交錯編: さすがナギの姉君だ、
日向はほぞを噛んだ。ルカ達と連絡が取れなくなった。
こちらから連絡が取れないと言うのが、なんとも歯痒い…。
「俺も現場に行ければいいんだが…」
だがそれは出来ない。現在、事態を把握している幹部クラスで、現場との指揮を取れるのは自分しかいないのだ。なによりアイツを制御出来るのも、自分しかいないと自負している。
「焼け野原にならなければいいが…」
最強と最恐。相殺と相乗。最悪の組み合わせでーーー最高の組み合わせ。
事は解決するだろう、どんな形であれ。そう、問題はその後だ。
勧善懲悪。敵を倒せば万事解決ーーーではないのだ。
詳細など知らない。だが、現在の状況はナギが計画したものではない事は明らかだし、この事件によってどこまでナギ達の計画に影響を及ぼすのか、自分には皆目検討がつかない。
ただーーー
「フルメン中将、貴方ならこの後のことが分かるはずだ」
「……」
「アルカナと火炎の国は今、同盟を結んでいる。アルカナからの支援要請を断る事は出来ないはずだ」
「…ウンブリエルなら、わざわざ無駄な人死には出さない筈だ」
「それは、設置されている魔法陣は攻撃を伴う物ではないと言う意味か?それとも交渉と言う名の脅迫をかけてくると言う事か?」
確かにウンブリエルは先制攻撃の優位性を捨て、初手の攻撃は爆薬ではなく殺傷能力のない電波欺瞞紙だった。この事からウンブリエルの狙いはアルカナの壊滅ではない事は分かる。
故に分からないのだ。
アルカナ相手に無血開城が出来ると思っているのか?ウンブリエルに、否、大地の国にそこまでの戦力と技量があるとは思えない。
「そもそも、何故大地の国はそこまで戦争をしたいんだ?」
自国繁栄を目指すのは普通の事だ。但しその手段として同盟国に戦争を吹っかけるのは、現代ではあまりに非効率である。
「それは未来を見据えているからだ」
「は?」
フルメンの突拍子もない言葉に、日向はつい素っ頓狂な声を出した。そして急いで咳払いをして声の調子を取り戻し、改めてフルメンに問いただした。
「それはどう言う意味だ?未来だと?」
「未来とはあまりにも曖昧な言い方だったな…。近い将来、エネルギーは必ず枯渇する」
「……」
何を当たり前な事を、と日向は言いたくなったが、それを言葉にはしなかった。
ずっと前から、化石燃料はいずれなくなると言われている。
だからアルカナは常にエコロジー社会を目指したより省エネルギーな開発を行っており、故に転移装置は小型化に成功。エネルギー消費率も以前と比べるとはるかに少なくなった。
ただ資源の枯渇は遠い未来の事で、どこか他人事でーーー自分達には関係のない事だと思っていた。
だがここで、フルメンが持ち出したとなっては話は別だ。
「これは資源の略奪戦争なのか?」
「大局的な視点で見れば、な」
フルメンは溜息混じりに呟く。
「すでに兆候は表れているーーー食糧不足と言う形でな」
「!!」
日向は目を僅かに見開いた。そしてかつての事件を思い出す。
「確かパンタシアが…シルフィードがスピルリナを提案していた。まさか」
「さすがナギの姉君だ、とでも言っておこう。そう、今はまだ前兆だ。だが今のうちに動かなくては間に合わなくなる」
「なら…!なぜウンブリエルは人死にを出さない?これが資源を巡る戦争だと言うのなら、尚更消費者を削減するだろう」
敵国の国民を生かしておく理由がない。どころか、寧ろいらない筈だ。
終戦後に粛清するつもりなのか?
日向の言葉に、フルメンは首を横に振った。そして哀しそうな眼差しを窓に向ける。
「言っただろう?資源だと」
覚えておいでですか?菴羅で育てていたスピルリナの事です。
食糧不足や資源問題の伏線、もっと入れとけば良かったなぁと読み返して思いました(´-ω-`)




