交錯編-コッホ曲線の時に
ナギの知識が科学に寄っている所から、その師であるミランダは科学者だと思われがちだが、実は違う。
「科学で証明できない事なんて、この世にごまんとある。それを少しでも理解しようと、学んだだけさ」
と本人は生前語っており、本来の専攻は神聖幾何学である。神聖幾何学のトーラスやフラワーオブライフなどは魔道具に刻む術式にも通じており、その事から、よく霰と合作や共同研究を行っていた。
「コッホ曲線の時に、気付くべきだった…」
と、私は自分の馬鹿さに呆れつつ呟く。
現在の作業分担は、風見が樹になっている桃を風で収穫もとい回収し、ルカのフェアリーリングで天候の村の上空に転移。そのまま落下させ、村人にぶつけまくっている。
こう言った実労働に不向きな私と、後々責任を取らされる日向は各自、別の場所で待機していた。
日向は風花支部に、そして私はーーー
「よく無事に戻ってこれたな」
「まぁね」
ラプライアスのところにいた。私は応接室のソファーに座り、紅茶を飲みながら話し始めた。
「今回の発端は、土の国による風への宣戦布告。天候の村への襲撃はその手始めだ。ただし」
私は強調する為に一度切り、そして
「ゾンビ化もとい憑依攻撃は、以前から用意されていた。そうだろう?」
言い切る私に、向かいに座る鵠沼は観念したのか目を伏せたのだった。
私がそう断言したのは、鵠沼から風見そしてルカの手に渡ってきた魔道具の存在があったからだ。
「憑依攻撃について、師匠や霰さんは事前に知っていたな?」
「おそらくな」
鵠沼によって発見された魔道具は、悪霊祓いの効果を持っていた。
私は自分に呆れるように溜息をつく。
「五芒星、六芒星は魔除けの効果がある代表的な模様だ。おそらく師匠が霰さんに助言して、館の結界として用意したのだろう」
そう、敵にバレないように。だけど館の中心に据えたのだ。
「六芒星をコッホ曲線、雪の結晶のモチーフと見せかけてな」
ドゥンケルシュタール製のエンブレム。あれは師匠と霰さんによる精密な計算のもとに造られた護符だったのである。
私は組んでいた脚を入れ替えて、苦々しく言った。
「問題は山積みだ。いつから用意されていたのか。師匠達は何故知っていたのか。あと、今後の対策も考えなきゃいけない」
一番の問題は、時間がないって事だけどな!!と私は吐き捨てる。
「まずは霊的結界の強化だ。同じ手は使わせない。次に天候の村人全員の調査。他に何か仕込まれていたら目も当てられない。そしてーーー」
私はジロリと鵠沼を睨んだ。
「天候の村、その土地自体の調査は私が指揮を取る。既にアルカナを抜けているからと、文句は言わせないぞ」
「好きにしろ」
寧ろ、事を納めてくれるなら万々歳だと皮肉を言う様に、鵠沼は言ったのだった。