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なんだか頭がぼーっとする。
毎日のように暇さえあれば泣いているからだろうか?
泣きたいわけじゃないのに、気づくと勝手に頬が濡れてる。
夜な夜なすすり泣きを聞かせてしまって、綾乃お姉ちゃんには申し訳ない。けれど、止まらない。
あの日、話を全部聞き出したお姉ちゃんは、色々なことに関して何も言わず、とりあえず寝な、と言ってくれた。
お言葉に甘えて、ただひたすら寝た。
人間、考えたくないことがあると、現実逃避としてこんなに寝れるのか、というくらい寝た。2日も大学を休んでご飯を食べる以外は、ただひたすらに睡眠を貪って、寝すぎて背中も痛くなってきたころには、今度は涙腺が壊れたように泣き続けた。
いつまでも休むわけにも行かず、久々に大学に行ったら、なぜか遠目にも恭太を見つけてしまった。
華やかな女子達に囲まれて、ものすごく機嫌が悪い。うつむきかげんで歩いてくので、私に気づいてないのが幸いだった。
コンビニに向かうようで、1人の女の子が恭太の腕に自分の腕をかけているのが、チラリと見えた。
不機嫌な顔に辛そうな苦悶が見える。
振りほどいて逃げてしまえばいいのに、恭太はそれをしない。
反感を買ったその矛先が、普段通りに接している私に向かうからだ。
もう、そんな気をつかわなくてもいいのに。
とはいえあの状態はちょっと恭太には辛すぎる。こんなこと頼むのも申し訳ないが、江奈にメールして助けてもらおう。恭太が他人が苦手、とバラしてしまうが、背に腹は代えられないだろう。
江奈ならうまくやってくれる…。
ストーカー対策もあって、ハル兄が送り迎えしてくれるようになった。
とはいえ、ここ数日畑中さんを見かけてない。元々、薬学棟内でよくついてきたりしてたので、外で見ることはほぼなかったけど。
このまま、あきらめてくれるかも?
ハル兄は、恭太のことも畑中さんの話も何も言わない。ただ優しく寄り添ってくれているのが、今はありがたかった。
「お茶、勝手に選んじゃったけどコレで良かったかな?」
お昼時、広い大学内で恭太が通らなさそうな場所を探して、結局、部活棟の隣にある休憩所で買ってきたパンをハル兄と食べていた。東屋、とでも言うのか、8本の柱で八角形の屋根を支えてる下に、簡素な木のテーブルと椅子がある。周りにはあまり人がおらず、講義が終わった夕方あたりから賑わう場所なのだろう。
ハル兄がペットボトルの紅茶を差し出す。
「ありがとう」
と受けとるけど、無意識に比べてしまう。
恭太は私の好みを熟知していたから、何も言わなくてもカフェオレを買ってきてくれただろう。
はっとして、考えを振り払う。
こんなに優しくしてくれてるのに。ハル兄は私の好みなんて知らないんだから仕方ないのに。
自分の傲慢さに嫌気がさす。
恭太と離れて気付いたことがある。
私がいかに恭太に守られていたか、ということを。
最初の素に戻った時にもわかった満員電車でのスペース取りや、商店街名物のナンパも恭太がいたら声をかけてくることはなかった。重たい荷物を持ってくれたり、方向音痴の私を目的地まで連れてってくれたりした。果てはドアの開け閉めですら、恭太はナチュラルにレディファーストしてくれてたのでそれが当たり前になってる自分がいた。
行動的なことだけでなく、私の下らない話もちゃんと受け答えしてくれてたり、小さなことを覚えててくれたり、そこにいるだけで精神的に安心出来ていた。
恭太がいない今、私は欠陥人間なんじゃないかと思う。自分1人で立っていられる自信がない。ずっと、無自覚に恭太に甘えてきたのだ。
「ひめちゃん、大丈夫?」
ハル兄の声で、はっと気がつく。
ペットボトルのフタをあけたまま、ぼーっと止まっていたらしい。
「ご、こめん。大丈夫だから」
目線が合うと、ハル兄の目が細くなって、伸びてきた手が頭を優しく撫でた。
私が恭太のことを考えていたことを見透かすように、その手が一束の髪を捕らえ、ハル兄の唇が落ちる。
まさかハル兄がこんなアプローチをしてくるとは思ってなかったので、真っ赤になってしまった。そういえば、外国育ちだった。こういうことを照れもせず出来るのは、恭太くらいだと思ってた。
「あら、もう新しい彼氏?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
振りかえると、にっこり笑う中山さんがいた。今日は1人だ。
そうだった。恭太の行かなさそうな所だけを考えてて、この人のことを忘れてた。涙で脳ミソまで溶け出していたのだろう。
しかも、恭太と離れたことで頭がいっぱいで、中山さんが過去のことを知ってるかも、ということも忘れてた。
中山さんはニッコリ笑いながら近づいてくる。
「あの畑中っていう人はどうしたの?熱烈なラブレターをもらったんでしょ?」
クスクス笑いながら言われた言葉に「?」となった。隣のハル兄がなぜかピクッと動いた気がする。
疑問が顔に出ていたのか、それを見た彼女は怪訝そうにした後、何かを閃いたように目を広げた。
「まさか…見て……ないの?」
なんのことかわからずに無言でいると、ハル兄が食べ終わった袋やペーパーナプキンを片付けて立ち上がった。
「そろそろ行こうか」
まるで中山さんがいないかのように、スッと横を通り抜け、歩き出してしまう。あわてて後に続く。
「ちょっと、待ちなさいよ」
今までとは打って変わった低い声で呼び止められた。
「すぐに新しい男に寄生して、恥ずかしくないの?恭太くんのことは、もうどうでもいいってわけ?」
思わず足が止まる。振り替えるつもりはない。ハル兄がいとこだということを、この人に言うつもりもない。
「あんなことをしてまで縛り付けたかったんじゃないの?卑怯よ!あなただけいつも誰かに寄りかかって。周りがどんなことになろうと構わないで、自分さえ良ければいいの!?」
今までにない感情的なもの言い。
所々、意味がわからない。
「あなたなんか、不幸になればいいのよ!」
投げつけられた呪いのような言葉で急にわかった。
この人は、恭太を狙ってたんじゃない。
標的は私だったのだ。




