第5話:ポンプ作り
草陰から見えるボーンボア。
全長2メートルぐらいのイノシシで、鋭く尖った一本角で攻撃してくる。
あの角の攻撃を喰らえば大怪我は免れないだろう。
「どう攻める?」
「まずは足を狙って機動力を削ぎます。俺の力じゃあの体躯は切り落とせませんから」
「いい案だ。やってみろ」
「はいっ!」
俺は草陰から飛び出し、奴との距離を一気に詰める。
「プゴ?」
俺に気づいたのか、こちらに振り向いた。
反撃する暇を与えず、奴の後ろ足に剣を叩き込んだ。
「プゴッ!?」
隙をつかれたボアは、悲鳴を上げながらも、俺に向かって反撃の突進をしてくる。
突進をかわし、もう一つの後ろ足にカウンターをお見舞いした。
後ろ足に傷を負ったボアは、立とうとするが、前に倒れ込んで立てていなかった。
動けなくなったボアの頭に剣を突き立て、確実にトドメを刺す。
すると、ボアの死体が肉と革に変わった。
「よしっ!」
戦いを終え、思わず歓声を上げた。
「よくやった!格上相手でも迷いのない動き、隙をつく戦い方。文句なしだ!」
「ありがとう、ガレス。うまくできてよかったよ。じゃあ素材も集まったことだし、帰るよ」
目的を果たした俺たちは、ミルズ村へ帰路についた。
◇ ◇ ◇
帰ってきたときには、すっかりお昼過ぎになっていた。
腹ペコだった俺たちは、すぐにミアさんの料理をいただいた。
ガレスもミアさんの手料理に舌鼓を打っていた。
その後に、ボーンボアの肉を渡すと大層驚いていた。
「ボーンボアをアルト坊ちゃんが倒したのかい?」
「作戦がうまく刺さったので、楽に倒せました」
「アルト坊ちゃんって剣術も使えたのかい?」
「まだまだですけどね」
ガレスほど……は大丈夫だけど、せめて自分の身を守れるくらいには強くなりたい。
昼食を食べ終わった俺たちは井戸の方へ向かう。
そして、井戸の前まで来た。
帰ってくる前に木材、石材、ボーンボアの革を投入して作成できる状態にしておいた。
後は唱えるだけだ。
「クラフト」
手押しポンプが目の前に現れた。
それを井戸へ配置するイメージをすると、ピッタリ嵌まった。
「一旦形にはなったな。後は動くかどうかテストしないと……」
俺は手押しポンプの持ち手を握り、恐る恐る押してみる。
すると、じゃばっと水が出口から飛び出してきた。
「よし、成功だ!」
そんな俺の嬉しい声を聞きつけたのか、ミアさんがやってきた。
「おや、うまくいったのかい?」
「はい!成功しました!」
「そりゃよかった。無駄足にならずに済んだしね」
ミアさんについてきた村人たちが、手押しポンプを不思議そうに眺める。
ミアさんは俺の頼みで、手が空いている村の人を集めてもらったんだ。
予想以上に集まってくれて、20人ほどの村人が集まっていた。
「では、実際に使ってみます!」
俺は桶をポンプの出口に置き、テストと同様にポンプを作動させる。
水が汲みあがり、桶に入る。
その光景を見ると、村人から「おおー!」という感嘆の声が上がる。
「こんな感じで、子供の力でも簡単に水が汲めます。ぜひ試してください」
そう言い、村人たちに試してもらう。
「本当だわ!全然力を入れなくても簡単に汲める!」
「ママ!すごいよ、これ!」
「おお、これ水汲みも楽になるわい」
老若男女問わず、高評価をもらえたようだ。
俺の作ったもので喜んでもらえて嬉しい。
それほど、水汲みが大変だったということなんだろう。
「アルト坊ちゃん、ありがとね。村の連中も喜んでるよ」
「村の方が喜んでくれて、私も嬉しいです」
「ほら、あんた達もアルト坊ちゃんにちゃんとお礼を言うんだよ!」
ミアさんの一喝で村人たちが俺に感謝を伝えてくれる。
「ありがとう!アルト様!」
「すごく助かります!」
「さすがアルト様!」
ここまで大勢に褒められた経験がない俺は、照れくさかった。
「ほら、あんた達、やることがないなら仕事に戻りな!」
ミアさんの一声で、解散となる。
結果、この手押しポンプお披露目会は大成功で幕を下ろしたのだった。
戻っている最中に、見知った人がいたので声をかける。
「ダンさん」
「お、アルト様。いやー、手押しポンプだったか?ありゃ便利だな」
「気に入ってくれて何よりです」
彼はダンさん。
ミルズ村の農家で、じゃがいもを育てている。
視察の時に話を聞かせてもらった人だ。
「アルト様、これから時間あるかい?」
「どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと相談したいことがあってよ……」
ダンさんは浮かない顔をする。
どうやら何かあったらしい。
「大丈夫ですよ」
「そりゃ良かった!付いてきてくれ」
そう言って向かった先は、収穫物を保管する倉庫だった。
ダンさんは、自分のエリアのじゃがいもを手に取る。
「数年前はこれの1.5倍ぐらいのサイズだったんだが……今ではこんな感じなんだ。何だか分からないか?」
ダンさんの手にあるじゃがいもは、確かに少し小さく感じる。
それにしても、どうするか……。
「やっぱり無理だよな……。すまん!忘れてくれ」
「いや、ちょっと待ってください」
俺は頭をフル回転させ、この状況の打開策を考える。
この辺りの特産品は芋やイネだ。
そして、サイズが減ったことを考えると、土が痩せているのか?
ということは……連作障害かも。
「今ってじゃがいも以外育てていますか?」
「いや、じゃがいもだけだな。前まではイネも育ててたが、今はそれだけだ」
やっぱり。
話を聞いた感じ、連作障害で間違いなさそうだな。
「多分原因が分かりました」
「お!何か分かったのか?」
「これはあくまで私の推測ですが、ここ数年じゃがいもだけ育ててきたと言ってましたよね?その影響で土が痩せ、育ちにくい環境になっているんだと思います」
「そんなことが原因だったのか……」
ダンさんが納得の表情を浮かべる。
「次からは、イネとじゃがいもを交互に植えてみてください」
「そうだな……どうせこのままじゃ、売り物にならないし、アルト様の言う通りにやってみるよ」
たぶん合っていると思う。でも外れていたらかなり恥ずかしい。
「そうだ。せっかくなら、じゃがいもを使ったおやつを食べてみたくないですか?」
「いいね。作るならうちで作ったらどうだ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
じゃがいもを少しもらって、ダンさんの家に向かうことにした。
家にお邪魔すると、女性が話しかけてきた。
「今日は随分早いね」
「いや、またすぐに戻るよ」
「そう。その子は?」
「この方がアルト様だよ」
「この子が?」
その女性は俺を見て驚いた表情を浮かべる。
「初めまして。アルト・フォン・ヴァイスと申します。今日はダンさんに、じゃがいもを使ったおやつを作りたいんです」
「私はメリア。ダンの妻よ。キッチンなら好きに使っていいから」
思っていたよりもドライな人なんだと驚いていると、メリアさんはそそくさと奥へ入っていった。
「すまんな。メリアは少し人見知りでな」
「大丈夫ですよ。それじゃあ早速作りますね」
俺はじゃがいもを茹で、皮をむき、木のすりこぎで丁寧につぶしていく。
「小麦粉を少しだけ加えて……」
全体がまとまるまでこねたら、手のひらほどの大きさに丸めて軽く押しつぶす。
「で、あとは焼くだけだ」
熱した鉄板に並べると、じゅうっと香ばしい音が響いた。
しばらくして裏返すと、こんがりと焼き色が付き、食欲をそそる香りが広がる。
完成したいももちを皿にとりわけ、ダンさんに手渡した。
おそるおそる一口かじると、次の瞬間、目を丸くした。
「こりゃ美味いな!なんていう料理なんだ?」
「いももちって言います。喜んでいただけて良かったです」
ダンさんの反応を見届けてから、俺も一ついただいた。
うん……普通においしいな。
素材の味は強いが、もちもちしててちゃんといももちだな。
食べ終えた俺は、皿を片付けようとして立った瞬間――
ゴンゴンゴンゴンッ!!
家の外からすごい音が聞こえた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回更新は、11月6日(金)17時です!




