表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

304/325

小噺

 それはルカがアルカナの正規職員になった時の事だった。


「幹部のタロット名って、何か意味があるのか?」


「……」

「……」

「……」


俺の質問に、ナギ、風見、日向は口を閉ざした。殊にナギと日向はわざとらしく明後日を向いている。

俺は首を傾げ、そして少しして「まさか…」と目を見開いた。恐る恐る思い付いた理由を口にする。


「厨二病…?」


「ま、まさか…!いい歳した連中が、ず、ずっとそんなものを引き継いでるはずないだろう…!」


と、日向が反応する。しかし相変わらず視線は合わない。俺はジト目を向けた。


「声が震えてるんだが」

「急に風邪気味になったんだよ!」


んな訳あるか。

俺の突っ込みに、ナギはふぅと短く息を吐いて日向へ助け舟を出した。


「一応、各自の役割や特徴を現すと言う名目はあるよ」

「役割や特徴…?」


眉を顰める俺に、ナギは渋々と言った様子で言葉を続けた。


「それぞれの大アルカナには、色んな意味がある。例えば死神は"死と再生"が転じて破壊と創造、集結と始点そして分岐点という複数の意味を持つようにな」


死神の立ち位置って…確か鵠沼だった筈。俺は思った事を呟いた。


「組織のトップが死神だなんて、不穏だな」

「意味を知らなければな…。歴代の総帥は与えられたアルカナの意味を、自分の代の役割としている」


意味を役割にしている…?ナギの言っている事が分からず、俺は首を傾げた。


「自分の代?」

「あぁ、先代は"正義"だった。正義は判断、正当性、バランス。そのうち先代は判断の速さ、そして組織と社会のバランスを重視していた」

「なら鵠沼は……」


俺の言葉にナギは首をすくめて


「自分は何かの分岐点にでも、なろうとしてるのかもな」


具体的に何をしようと考えているのかは、全く知らないけど。とナギは付け加えたのだった。





 と言う数年前の会話を思い出し、俺はなんとなくナギに言った。


「なんだか上位存在も似た感じだよなぁ」

「どう言う意味?」


隣に座るナギはカフェラテを飲みながら首を傾げた。俺はどう説明すれば分かりやすいか考えながら応える。


「えっとだな…例えばアテナ様は知恵の女神を"騙っている"のであって、神話に登場する本人ではないだろう?」

「あぁ、以前そう言っていたな」


"己が信条を忘れぬ様に。一番近い神の名を使う"

ナギは乾いた笑いを浮かべた。


「あのアテナ様がどんな信条を掲げているかは知らないが…名は体を表すとも言うしなぁ」

「どう言う事だ?」


事有り気に言うナギに、俺は首を傾げる。名は体を表す、と言う意味は分かるが、何故ナギがその言葉を言ったのかが分からない。

ナギはカフェラテを一口飲むと


「その名を使っているから、そうあろうとしているのか。はたまた、その性格が似ているから、その名を使っているのか。分からないって事だよ」

「余計に分からないんだが」


俺に説明する気がないのかと思ってしまう言葉に、俺はこめかみを押さえる。

その様子を見て何を思ったのか、ナギはカップをテーブルに置くと脚を抱えるようにソファーに座り直し、そっと隣に座る俺に寄り掛かった。そして上目遣いで「ルカ」と呟く。


「ごめん…怒った?」

「……」


憎たらしく、だけど愛おしく思ってしまう。

ムカつくほどに、こいつは俺の扱いをよく分かってるのだ。そしてそれが分かっているのに、つい許してしまう自分の性に辟易してしまう。

俺は小さく溜息を吐き「怒ってない」と応えて頭を撫でると、安心した様にナギははにかみ、話を再開した。


「女神アテナは知恵と戦いを司る処女神なのは有名だよな?」

「あぁ。だから、お前はアテナ様の眷属になれたんだろう?」


賢く、女である事。その条件をナギは満たしていたから、救われたのだ。

そう答えると、ナギは「果たしてそうかな?」と意味深に言う。


「必ずしも、女である事は必須事項ではないかもしれないぞ?」

「どう言う事だ?」


訝しむ俺に、ナギは「実際にいるかどうかは別として」と前置きをし


「アテナはペルセウスに盾を送っている神話がある」


故に


「勇者と見做された者なら、あの方は助けるかもな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ