交錯編: 私には短絡的にしか見えないけどな!!
それはいきなりの事だった。疾風と大地の国境で防衛していた部隊から連絡があり、大地の国から先手を打ってきたのである。
「国境付近の戦況は?負傷者はどれくらいだ?」
と、俺は日向に聞く。速報を受けた日向は眉を一度顰め、そして答えた。
「…0だ」
「そうか…」
こちらの被害はゼロとは、と胸を撫で下ろす。が、そんな俺の様子に日向は「安堵するのは早いぞ」と言い放った。そして
「まだ、攻撃は受けていない…」
「はぁ?ならなんで連絡が来たんだ?」
俺の疑問に、日向はタブレットを渡してきた。表示されている報告を見ると、俺は驚き、日向の表情に納得する。
「戦闘機の離陸…目的地は不明」
空襲は戦争の常套手段だ。当然対策としてレーダーで警戒している。つまり
「目的地不明って事は、少なくとも火炎、氷結、疾風に向けてではないって事か」
「おそらくな…」
では何処を攻撃するつもりなのか?と考えると
「普通は、軍備関係を扱っている場所だよな…」
対戦国へ物資を供給している場所を攻撃し物資不足、兵糧攻めもまた常套手段である。ただし3ヶ国とも自給率は低くない。だから…
「首都は半壊…」
「シルフィード陛下の安否ですが——」
「加工済みの魔道具のうち30%が…」
「連絡が取れていないアルカナ社員の数は———」
1時間後、続々と挙げられる速報に俺は拳を握る。
アルカナの本部は以前と同じ、火炎にある。しかしファータ国民として受け入れられた後、社員の半分以上が復興支援も兼ねてファータに移住していたのである。つまり
「アルカナを狙ってか…!!」
ファータの被害報告に私は「クソッ!」と悪態を吐いた。
今すぐ現状を確認しに行きたい。被害は?復帰の目処は?周辺国の動きは?
何より——シルフィードは?
私の所まで情報が上がってくるのに、時間がかかる。歯痒い想いで私は地団駄を踏んだ。
「ウンブリエルめ…っ!」
仕掛けようとしていた矢先の、先制攻撃。タイミングを狙っていたのか、はたまた情報漏洩かは分からない。だが、攻撃の指示を出したのは間違いなくウンブリエルの筈だ。
「天候の村の次は、ファータとは…。異世界規模でナギに嫌がらせしているな」
「…まるで対岸の火事とでも言いたげだな。火の国も同盟国だと忘れるなよ」
狙われる理由はいくらでもあるんだぞ、と悠長に構えるラプライアスへ言外に匂わす。しかしラプライアスは一笑に付した。
「こちらに攻撃をする程、余裕はない筈だ。そこまでウンブリエルも馬鹿ではない」
「私には短絡的にしか見えないけどな!!」
「それ程までに切迫詰まっているのかもな」
お前はどちらの味方だ!と言いたくなって、私はキッと睨んだ。しかしラプライアスは全く気にせずに作業を進め、クルクルと回るラジオメーターを見つめながら呟いた。
「方法は違えど、成したい事は私も同じだからな…。なんとも言えんさ」
何せそれは、どの国も抱えている問題なのだから。