今更チャフを取り除いたところで
ウンブリエルは上げられてきた報告に唖然とした。
ファータの天候が急に変わり、そして
「首都圏内のチャフを全て外に押し出しただと…!?」
それは見事に城を中心として、円状に風が吹き下ろしたのである。その威力はただの風とは思えない程、場所によっては樹木などが倒壊しているとの事だった。
「風神の姫君と言えど、ここまでの力はなかったはず…」
先程、ルカがアイに連絡を取ったと言う事は報告されている。ただ、すでに一個人の力で解決できる規模を超えていると判断したから、他に注力していたのだが、それが裏目に出てしまったらしい。
だが、
「今更チャフを取り除いたところで、魔法陣はすでに完成している」
そう呟くと、ウンブリエルは早急に本国に連絡した。
突如ファータを襲った突風ーーーそれは下降噴流と言われる現象だ。
ダウンバーストは積乱雲の下で強く冷たい下降気流が生じて地面にぶつかり、水平方向に突風となって吹き出す現象の事。
発生する強風の被害は、円、楕円、扇形など土地と平行で四方八方に勢力を及ぼす。また、樹木や建物などを倒壊する程の威力を発揮する場合もある現象だ。
「だが土地に対して垂直で帯状に被害をもたらす竜巻とは異なり、広範囲に風が吹く為、ばら撒かれたチャフを一掃するにはいいと思ってな」
「だからって、積乱雲を発生させるとは思わなかったわよ…」
と、力尽きて横たわる風見。と、多くのアルカナ社員の能力者たち。
殊に、急に呼び出され無茶振りされたアイは屍の様に動かない。
『さすが風見。風神の姫君にも劣らない実力だな!』
と、話をすり替えようとするナギに「こいつ…っ」と殺意を抱く。
風見は残りの体力を振り絞って電話を睨み付けた。
「今度会った時、ぶん殴ってやる…!」
『風見たちを信じたからの計画なのに…』
「ほんっと…!信じるって便利な言葉よね…!!」
『まあまあ、後は任せてっ!事が解決するまでゆっくりしてて大丈夫だからさ』
「…また音信不通になったら、容赦しないから」
『…はい』
と、ナギは通信を切ったのだった。
風見は限界がきたのか、そのまま突っ伏す。
そばで控えていた俺は心配そうに呟いた。
「チャフをなんとかしただけで、事が解決するものなのか?」




