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男爵家長男のクラフト革命  作者: シキ


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1/7

プロローグ

 時刻は深夜三時。

 カタカタとキーボードを叩く音だけが、暗いオフィスに響いていた。


「やっと終わった……」


 たまりにたまった仕事を片付けた俺は一息つこうと机に置いてあるコーヒーに手を伸ばす。

 しかし、ぐらッと視界がゆがむ。


 ああ……まずい。

 さすがに三徹で仕事をするのは無理があったか……。


 俺はそのまま机に突っ伏して、意識を失った。


 この日、俺――志藤 修、28歳。

 極度の過労によって、その人生は幕を閉じた。


 ◇ ◇ ◇


 気が付くと、知らない場所だった。

 何もない。

 ただ真っ白な空間がそこにあった。


「ここは……?」

「あなたは死にました」


 振り向くと、そこにはアニメから飛び出してきたような銀髪で黄金色の瞳を持つ美少女がいた。

 神と名乗ったその少女は、俺に告げた。


「極度の過労です。さすがに12連勤で三徹はだめでしょ」

「ですよねぇ」


 呆れた声で彼女は言う。

 まさにぐうの音も出ないとはこのことをいうのだろう。

 無理をしすぎたか……。


「そんなブラックな会社辞めないから、こうなるんです」

「でも、俺が辞めると会社が……」

「はあ、これだからお人好しは」


 仕方がなかったとはいえ、確かにもっと考えておくべきだった。


「まあいいです。今回だけは特例で、あなたを転生させます。あなたには役に立つ能力を授けておきましたから、転生後に確認してください。それじゃ、行ってらっしゃい」

「ちょ!まっ……」


 反論する前に俺の意識はシャットダウンされた。


 ◇ ◇ ◇


「まったくあのお人好しは。これに懲りてもっと自分の身を大事にしなさいよ」


 銀髪の少女がそうぼやく。


「あの日、あの世界で私を助けた唯一の人間なんだから。今世はちゃんと最後まで生きなさいよね。私の勇者」


 そう少女は微笑み、手元にある水晶玉に視線を向けた。


 ◇ ◇ ◇


 長い夢を見ていた気がする。

 ここは……?


「……ルト!アルト!しっかりして!」


 女性の悲鳴のような呼びかけが聞こえる。

 俺を呼んでいるのか?

 段々と記憶がはっきりしてきた。


 俺の名前はアルト・フォン・ヴァイス。

 アルセリア王国男爵家、長男。年齢は8歳。これが転生先の俺だ。

 不思議な感覚だ。さっきまで前世の俺なのに、しっかりアルトとしての記憶もある。


 意識も記憶もはっきりしてきたら急激な痛みに襲われる。


「痛っ……!」


 俺は今包帯をぐるぐる巻きにされてベッドで安静にしている。


「動かないでアルト。あなたはリリアを庇って魔物に襲われて、瀕死だったのよ」


 そう言って俺の手をやさしく握ってくれるのは、アルトの母親――エレナ・フォン・ヴァイス。


「知らせを聞いたときは、あなたが死んじゃうんじゃないかってとっても心配したけど……本当に無事でよかった」

「何とかね。母さん、心配かけてごめん」

「まったくよ……。あの人にも言えるけどもっと自分の身は大切にしなさい!」

「うん。わかったよ母さん」


 母さんは涙を流し、俺の手を強く握る。


「それじゃあ私は仕事に戻るから、何かあったらセバスやミアに伝えてね。あと、リリアもとっても心配してたから、ちゃんと面倒見てあげるのよ」

「わかったよ母さん。ありがとう」


 母さんは微笑んで部屋から出て行った。


「さてと、神様から何か能力を授けてもらったらしいけど……」


 俺はゲームのステータス画面のようなものが出せるかどうかを試してみた。

 すると――


「うわっ」


 目の前にブワンという効果音とともに画面が立ち上がった。

 想定していたとはいえ、急に目の前に画面が出てくるとさすがに驚いて、少し情けない声が出てしまった。

 気を取り直して、俺は画面をのぞき込む。


「えーと、《アーキテクト》。……なにこれ?」


 画面にアーキテクトというボタンが表示され、俺はそのままボタンを押す。

 すると、オートモードとマニュアルモード。二種類の画面が出てきた。

 オートモードには、「木壁」と「空瓶」二つの項目があった。


「空瓶……押してみるか」


 すると、画面が切り替わり、『材料を投入してください』と表示され、いかにも何かが入る穴が画面内に現れる。

 画面には『必要材料:砂』としか表示されなかった。

 見た感じ、砂を入れろということらしい。


「砂だけで瓶ってできないよな?」


 そんな疑問を思いながら壁も試したが、空瓶同様に木を要求された。


「材料がないから作れそうにないな……。次はマニュアルモードか」


 俺は画面を操作し、マニュアルモードに変更する。

 すると、画面いっぱいにキャンバスのようなものが広がった。


「これは……何か書くってことか?」


 キャンバスに加えて、線や円が書かれているボタンが左上に配置されている、見覚えのある画面。

 これは――CADか?前世ではよくお世話になったから、使い方はある程度分かる。

 早速、俺は機能を使って簡単に机を描いてみた。

 俺が触っていたCADと違ってマウスはないので、指で描く事にはなるが。


『図面が承認されました。【製品名】テーブル 【ランク】E 習熟度が5上昇しました』


 この表示の後に、続いて材料投入画面が出てきて、木を要求された。


 整理すると、オートモードは材料を投入するだけで、設定してある中身が作られる?

 マニュアルモードは、自分で図面を描いて、そこからオートモード同様材料を入れる。みたいな感じか。


 新しいものを作るにはマニュアルモードがよさそうだな。

 少し図面を描くのに苦戦したが、慣れたら問題はなさそうだ。

 ほかにもいろいろ試してみるか。


 ◇ ◇ ◇


 能力の確認を終え、休もうとしたそのとき――部屋の扉が勢いよく開いた。


「お兄様!」


 俺の部屋に白銀の髪を揺らして入ってきた少女は、勢いよく俺に抱きついてくる。

 俺の妹、リリア・フォン・ヴァイスだ。


「リリア。……すまないけど、痛むからちょっと離れてくれないか?」

「あっすみませんお兄様」


 リリアみたいな美少女に抱きつかれることは、前世では考えられなかったが、今はそれよりも傷が痛む。


「お兄様……本当に無事でよかったです。私のせいで……」

「リリアのせいじゃないよ。だから泣かないで」


 泣いている彼女の頭を俺は優しく撫でる。

 しばらくして。


「落ち着いた?」

「……はい。お恥ずかしいところをお見せしました」


 彼女は俺に泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、頬が赤く染まっている。

 可愛いなと思い、リリアの頭を撫でていると、ズキンと重い痛みが走った。


「ごめん……少し休みたいから一人にしてくれる?」

「わかりました。お兄様、お早い回復をお祈りしております」

「ありがとう、リリア」


 そう言って俺に向かって一礼し、リリアは去っていった。


 能力の検証をしたときは大丈夫だったのに……。

 今日は休むか……。


 そう思った俺は、ベッドの上で意識を手放すのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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