バクバクの街を歩く
部屋に入った。
窓が一つ。高い所からの眺めは確かに悪くない。
部屋にはベッドが二つあり……それだけだ。部屋の大きさもベッド二つ分とほぼ同じ。
もっとも、冒険者が宿でやることなんて寝るだけだからこれで十分なのだろう。
「メグミ、本当に良かったのか?何なら俺は街の外でキャンプするけど。」
「もうっ、まだそんなこと言ってる!私たちはパーティーなんだから一緒の部屋でいいでしょ!」
「いや、一緒の部屋が気に入らないって事ではなくて……むしろ嬉しいくらいだけど……」
「嬉しいって、お金が節約できるから?」
「あのな……前にメグミが他のパーティーに誘われたって話してただろ。私に戦う以外の何を期待してるんだって。」
「え?うん。」
「そのパーティーの男共は、ただメグミと一緒に居たかっただけなんだよ。メグミが可愛いからな。」
「ええーー?!そ、そんな事ないでしょ。」
「……よく、可愛いって言われるだろ。」
「……えっと。まあ、そう言ってからかわれる事はあるけど。」
「うん。それはな、からかって言ってる訳じゃない。本心だ。俺もそんな可愛いメグミと同じ部屋は嬉しいが……俺も男だ。思わず襲い掛かるかもしれん。というわけで、俺はキャンプする。」
「ダメ!それとこれとは話が別!」
別じゃないと思うんだが。メグミは折れそうにない。
まあ、実際襲ったら返り討ちだろう。狼3頭を苦にしない戦士相手に何ができるというのか。
なのでこれ以上は言わないことにした。
メグミは何も気にしていない、あるいは気にしていないフリをしているようだ。
俺たちは荷物を宿に預け街を歩く事にした。
メグミに異性として見ている事を告げたのは、距離を取ってもらおうと思ってのことだ。
よそよそしくなったり、場合によっては嫌われてもいいと思った。
しかしメグミに変わった様子はない。
さあ!行こう!とばかりに俺の手を取って連れ出す。
ちょっとがっかりしてしまったが、同時にホッとしている。やっぱり嫌われるのはキツイ。
街は冒険者相手の商売が半分。鉱山関係がもう半分といった所だ。
冒険者相手とは宿はもちろん、食堂、酒場、武器防具屋、道具屋、薬屋など。
鉱山関係は鉱石の問屋、製鉄所、鍛冶屋だ。木工所や皮の加工所もある。
食料の生産はほとんどやっていないらしい。
食材になるモンスターは冒険者ギルドで買い取られ、解体されて肉屋へ。皮は加工所へ卸される。
畑は見当たらない。実際畑ができそうな土地には見えないし場所もない。
山菜を取ることがあるそうだが、どちらにしても冬の間はそれらはお休みだ。
金属製品を他の街へ売り、代わりに食料を他の街から買う。そうして来たのだろう。
たいして大きな街でもないと思うが歩き回るのは時間がかかった。なぜかと言えば、街はとても入り組んだ作りになっているのだ。
別に外敵に対する防衛の意味ではない。
街の至る所にゴロゴロ転がっている大きな岩を避けて建物が建てられているので、必然的に迷路のような作りになってしまうようだ。
土地勘のない旅人にとっては不便だが、先が分からないくねくね道は歩くのが楽しかった。
歩いているうちに公園のような場所に出た。
少し広場になっていて、中央に1本の木が生えている。
大切にされているんだろう。木の周りには柵が張り巡らされている。
広場にはベンチが置かれている。俺たちはそこで少し早い昼飯を食べた。もちろんスライム団子だ。
日差しは暖かいが、この辺りは街の中心部から外れているせいか人は少ない。
メグミはよそよそしくなるどころか、むしろ距離が近くなったような気がする。ベンチに座る距離も、人が見れば恋人同士みたいだ。
もちろん悪い気はしないのだが、メグミは分かっているのだろうか。
休憩もそこそこに探索を再開した。相変わらず曲がりくねった道を行く。
スラ子が細かく分かれて周囲を調べてくれているため、立ち往生する事はない。
行き止まりに見える所でも、分かりにくいが抜け道があったりする。住民はこういった道を利用するのだろう。
別に隅から隅まで見回る必要はないのだが、俺たちはつい夢中になって歩き回ってしまった。
気が付くと日が傾いている。腹も減ったので俺たちは一軒の食堂へ入った。
「いらっしゃい!元祖バクバク亭へようこそ!好きな席に座って。」
元気な声が聞こえてくる。客の入りは3割といった所だ。俺たちは窓際に陣取った。
「バクバク」という屋号は街の名前から付けたのだろう。食べるときの擬音では無いと思う。たぶん。
テーブルにはメニューが置かれている。食事は2種類のようだ。
文字は読めないが、なかなかカラフルな絵が描いてあるので雰囲気はわかる。
一つは肉と野菜のスープかな?ジャガイモに似た根菜がゴロゴロ入っているらしい。
もう一つは炒め物のように見える。使っている食材は同じような物だ。どちらも大きなパンと水が付く。
俺とメグミは2種類あるものを1つずつ頼んだ。スラ子の分も頼もうかと思ったが目立ってしまうのでとスラ子に止められた。
料理はすぐに来る。作り置きされているのだろう。別に文句はない。
うん。悪くない。味付けは塩……だけかな?しかし肉と野菜からダシが出ている。特に野菜がうれしかった。
メグミが言うには葉野菜は高い。それも干したものしか手に入らないそうだ。
そして芋がどんな料理にも登場するという。
俺には食物繊維が必要だったんだと思う。ビタミンは……この野菜にどれだけあるか分からない。
スラ子にも食べさせる。俺の手のひらの所からこっそりと料理を取り込み、すぐに細かく砕き消化している。
栄養が欲しいわけではなく味を覚えるためだ。といってもまだまだらしい。
塩が含まれているのはわかるそうだが、味が分かるというより成分が分かるらしい。
もしかしてそっちの方が凄いんじゃないか?
パンはでかい。メグミがお弁当に持っていたような黒パンではなく、フランスパンのような感じだ。水分は少なくぱさぱさしているがスープに浸すと普通に食える。
メグミは、料理はどこで食べてもこんな感じだと言う。食堂でも自宅でも。
もちろん食堂で食べたほうが高くつくが、旅の途中で料理するわけにはいかない。




