交錯編ーこれでフィニッシュだ
場面はヒナタの所に戻ります。
村の周囲に張られた光の膜。
誰も逃さないと言わんばかりのソレに、俺は悪態を吐く。と、同時に、結界の向こう側に人影を見た気がして、目を凝らした。
そして気のせいではなく、やはり人だと分かりーーー誰だか分かると、俺は目を少し開いて叫んだ。
「なんでお前が?」
そいつは意味ありげに指を天へと向けるとーーー
「!?」
白い球体のような物が降ってきた。それも大量に。
運悪く当たった奴は倒れていくが、俺が唖然としたのはその行為と言うより、落ちてきた物体にだった。
「桃おぉ!?」
べちゃっと容赦なく、次々と村人に当たり、桃にぶつかった奴から倒れていく。そして地面にも潰れた桃が大量に落ちでおり、その上に倒れる為、さらにべちゃっと…村人ほぼ全員が桃塗れになっていった。
「これって…」
そう、まさかこんな力技があったとは。感嘆や驚愕と言うより、もはや唖然。だってそうだろう?
「清めの塩や聖水はよく聞くが…まさか桃とは」
桃もまた、破魔の力を宿す物の一つだ。だからと言って、こんな大量に桃を降らせる奴がいるか!!と言いたくなる。
しかし効果があったのか、倒れた者から順に狂気が抜けていく事が感じられた。そして
「これでフィニッシュだ」
と、ルカが見知らぬ機械を片手に、村の連中目掛けて何かの引き金を引いたのだった。
「さっき、桃の種類が違うと言っただろう?」
と、ナギは急に先程の話をし出し、俺は「それがなんだよ?」と首を傾げた。ナギは「ちょっとまってろ…」と言い手元のスマホを操作して、とある写真を見つけると俺に見せる。
画面には、丸く平たい形の果物が示されていた。
「これが西王母の園にあるとされる桃、蟠桃だよ」
「そんな形なのか!?」
不老長寿の桃、仙桃と言うと、どこか桃饅頭のイメージがあった俺は驚きの声を上げ、そしてまじまじと見た。
ここにあるのは球体に近い丸みを帯びた桃であり、蟠桃とは全く違う種類である。
「じゃあ、ここの桃は単なる果物か」
「と、言う訳でもない」
「なんだと…?」と、ナギの言葉に再び俺は首を傾げた。その様子にナギはニヤリと笑うと
「意富加牟豆美命を知ってるか?」
と問うてきたので、俺は首を横に振る。
「まるでどこかの神のような名前だな」
「その通りだよ、ルカ。桃から神になったのさ」
伊邪那岐命が黄泉の国の軍勢を桃を使って撃退し、その桃の実に「私を助けてくれたように、民が苦しんでいるときには助けてくれ」と言って意富加牟豆美命という名前を授けたのだ。
と、言う話があるように、桃には微力ながら魔を祓う力があり、
「よくこんな荒技を思いついたよな…」
と、シュールな光景を眺めながらルカは呟いたのだった。