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5. お兄様の恋は前途多難

お久し振りです。

「やっぱり、オカシイだろう」


 アレッド王太子が頬杖を突いたまま言った。


「はい? 殿下、何かおっしゃいましたか?」


 書類に埋もれていたセーヴルが顔を上げた。




 ここはアレッド王太子の執務室で、学園都市計画も大詰めで、猫の手も借りたいぐらいの状況だった。普段であれば、問題児のオーキッド・フォン・パルマン辺境伯と隣国の王族でもあるルシェールもいるはずだが、今日はまだ来ていない。今はアレッドとセーヴルの二人きりだ。


「クラウスだ。アイツは最近おかしい。そう思わないか?」


 アレッドが机の上の書類には目をくれず、セーヴルに向かって話し掛けている。


(飽きてきたな)


 セーヴルが溜息を吐いてベルを鳴らし、侍従にお茶の手配をする。今日はしっかり仕事を進めなければならないのだが、ご覧の通りいつもとは様子が違っていた。肝心の事務担当が見えなかった。


「クラウスはどうしたんでしょうね? 滅多に病気になんてならない彼ですからね。仕事を休むなんて初めての事じゃないですか?」


 普段ならアレッドと一緒になって緩むはずのセーヴルだが、立て込んだ仕事の状況とこれから来るはずのオーキッドとルイの為にも進めておく必要があった。ここはアレッドの気分に同調しない様に気を引き締める。


「まあ、でもアイツも人間ですから、体調を崩すこともありますよ。溺愛していたリリちゃんをシリウスにあげちゃった訳ですし。相変わらずグランデルク伯爵家に、オーキッド殿が入り浸っているんでしょ? 伯爵もクラウスも真面目ですからね。あの方の相手は心身ともに疲れているでしょ」


 王国一の変人、頭も腕も随一の女装の辺境伯は、過去に世話になったグランデルク伯爵を信頼して息子のクラウスや娘のリリを構いまくっていた。美しいモノが大好きな辺境伯は、美しい妖精姫の兄妹が大のお気に入りなのだ。


「それだけか? どうも何か違うんだが。アイツがオーキッド殿位で揺らぐか? まあ、確かにオーキッド殿は強烈だが、それに疲れているという感じじゃないんだ」


「……どんな風なんですか?」


 問われたアレッドが、腕組みをして椅子に踏ん反り返って天井を見上げて言った。


「熱っぽいのに、熱は無い。眠りたいのに眠れない。花や樹々、風や光がいつもより感じられて、思わず見入ってしまう。書類の文字は頭にちっとも入らないのに、詩のような言葉が頭に浮かんで溢れそう」


「何ですか、それ?」


「クラウスの症状だ。本人がそう言っている。見て見ろ」


 アレッドがそう言ってピラッと便箋を掲げた。セーヴルが立ち上がって受け取ると、それはグランデルク伯爵家の紋章入りの便箋だった。


 休みの届けか。そう思って受け取って紙面に眼を走らせた。


「おかしいですね?」


「おかしいだろう?」


 どう見ても休みの届などでは無い。まるで言い訳する、思春期の少年が書いた様な内容。


「これはどう見ても、恋煩いでしょう。初めての経験で感情を持て余しているさま。そのまんまですね」


 真面目な筆致で、書かれている言葉はクラウスとの付き合いで聞いた事も無い言葉ばかり。どんな顔でこの届けを書いたのか……悪いが笑ってしまう。


「セーヴルもそう思うか。じゃあ、やっぱりクラウスは誰かに恋しているという訳か。でも、一体誰にだ? アイツが最近女性と知り合う機会なんて、あったかな?」


 セーヴルとアレッドが二人で天井を見上げた。彼の交友範囲を知り尽くしている二人からしてみれば、その極小のエリアを埋めるのは簡単に思えた。




「「!?」」




 二人が同時に顔を見合わせた。思い当たる人間が浮かんだようだ。



「殿下からどうぞ」


「セーヴルから言え」


「いえ、殿下から是非」


「イヤイヤ、お前からだろう」


 何時までも譲り合っていては埒が明かない。二人はせーので言い合う事にした。



「「「せーの!!」」





「カレン嬢!」「オーキッド殿!」





「「……」」



 セーヴルがジト目でアレッドを見た。


「殿下、オーキッド殿は無いでしょう!? あの方はれっきとした男性ですよ!」


 セーヴルが呆れた様に言い放った。軽薄そうで女癖が悪そうな遊び人風であるが、セーヴルは意外に常識人の所もある。


「いやっ! だってクラウスが最近出会って親しくしているなんてオーキッド殿位だろう? 男性ではあるが、美しい女性に見えないことも無いから、つい……」


 しどろもどろになってアレッドが弁解している。


「殿下。クラウスはノーマルです。そこは全く心配無用ですよ。何を言い出すかと思ったら、クラウスがこの場にいたら向こう2年分の仕事を丸振られされますよ? 忘れて下さい。その方が殿下の為ですから」


「そ、そうだな。忘れる事にしよう。で、カレン嬢とは、あの?」


「カレン・ミラノ嬢です。ミラノ家のご令嬢です。スタンフォード公爵家のパーティーでお会いしてます。オーキッド殿に無理矢理エスコート役をさせられた時ですけど」


「ああ。そんなこともあったな。確かにカレン嬢が留学から帰って来てからだな。時期的にも合っている……」


「でしょう?」


 侍従の運んできたお茶を飲みながら、二人がにんまりと微笑んでいる。クラウスには悪いが仕事の疲れと、対オーキッドストレスの緩和の為にも役立って貰おう。


「ここは一つ、クラウスの幸せの為手を貸そうではないか。ミラノ家とグランデルク家ならつり合いも申し分ないし、二人共優秀な頭脳を持った秀才だ。良いカップルになりそうだな。どこぞのバカップルに対抗できるぞ」



 ウキウキとした口調で話す二人。


 二人の勘違いは、いずれオーキッドも巻き込んで大騒ぎになる。






 頑張れ! クラウス!!  未来は、きっと……明るい!



 


ブックマーク、誤字脱字報告、評価ポイント

いつもありがとうございます。


久し振りの投稿になりました。


兄友二人による勘違いで

クラウス君はとっても苦労しますが、

ロゼリンと結ばれますから

ご安心を。です。


一旦このお話しで完結とさせて頂きます。

カレン✖オーキッド様のお話しは

独立させようかな……と思っております。


楽しんで頂けたら嬉しいです。

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