交錯編: 脅しであって本番ではない
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と、同時に一瞬ビリッ!!と電撃が走る様な音がした。
状況がまるで分からない俺は、どうすればいいのか途方に暮れる。そして
「!!」
横から衝撃を食らった。おそらく吹き飛ばされたのだ。
いきなりの事が連続で起きた為に、俺の脳は状況が処理出来なかった。そしてナギが駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「悪い、ルカ!魔法陣に入る訳にはいかなくて吹き飛ばした」
「っ!なるほどな…」
目隠しと猿轡を剥ぎ取られ、ようやく状況を飲み込めた。おそらくさっきまでいた魔法陣の中心から出す為に、ナギはシルフィードと会話しつつ隙を伺っていたのだろう。そして魔導具の剣で風を起こして俺たちを吹き飛ばしたのだ。
おそらくシルフィードの刃物も同じように弾き飛ばしたのだろう。
乱暴な救出方法と思いそうだが、魔法陣が発光をしているところを見るに、ギリギリの時間だったようだ。おそらく先程の電撃音は、予備動作のもの。そして壁に激突して気絶しているシルフィードの様子から、魔法陣発動はシルフィードの意思ではなく、外部から遠隔で発動されたみたいである。
「…思ったより、事は深刻なのかもしれない」
そう、ナギは苦々しく呟いたのだった。
抜き身の剣を戻したナギは、俺を縛っていた縄で気絶したシルフィードを縛り始める。
その間、俺は日向に連絡を取った。
『ルカ!?無事だったか…っ!!』
「危うく生贄になりかけたが、ナギのおかげで無事だ」
『生贄だと!?てか、そばにナギがいるのか…!ちょっと電話代われっ』
と、言う事なので俺はスピーカーにする。作業中のナギはスマホを一瞥すると溜息をついた。
「魔力供給用の魔法陣が1つ発動した。が、おそらくこれは脅しであって本番ではない」
『脅し?』
「あぁ、まずエネルギー変換をする為の魔力供給用魔法陣にシルフィードとルカしかいなかった。どう考えても人数が足りないだろう。つまり、これは私を誘き出す為の演出。そしてーーー」
ナギは一度言葉を切り、シルフィードを縛る最後の結び目にギュッと力を入れた。
「シルフィードだが、洗脳を受けているとみていい。人間誰しも嫉妬や劣等感を抱くものだが、感情に任せて政をする程シルフィードは愚かではない」
『…分からないぞ?』
「使命より自尊心をとるなら、初めからそうしているーーー長年、好きでもない男に抱かれなどしないさ」
そう説明するナギは、初めてシルフィードに憐憫な眼差しを向けた。
だが、すぐに俺に向き直り
「此処に来るまでに粗方制圧はしたが、その中にウンブリエルがいなかった。おそらく本命の魔法陣の所にいるはず」
「心当たりはあるのか?もしあるなら当然、俺も一緒に行くぞ」
「残念ながら心当たりはない。けど、特定する為の策はある。その為にルカには別行動で向かって欲しい場所がある」
「日向が代わりに行けば…」
「日向は本部から動けない。中継役がいなくなるのはマズイ」
「ミネルバの梟から何人かを…」
『ルカ、忘れたのか?アルカナメンバーの中でも、特にミネルバの梟のメンバーが先んじてファータに移住しただろう。すぐに動かせる奴がいない』
「……」
俺は恨めしそうに、ナギを見たのだった。




