29 (挿絵有)
恭太に知られた。
それだけが頭の中でぐるぐる回る。
立ち尽くしている恭太の顔は無表情だ。
私の前では、大抵にこにこ微笑んでいる彼は、無表情になるとマネキンみたいで、こんなにも感情が読み取れないとは知らなかった。
「恭太君は知らなかったんでしょう?この人はあなたを独り占めしたくて、あなたの気を引きたくて自分で落ちたのよ?」
中山さんは再度、恭太に言った。
「信じられないわよね。恭太君はずっと責任を感じてたんじゃない?それを利用して、のうのうと何年間もあなたを縛り付けてたのよ!」
中山さんは、観衆の前で演説する救世主のごとく自分の正義を振りかざす。
恭太の顔を見てられず、下を向いた。
周りの生徒達は、いつのまにかヒソヒソと話し初めていた。
「ちょっと、上む…」
江奈が恭太に言いかけて…止まった。
誰の顔も見られず、下を向いていた私は周りの沈黙と止まった江奈に何があったのかと、江奈を見た。
江奈は恭太の方を見て、言いかけた口をポカリと開けたまま、あぜんとしてる。
周りの人達も止まったまま、困惑や驚愕の表情だ。
なんで?
そこでやっと私は恭太の顔を見た。
そこには、今だかつてないほど赤面して、私を凝視して、最上級の甘い頬笑みを浮かべている恭太の姿があった。
瞳すら潤んでる気がする。
な、なんで!?
なんでここで赤面!?
意味がわからず困惑してると、
「ヤバい…」
赤い顔を片手でおさえながら、恭太は私の方にゆっくり近づいてきた。
キレイな顔がここまで赤面すると、かわいいと色っぽいが同居出来るもんなんだなぁ…と、今はどうでもいいことを思い付く。
座ってる私の横に来て手を取り、立ち上がらせる。呆然としてる私は恭太のなすがままだ。
恭太の手が頬に添えられて、赤面しながら頬笑む。
「姫乃、そんなに俺のこと好きだったんだね……」
今度はこちらが固まる。
えっ?今、そういう話だったっけ?
私だけでなく、周りにいた全員が同じことを思ったはずだ。
「本当は知ってた。ひめが自分で落ちたって」
「…っ!」
言葉にならない衝撃が私の頭の中を真っ白にした。
「落ちてくる時、ひめ笑ってたんだよ。幸せそうに。それを見て、ああ、ひめは俺を独り占めしたくて、俺の気を引きたくて落ちたんだな、ってすぐ解った。」
もう、なにがなんだかわからない。
さっき中山さんが言っていたことと同じことを言っているのに、意味がまるで違って聞こえる。
にこにこした恭太は頬にある手を首筋に、もう片方を腰にまわし、ぐっと抱き締めてきた。
頭が恭太の肩にぎゅっと押し付けられた。
「俺、一緒に落ちてる時、すごい嬉しかった。幸福感でいっぱいで、もうこのままひめと終わってもいいって思えた。」
「…なに、……言って…」
「だって、大好きな子がおかしくなるくらい俺のこと欲してくれてるんだよ?こんな幸せなことある?」
顎に手をかけられ、ぐっと上向きにされた。
いつもの極甘のキレイな微笑みが、目の前にある。
まぶしいものでも見るかのように細められた瞳は甘く、壮絶な色気を含んで近づいてくる。
恭太が私の両頬をつかんで、そのまま唇を塞がれた。
「……っ、……ふ……、んっ……!」
全てを奪うかのような熱のこもったキスに、混乱した頭はますます沸騰する。
「……ん、……ひめ……ひめの……」
キスの合間に囁かれると、脳天までしびれたようになる。それでなくてももう既に腰にキてるのに。
「……や……、やだ……んっ……」
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
ちょっと整理して考えたいのに、恭太から注ぎ込まれる怒涛の快楽がそれを許してくれない。
ぎゅっと瞑っていた目を微かに開けて、ハッと気付いた。
公衆の面前だということを。
「!!!!!!!!」
必死になって恭太の胸板を叩いても、ビクともしない。
空いてる手で恭太の腕をつかんでもビクともしない!
最終手段で、美しい顔の横に付いてる両耳を力いっぱい引っ張ってやった。
「……っ!いった……!なにすんの!」
やっと離れた。
ぜいぜい息を吐きながら周りを見ると、学食中の人がこっちを見て止まっている。
「……な、……なっ……」
横から声にならない声が聞こえた。見ると、顔を真っ赤にしながらワナワナと震えている中山さんがいた。
江奈を見ると、両手で顔をおおっている。よく見れば耳まで真っ赤だ。
「上村の……その顔で……キ…キスとか……マジヤバい……マジ色気が半端ない……」
そ、そんなこと言わないでよ!!されてるこっちが1番よくわかってるんだから!!
「なんなのよ!あなた達!!」
我にかえった中山さんが、私達に向かって叫んだ。
うん。なんだろうね。もうキャパオーバーすぎて、赤くなればいいのか青くなればいいのかわかんない。
そんな中山さんに、恭太がのんびりと声をかけた。
「そうそう、これを渡そうと思ってさ」
いつの間にかどこからか取り出したクリアファイルを差し出す。
チラリと見えたそれは、会計報告書のような、お金の収支に関する表のようだった。
「?」
意味がわからない、という顔をして受け取った中山さんに、恭太はさっきとはうって変わった黒い笑顔で言った。
「あなたの不正の証拠」




