鉱山の街バクバクに到着する
あたりが明るくなり、だんだん木もまばらになってきた。
標高が高くなったわけではないが、岩場が多くなってきている。
街道の両側にも岩が重なっている。
煙の匂いがしてきたな。と思っていると、前方に街が現れた。
二つの巨大な岩が門のようになっていて、そこに槍を持った男が二人立っている。
門の奥には建物がいくつも見える。
「よう!おはよう!」
門番が言った。
「おはようございます。ここはバクバクの街ですか?」
メグミが聞く。
「そうだ。鉱山の街バクバクへようこそ!ワルドから来たのか?」
「はい。」
「冒険者か。今は人手不足だからな。歓迎する。冒険者ギルドはまっすぐ行けば分かる。」
「ありがとう。」
すんなり通れた。俺は怪しまれることはなかったし、身分証の類を求められることもない。どこの街もそうとは限らないけど。
先にメグミに聞いておけばよかったな。
「人手不足か。メグミはそれを知っていてここに来たんだよな?」
「うん。ワルドの街の冒険者ギルドで情報を貰ったの。鉱山の仕事があるって。」
まあ、鉱山の街なんだから、鉱山の仕事だろう。
「とりあえず冒険者ギルドに行くのがいいか。詳しい話を聞けるだろう。」
「そうだね。」
バクバクの街はなかなかの賑わいだ。
明らかに冒険者と分かる風貌の人もいるが普通に主婦らしき人も子供もいる。
目立つのは背が低いががっしりした体つきの人たちだ。骨格が人間とは違うような感じ。
もしかしたらドワーフだろうか。冬だというのにそろってタンクトップだ。
街のあちこちから金属を打つ音が聞こえてくる。背の高い煙突からはもうもうと黒煙が上がっている。製鉄や鍛冶等も盛んらしい。
冒険者ギルドに着いた。街の目立つ場所にある。鎧を付けた戦士たちでにぎわっている。かと思うと、子どもやスカート姿の女性もいる。職員かな?
「まずは掲示板を見よう。どんなクエストがあるか、ここに出るの。」
メグミがそう教えてくれる。
掲示板の前は人だかりだ。
前の人の頭の間から眺めた。が、お手上げだ。全く読めん。
当然か。言葉が分からないのに文字が読めるなんて事は無い。
一応、スラ子に聞く。
「スラ子。文字は読めるか?」
「申し訳ございませんが、読めません。これから勉強いたします。」
「め、目立つことはするなよ?」
「はい。大丈夫です。」
俺は掲示板から離れ壁際に陣取った。ぼんやりと周りを見回す。
奥にはカウンターがあり爺さん婆さんが冒険者の対応をしている。
何かを買い取っている感じだ。そう言えば狼の牙はどうするんだろう?
「カヒト。サボってちゃダメでしょ!」
メグミがこっちに近づいて言った。
「悪い。俺にはこっちの世界の文字は読めないんだ。」
「フフッ。ジョーダンだよ。クエストはね、一杯あるよ。内容は鉱山で鉱石を採掘するっていうのと、鉱夫の護衛だね。」
クエストというのは別に何かを探して来いとかではなく、単に「仕事」の意味でつかわれる言葉らしい。
「護衛?何かに襲われるって事か?」
「モンスターが出るんだって。トンネルアント、クリスタルバット、鉱石スライム」
「鉱石スライム?ただのスライムじゃなくて?」
「うん。まあ、ただのスライムも出るだろうけど、それは別に襲ってくるわけじゃないから。」
「鉱石スライムは襲ってくるわけか…… とりあえず俺たちは護衛のクエストをするのか?」
「そう思ってたんだけど……思ったより報酬が安いんだよね。」
「そうなのか。」
「自分で護衛しながら、鉱石採掘するのが理想なんだけど。」
「……俺たちなら、護衛はスラ子に任せられると思うけど。」
「そうだね。……とりあえず牙ウルフの素材を売っちゃおうか。」
「ああ。」
メグミは俺を連れて奥のカウンターの列に並んだ。
「メグミ、ギルドに登録とか、しなくていいのかな?」
「素材を売るだけなら要らないよ。登録してないと受けられないクエストとかもあるけどね。」
「メグミは登録してるの?」
「うん。まあ、今の所役に立ってないけど……」
俺たちの番が来て、狼の顎をカウンターに置く。
「買取をお願いします。」
「はいよ。見せてもらうよ。」
カウンターの爺さんが言った。好々爺といった感じだったが素材を見る目は鋭い。真剣そのものだ。
「傷もなくて状態はいいね。上顎もあったら良かったんだけど……。6頭分の下あごで6千ゴールドだ。それでいいかね。」
「はい。大丈夫です。」
「はいよ。またあったら持ってきておくれ。」
「ありがとう。」
俺も爺さんに礼を言ってカウンターを離れた。
ギルドの隅に休憩所のような場所がある。
椅子とテーブルがいくつか置いてあり、メグミが言うにはだれでも自由に使っていいそうだ。情報交換の場になっているのだろうか。
俺たちはそこへ行き金の分け前の話をした。そう言えばそのあたりは全然決めていない。
「カヒトとスラ子ちゃんと私で、3等分でいいかな?」
「私は必要ありません。その分はマスターに……いえ、お二人で等分してください。」
「それを言うなら、俺は何も出来なかったしな。何なら、メグミが持っててくれてもいいけど。」
「ダメだよ!お金のことはちゃんとしないと!」
「わ、分かった。じゃあ、スラ子の言葉に甘えて、メグミと俺で3千ずつにするか。」
「そうしよう。はい、カヒト。」
「ありがとう。もちろんスラ子に必要な物もこの金で買うからな。」
「はい。ありがとうございます、マスター。」
「さてと、鉱山の仕事か。ギルドに申し込みとかするのか?」
「ううん。勝手に鉱山に行って掘って来ればいいんだって。掘り出した鉱石は出入り口の所で買い取ってくれるって。」
「ふーん……そんなんで採掘ができるのかな。どこに鉱脈があるだとか知らないとどうしようもないし。大体、勝手に掘ったら崩落とかしそうだが。」
「そう言えばそうだよね。それに掘る道具とか……あと、灯りはどうするんだろう?」
俺たちが、ウーン……と唸っていると、
「お二人とも。考えても仕方ありません。行けば分かります。」
スラ子はズバッと言った。
「そ、そうだな。メグミ。早速行ってみるか?」
「先に街を見て回りたいな。宿も決めなきゃね。」
「ああ。到着したばかりだ。焦ることは無いな。ええと……別行動にするか?後で合流すればいい。スラ子とスラちゃんがいればどうにでもなる。」
「えー?一緒に行こうよ。なんか心細いし。」
「なんだ。メグミってそんな寂しがり屋だったか?」
「うーん……カヒトとスラ子ちゃんと会う前はそんな事なかったけど……今は一緒にいたいの!」
「わかったよ。とりあえず宿を探すか。荷物を置きたい。」
宿についても掲示板に書いてあったらしい。
ドミトリーのような相部屋の宿が安いようだがさすがに不安だ。
豪華でなくてもいいが最低限、個室がいい。
メグミは掲示板横に重ねてあったチラシのような物を取ってきた。宿の宣伝だそうだ。
地図も書いてある。その地図に従って歩く。と言ってもすぐそこだったが。
宿は4階建ての大きな建物だ。一部は岩の上に乗っていて何だか複雑な形をしている。
この宿に限らず、街の建物は大体そうだ。広い土地が確保できないらしい。
メグミはどんどん中へ入る。物おじしないな。それとも俺たちにいい所を見せたいのだろうか。
「いらっしゃい。アカガネ亭へようこそ。」
カウンターで宿の主人が言った。
「ふたりですけど。お部屋はありますか?」
「一緒でいいかい?だったら用意できるよ。」
「い、いや。一人用の部屋を二つ頼みたいんだが。」
と俺が言った。焦った。
「一人部屋は今一杯でね……もちろん二人用の部屋を一人で使ってもらってもいいけど、部屋代は変わらないよ。」
「二人部屋はいくら?」
「1泊1200ゴールド。朝食付き。」
「じゃあ、二人部屋を一つお願いします。」
メグミが事も無げに言う。
「ちょっ、ちょっと待った!同じ部屋はヤバいだろ!」
「だって、一人一部屋借りる余裕はないでしょ?私もそんなにお金持ってないし。それに、ご主人、朝食は二人分付くんですよね?」
「ああ、そうだよ。一人で利用しても、朝食一人分安くしたりは出来ないんだ。悪いけど。」
「ホラ、ね。二人一緒に泊まればお得だよ。ご主人、それでお願いします。」
「ありがとう。部屋は4階の一番奥だ。ちょっと歩くけど、静かだし展望もいい部屋だよ。」
「ほらっ、カヒト。行くよ」
メグミはそう言って、主人の後をすたすたとついて行ってしまった。




