だと!コラァ!!」

 子供達がベン達の恫喝に怯え震えている。

「お前達、大丈夫だから俺の後ろに居ろよ。」

 マルスが子供達に優しく言って落ち着かせようとしていた。

「甞めてんじゃねえ!」

 腰巾着の1人がマルスにいきなり殴りかかって来た。

 マルスは相手の右拳を上手く躱して腰巾着にボディーブローを放った。

「ぐうっ!」

 腰巾着1はその場に膝をつき悶えている。

「喧嘩はするなって言われているんだ。だから引いてくれないか。」

 マルスがベン達に告げる。

「結構やるじゃねえか。じゃあ、俺が相手してやるよ。」

 ベンがゆっくりとマルスに近づいて行く。

 マルスは警戒して構えを取るがその一瞬でベンがマルスの間合いに踏み込み右の拳でマルスの顔面を殴る。

「ぐわっ」

 マルスは後に少し吹き飛び体勢を整えようとしたがベンはその隙を逃さず追い打ちをかけてくる。

「おら。おら、おらあ!!!」

 ベンの拳がマルスに次々と当たりその衝撃と痛みにマルスは2メートル程、吹き飛ばされ倒れ込んだ。

「…ぐ、うう…」


「どうした?冒険者になりたいんだろ?こんな程度で良く言ったな。貧乏人の孤児が。」

 ベンが嫌味に笑って馬鹿にしている。

「ハハハ、ベン君は騎士養成学校の学年で1番強いんだぞ。なんとレベルは9だ。そこら辺の下手な兵士よりも強いんだぞ。」

 腰巾着2がベンの強さを自慢する。


「「「マルス兄ちゃん!!!」」」

 子供達が泣きながらマルスの心配をする。

「…いいから、お前達は早く逃げろ!!」


「でも…」


「早く行けー!!」

 マルスが必死に叫んだ。

「…わかった。すぐにお姉ちゃん達に知らせてくるから!」

 子供たちも必死なマルスの言葉を聞き入れ集合場所まで走り出した。


「おい、お前らガキ共を逃がすなよ!特に亜人のガキ共はな!」

 ベンの言葉に腰巾着2が反応し、腰巾着1の方を見る。

 だが腰巾着1はマルスの攻撃が効いているらしくまだ動けない様だ。

 仕方なく腰巾着2は子供達を追いかけようとした。辺りを見回しそして逃げずにその場から微動だにしない一人の子供を見つけた。

 それはアスモだった。アスモは腕を組み何かを考えているようだった。



 何じゃ、奴め先程から「千里眼クレアボヤンス」で監視しておる様じゃが、この状況でも結局見ておるだけか?子供達の監視かと思ったが助けに入る様子も無いぞ。

 それとも妾がおるから動かぬだけか?



「何だコイツは?逃げてないぞ。もしかしてビビってるのか?ヘヘヘ。」

 腰巾着2がアスモに近づこうとしていたその時―


「アーちゃん危ない!」

 クレアが腰巾着に体当たりをした。しかし8歳のクレアの体当たりでは15歳ぐらいの腰巾着2には効かず、びくともしなかった。

「イテエな、この亜人の糞ガキが!」

 腰巾着2がクレアの腕をつかんだ。

「止めろ、止めてくれ!土下座でも何でもするから妹たちを助けてくれ!」

 マルスが必死に頼む。

「今更土下座だと?嫌だね。こいつら亜人は下等人種だから何をしても問題無い、孤児の1人や2人大怪我させても揉み消してやるさ。おい、お前その亜人のガキ共を殴れ。」

 ベンの言葉に腰巾着2が掴んでいるクレアに向けて拳を振り上げた。

「止めろ―!!」

 マルスが叫んだ―


 ゴキ、ゴキン


 鈍い音がした。

「アレ?」

 腰巾着2の両手が逆方向に曲がっていた。

「ぎゃああああああ!!!!」

 腰巾着2が断末魔の叫びをあげる。

 そこにはクレアを抱えているアスモが居た。

「アーちゃん、大丈夫?」

 クレアはこの状況でもまだアスモを心配しているようだ。

「大丈夫かはこちらの台詞じゃ。怪我は無いかクレアよ?」


「うん、掴まれた腕がちょっと痛むだけ。」

 クレアが掴まれた右腕をさする。少し痣が出来ている。

「痣が出来ておるな。ちょっとここに居ろ。動くでないぞ。」


「うん、でもアーちゃん…」

 クレアはまだアスモの心配をしていた。

「だから、心配いらんと言っておる、妾の実力をほんの少しじゃが見せてやろう。」

 アスモがベンの方を見た。

「ぎゃああああああ!!!!」

 腰巾着2は未だ断末魔の叫びをあげ転げ回っている。

「うるさいぞお前。」

 アスモが腰巾着の喉に軽く蹴りを加えて喉を潰した。更に両膝を蹴り両足も逆方向に曲げる。

「~~~!!!」

 激痛に声を上げたいが、喉が潰れてまともに声が出ない。腰巾着2はあまりの激痛に失禁しそして失神した。


「さて、次はお前じゃ、糞餓鬼。子供の喧嘩の内は手を出すつもりは無かったが、お前らのやり方は限度を超えておる。実に不快じゃ。今からお前らには死なん程度に地獄を見せてやる。暴れるなと言われておるが流石の主殿ぬしどの家族・・を傷つけられては妾を怒る事もあるまい、元々孤児院の者を守るように言われておったしの。」

 アスモがゆっくりとベンに近づいて行く。


「調子に乗ってんじゃねえぞ亜人の糞ガキが!さっきも言ったようにお前らぐらい殺した所で揉み消す事も出来るんだぞ。良いじゃねえか、やってやるよ!」

 ベンが腰に差していた剣を抜いた。そして剣先をアスモに向けた瞬間―


 ベキ!


 アスモが眼にも止まらぬ速さでベンの間合いに入って剣を持った右手を手刀で折った。剣が地面に落ちる。

「ぎゃ…」


 ベキ、バキ、ゴキ、グシャ


 ベンが叫ぶ間を与えず一瞬にして連撃を加え残りの手足と喉を潰した

「~~~~!!!」

 立つ事も出来ずにその場に崩れ落ちベンは声にならない悲鳴を上げる。腰巾着2とは違い、激痛による失神はしない、いや出来ない様だ。

 アスモは左手でベンの髪を掴み持ち上げて右手の人差し指と中指をベンのそれぞれの眼窩に引っ掛ける。

「このまま指に力を入れれば目玉が飛び出るぞ。やってみるか?」

 アスモが冷酷な笑みを浮かべる。

「~~~!!!!」

 恐怖により顔が引きつりブルブルと震え出す。ベンの股間の部分が染み出しチョロチョロと地面に液体があふれ出していく。

 ベンは痛みでは無く恐怖により失禁してしまった。アスモの言葉が冗談ではなく本気であると確信したからだ。

 そしてアスモがベンの眼窩に引っ掛けている指を突っ込もうとしたその時―


「アーちゃん止めて!」

 クレアがアスモを制止した。

「そうだぞ!アスモ、もう止めるんだ!」

 マルスも傷ついた体を引きずりながら止めに向かってくる。

「お主らは何を言っておるのじゃ?この屑共は妾どころかお主らを傷つけようとしたのじゃぞ、しかもこの屑は殺意を持っておったぞ。妾がおらねばお主らは殺されていたかもしれんのだぞ、何故止める?」

 アスモには2人が止めに入る理由がわからなかった。

「俺達は大丈夫だからもう止めるんだ、これ以上やったら死んでしまうぞ!」

「アーちゃん、もう十分だよ、もし殺しちゃったらパパやママを殺した悪い人達と一緒になっちゃうよ。」

 マルスとクレアは尚もアスモを必死に止めようとしている。



 何を甘い事を抜かしておるのじゃこ奴らは。己に牙を剥いた相手に対して慈悲じゃと?ましてやその価値も全く無い屑共に。

 貴様らはともかく妾に対して剣を向けたのじゃ、殺して何が悪い下等な人間や亜人如きが魔神王デヴィルロードである妾に意見するなど許されぬことなのじゃぞ!



 アスモは止めようとしている2人に対して苛立ち始めた。

 すると、クレアがアスモに近づき右手を掴んだ。

「…アーちゃん怖い顔しちゃダメだよ、こんな人達のために悪い子になる事なんて無いよ、いつものアーちゃんに戻ってよう…グスッ」

 クレアは瀕死のベン達では無くアスモの事を心配しているようだ。


 こ奴は自分の事より妾の方を心配しとるのか?難儀な奴じゃな。

 ちっ、興が削がれたわ。

 これ以上問答したところで意味は無かろう、それに殺すと主殿ぬしどのにバレた場合、ややこしい事になっても困る。

 それに先程から「千里眼クレアボヤンス」で監視しておる奴も今は敵に回したくないしの。


「分かった、こ奴らへの仕置きはこれくらいにしておいてやろう。これで良いな?」

 アスモは眼窩に引っ掛けた指を外し、ポイッとベンを投げ捨てた。

 地べたに転がったベンはその場で激痛により痙攣している。


「…グスッ、本当?」


「本当じゃ、じゃから泣き止まんか。」


「うん!」

 クレアは涙を拭いて笑顔をアスモに向けた。


「なあ、コイツら放っておいても大丈夫なのか?死んだりしないのか?」

 マルスが地面に転がるベン達の状態を見て心配している。

「大丈夫じゃ、こんな事では死なんぞ。-あっそうじゃ、一応、屑共に忠告しておくか。」

 アスモは地面に落ちていたベンの剣を拾い上げ、仲間達の凄惨な状況を見て震え上がっている五体満足の腰巾着1に近づいた。

「ひいっ!」

 殺される―

 剣を持ち近づいて来るアスモを見て腰巾着1は恐怖に顔を引きつらせている。


「おい、よく聞け貴様。」


「は、はいいぃ!」


「妾は主の頼みによりこの者達を守るように言われておる。じゃから今後、意趣返しやこの者達や関係者に危害を加えた場合は確実に殺す。分かったか?」


「わ、わかりました!!だから、命だけはお助け下さい!!」

 腰巾着1は必死で命乞いをした。

「よかろう、そこで虫のように転がっとる屑共にも伝えておけよ。約束を破ればこうなるからの。」

 アスモは左手に持っていたベンの剣を右手の人差し指で弾いた。


 ボンッ!


 ベンの剣は粉々に砕け散った。粒子となった破片が光を反射しキラキラと輝いている。

「ひいいぃっ!」

 腰巾着1は鋼の剣を指一本で粉砕したアスモに恐怖し、失禁してしまった。


「なんじゃ、お前等は?小便ばかり漏らしおって、汚い奴らじゃのう。そう言えばお前達は妾達を殺した所でもみ消せると抜かしおったが、妾はお前達の存在そのものをこの世から消す事が出来るから覚えておけよ。「爆炎(エクス・プロード)」」

 アスモが左手に魔力を込めると小さな爆発が起こり持っていた剣の残骸が瞬く間に消し炭になった。

 最小限に力を抑えてはいたが高位魔法を発動したのだ。


「ひいいいい!!分かりました、しっかり伝えておきます!もう2度と貴方様達には逆らいません!約束いたします!!」

 腰巾着1は必死に懇願する。鋼の剣を一瞬にして消し炭にする力を目の当たりにしたのだ。

 流石にその実力が桁違い、いや人外の領域である事ぐらい馬鹿でもわかる。


「‥マジか」

「アーちゃん凄い!」

 マルスは驚愕したがクレアは尊敬のまなざしでアスモを見ていた。


「さてと、帰るかの。おっと、その前にお主ら動くなよ「治癒の波動(ヒーリング・ウェイブ)」」

 アスモが中位の治癒魔法を発動し2人の傷を一瞬にして治す。

「怪我が一瞬で…っていうか何で治癒魔法なんか使えるんだ?最低でも僧侶モンク職能スキルが必要なはずだぞ。」

「腕がもう痛くないよ!アーちゃんありがとー」

 マルスはアスモが只者では無い事を理解した。そしてクレアは嬉しそうにアスモに抱き付く。

「こら、引っ付くな!」


「えへへ、アーちゃん大好き!」

 アスモはクレアを引きはがそうとしたが先程のように泣かれてはまずいと思いしばらく放置した。


「そろそろ行かないと皆が心配する。というかマッシュとメイは無事についたのか?早く確かめないといけない。荷物は俺が全部持つから走るぞ!」


「うん!」


「仕方ないのう」


 3人は待ち合わせ場所の中央広場に向けて走り出した。



 ▼

 中央広場に向かう道中でマヘリアがアスモ達を見つけ足早に近づいてくる。

「マルス、クレア、アスモちゃん大丈夫!!怪我はないの?怖くなかった?」

 マヘリアは怪我もなく無事なことを確認すると3人を抱き寄せ安堵した。

「だ、大丈夫だよマヘリア姉ちゃん、俺もう子供じゃないんだよ、恥ずかしいから離してくれよ!」

 マルスは恥ずかしそうにしているが、内心は嬉しそうだ。

「相手が他人数で殴られて怪我をしているって聞いたからすごく心配したんだけどマルスが2人を守ってくれたのね。流石お兄ちゃんね。」


「違うんだ、俺はあいつらにやられて皆が危険な目に合うところだったんだけどアスモが助けてくれて。」


「アスモちゃんが?一人で?」


「そうなの!アーちゃんが悪い奴らをやっつけたの。凄くかっこよかったよ!」

 クレアが興奮しながらアスモの活躍をマヘリアに教える。

「正直、あいつらの中の一人は本当に強くて確かレベル9とか言ってたけどアスモの前には全然相手になってなかった。正直こんな強い奴見た事も無いよ。もしかしたらゼフォン兄ちゃん位強いかもしれない。」

 マルスがアスモの強さについて説明した。

「ゼフォン兄さん位?まさかねえ。」

 ゼフォンの実際の実力とそのレベルを知るマヘリアには信じられない。何故ならゼフォンはロマリア公国でレベルにおいて3番目の実力者でもあるのだ。

「何を言っておるのじゃ、妾の方が主殿ぬしどのより強いぞ。ちなみに今の所・・・、実力とレベルはこの国では2番目じゃ。」

 アスモが自慢げに事実を言う。

「アスモちゃん流石に嘘よね?」


「そんな話嘘だろ。いや、でもあんな事が出来るんだからゼフォン兄ちゃんよりも強いかも…じゃあゼフォン兄ちゃんは今は公国で4番目になったのか?一番強いのはやっぱり公国最強の近衛騎士団インペリアルガードのシュトラウス将軍か。」


「ロマリアで2番なの?アーちゃん凄い!」

 マヘリアはいまだに信じられないが、鋼の剣を指一本で粉砕する腕力、鋼の剣を一瞬にして消し炭にする魔力、そして最低でも中位以上の治癒魔法の使い手である事を目の当たりにした2人はアスモの実力が本当にそれぐらいの強さがあると言われても納得できる状況だった。

主殿ぬしどのはちなみに現時点では・・・・・実力は国内で3番じゃ。今回の戦争でさらに強くなっておるぞ。あと確かシュトラウスとやらは4番目・・・じゃと思うぞ。」


「そ、そうなのね。アスモちゃん2人を助けてくれてありがとう。さあ皆も心配して待ってる事だし中央広場に行こうか。」

「うん。」

「はーい。」

「了解じゃ。」


 4人は中央広場に向かった。そしてそこには泣きながらマルス達に駆け寄るマッシュとメイや一緒に買い出しに来ていた孤児院の皆が心配して待っていた。

 クレアがベン達3人をアスモがやっつけてマルスと自分を助けてくれたと興奮しながら説明する。

 最初は皆が訝しげに聞いていたがマルスが本当の事だと告げるとマッシュやメイなどの小さな子供達はアスモに尊敬のまなざしを向ける。アスモも謙遜しているが悪い気はしない様だ。

 尚、3人をやっつけたと言っただけで流石に両手両足を追って喉を潰したとは流石に2人共まずいと思ったのか何も言わなかった。



 まあ、公国の1~3番目の実力者が全てグレイヴ孤児院に居ると言っても皆信じぬだろうし、あの者もわざわざ「能力隠蔽ステータス・ハイド」で実力を隠しているのじゃ、下手に喋らぬ方が良かろう。

 それに帰ってから直接聞きたい事もあるしの。


 そんな事を考えながら孤児院の皆と一緒に帰路に就いた。

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