交錯編:愛国心が芽生える前に
ナギは黒いローブを被り、手にはすでに剣を抜いた状態で持っていた。
「何が不満なんだ?」
そして無表情のまま、ナギは第一声を発する。
周囲の音、人の気配がしない事から、シルフィードと俺が話していた間にナギがこっそりと排除したのだろう。その事にシルフィードも気付いたのか、小さく悪態をついて、より俺に体重をかけた。
ただし、ナギはそんな事など気にせず、言葉を続ける。
「ファータを取り戻し、国は快方に向かっている。王家にこれ以上の幸福はないだろう」
「貴女が王家を語るの?いまだにエアリアルではなく、ナギと名乗っている貴女が…!」
「……」
「革命軍を興し、国を取り戻してーーーそして『私には他にやる事があるから、後はよろしく!』とでも言う様に姿を消した貴女が!私が不満を抱く事を責めるの!?不服だと思う事を咎めるの!?何様よ!」
シルフィードの怒りに、俺は場違いながら「確かにそうだよなぁ」と思ってしまった。先程までは"優秀な妹に嫉妬する姉"と言う構図だったが、確かにナギの今までの行動はシルフィードを雑に扱っている様に見えなくもない。と、言うかシルフィードの立場からしたら、思いきりいい様に使われていると思ってしまうのは無理もないだろう。
だからと言って、国民や組織を巻き込んで嫌がらせするのは度が過ぎているが。
「あら、別に嫌がらせの為だけではないわよ」
と、俺の心を読んだようにシルフィードが答えた。
「いずれ訪れるエネルギー枯渇と言う未来、その対策としてエアリアルやアルカナには協力して貰おうと思っているだけよ。なんならエアリアル、王家として国民の礎になれるのだから本望なのではなくて?」
「…悪いが、私は"ナギ"であってエアリアルと名乗ってはいない」
「そうね、そうよねーーー言い逃れ出来るように曖昧にしている所が、本当に鼻につくわ」
苛立つシルフィードに、ナギは溜息をついた。
「アルカナも、今はファータ国民の筈だが?お前にとって、いやファータにとっての大切なものとはなんだ?」
「人財だとでも言うの?そうね、確かに人材は財産よ。けどそれは仮初。アルカナに愛国心なんてない」
「愛国心が芽生える前に摘み取られそうになれば、当然だろうが。シルフィード、お前めちゃくちゃだぞ…?」
と、ナギが訝しんだ時だ。
それはいきなり起動した。
「なんだ!?」「まさか…!」
ナギとシルフィードの声が重なる。




