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交錯編:貴方の立場なら、

 どのくらい時間が経っただろうか。目隠しをされてから1時間は経ったか?

シルフィードに話しかけたいが、猿履をされているせいでモゴモゴとしか発言出来なし、辛うじて耳は塞がれていないが、周囲が慌ただしく目隠しをされているせいで状況も把握できない。

さてどうするか…と逡巡しようとした俺に、なんとシルフィードから「何故…来たのですか?」と話しかけてきたのだった。


「貴方の立場なら、わざわざ現場に来る必要はないでしょう…。もしかしてエアリアルですか?」

「!!」


シルフィードの口からナギの本名が出る。明らかに動揺を表す俺に、シルフィードは溜息を吐いた。


「いいわね…あの子は愛されて」

「…?」


そう呟くシルフィードに、俺は違和感を覚える。確かにナギを大切に想う者は多い。それは敬愛、友愛、愛情そして恋情だったりと様々ではあるが、それはナギだけでなくファータを治めるシルフィードも同様だ。

パンタシア革命後、シルフィードが女王として治めると言う事に多くの者が賛同し、大した反対もなかった筈である。

俺の言いたい事が分かったのか、シルフィードは呟く。


「確かにそうだわ…故に、その事に違和感を覚えない方がおかしいの」


だって、あの革命の立役者はシルフィード(わたし)ではなく、エアリアル(ナギ)なのだから。

シルフィードの言葉に俺は息を呑んだ。

そう、感じてはいたーーーだが無視していた。

革命後、すぐにナギが姿を消したと言う事もあり、俺はその様子を放置していたのだ。

もし…ナギが行方を晦ましていなかったら、おそらくファータを統治したのはナギだろう。故に


「実際に私を認めている者は、ずっと少ないのよ…」


その言葉は、何故か上から降ってきた。






 今まで聞こえていた声の方向、距離、音量が急にガラリと変わった事に、俺は驚愕し、と同時にしまった…!と殊を漸く悟る。

ズシっと体重が掛かった。


「どうするのが一番堪えるのか、考えたの」

「…っ」

「あの子が、アルカナが、一番嫌がる事。立ち直れなくなる様な事」


押し倒された体勢で、俺はグッと身構えた。その様子にシルフィードは鼻で笑う。


「期待させて悪いけど、残念ながら色っぽい事をする気はないわ。そんな事をしても、あの子には何のダメージにもならないもの。それに殺すつもりもないわ」


恋人を殺そうと犯そうと、エアリアルはあっけらかんとするだろう。

悲しみはするが、すぐに「起こったことはしょうがない。なにせ過去は戻らないんだから」とでも言って、そして自分の計画を実行し、己の望みを叶えるだろう。

そう、その望みは


「あの子はアルカナや貴方達を捨て、本当の仲間の元へ戻りたいのでしょう?」


なら、


「戻る場所を失くし、足枷を付ければいいのではないかと…思ったのよっ!」

「…っ!」


何か勢いよく振りかざす様な動作とともに、シルフィードの語尾が力強くなり、反射的に身を丸めようとする。

そして痛みが…はしりはしなかった。

かわりに「きゃあぁ…!」とシルフィードの叫び声が上がる。

いつの間にか周囲は静まり返りーーーコツコツと一人分の靴音が近付いてきた。

誰が来たのか、目隠しをしているにも関わらず俺にははっきりと分かった。

シルフィードは苦々しく言う。


「…やっぱり来たわね」


ナギは無表情な顔で、実姉(シルフィード)を見たのだった。



日向が言っていた「歪」の正体です。

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