交錯編;策士策に溺れるなよ
「私がウンブリエルの立場にいたなら、おそらく同じ事をしていたかもしれない」
それ程までに切羽詰まっており——賢者の石は魅力的なのだ。
その言葉に私は語気を強めた。
「お前らはいつもそうだ。立場が違えばと、ifの話をする——だけど誰かになり変わる事はないし、出来ない。誰もが目の前に現れた選択肢の中でしか生きられない」
己が立場によって選択をするだけ。
「他者を憐れむなんて、傲慢だ」
——そうだろう?シルフィード
そして私は罠だと知りつつ、ファータへと向かった。
先手を取られる事の重要性を、私は覚えている。
「ファータには手を出さないとでも思ったか、ナギ」
ウンブリエルは腕を組みながら、とめどなく挙げられる報告を聴き流していた。その殆どが、想定内の内容である。
そう、殆どと言うのは——
「流石アルカナ。対応が早い」
殆どが非戦闘員と云えど、その辺の企業とは違う。反社会的組織と見られていたのは、ついこの間までである。いつ逆恨みによる本社襲撃があってもいいように、しっかりと緊急時の対応が教育されていた。
だが、
「ファータはまだまだ体制が整っていない…」
国として、ようやく軌道に乗ってきたファータにこの襲撃は耐えられなかった。城内の様子は混乱に陥り、情報が錯綜する。中には当然、誤報も混じっていた。
「さて、ナギ。お前はどうする?」
そう呟くが内心では分かっていた。ナギは来る。母国を、家族を救ける為に。
「せっかく奪い返した母国を、見殺しにする筈がない…か」
そう言った奴は、本当にナギの事を知っているのか?
「策士策に溺れるなよ」
そう言ったのはこの場にいない者への呟きか。はたまた自分に言い聞かせたのか。
一度来ておいて良かった、と俺は心底思った。
ファータへの入国は現在禁止されている。在住しているアルカナ社員からは随時報告が上がってくるが、肝心の城の情報が全く来ないのだ。
しかし最悪な事に誤報が混じっている。
俺は頭を抱え、苦渋の思いでフェアリーリングしたのだった。
そして入国早々、俺は愕然とする。
「どう言う事だ…?」
俺が繋げた場所は城の中庭——の隅。本当は城内に一室、転移用の部屋を用意してあるのだが、状況が分からない以上は使用しない方がいいだろう。
そう判断しての事だったのだが…
「全くの無傷だと…?」」
しかも空の様子が変だ。晴れているのに、霞んでいる。空襲による粉塵の影響か?だがそれにしては色がおかしい。