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16.マコヴィチュカ学院長

王立学院の学院長ヨナーシュ=マコヴィチュカ卿は、同盟国グレービア出身の異国人である。

恐ろしく長命なグレービア人が有する知識や経験は、他の追随を許さない。その類まれな能力と旺盛な知識欲には、どんなに高名な学者や知識人でも多民族の者では到底敵う者はいないと言われている。

彼はズワルトゥ国の先々代の国王の御代よりこの国に仕えており、伯爵位を賜っている。

背が高いが、この国の者と比べるとひょろりと細身の印象を受ける体格だ。髪に一房金茶の髪が混じっているのはグレービア人の特徴だが、この特徴を理解している人物は稀である。何故なら『種』としてグレービアの民は稀少であり、一部の特権階級以外にその特色や出身国の仕組みを知る者はいない。


彼等の知識欲は底なし沼のように、貪欲だ。

そして特に知識欲の高いマコチュヴィカ学院長の趣味は―――稀有な才能を持つ人物を発掘して育てる事だった。このため彼が発掘してきた各領内出身の生徒や、諸国の留学生の受け入れは学院の日常茶飯事だった。

マコヴィチュカに見出され育成された人材は、英才教育を施される。また貧しい者については特別な支援を受けられるのだ。こうして育った人材の内ズワルトゥ王国に忠誠を誓う者は王国の執政などに関わるようになり、自国に戻る事を選んだ留学生達は各国で相応の地位を獲得し、ズワルトゥ国にとって信頼と情報を掌握するネットワークの一部となっている。


リーフェもこうしてマコヴィチュカに発掘された一人だった。

ある意味この国で彼女の唯一の理解者とも言えるマコヴィチュカに、リーフェは単なる師、そして上司以上に心酔している。だからどうしても結婚に当たっては彼に了解を得ねばならなかった。


しかし多忙な学院長を捕まえるのは、非常に難しい。


学会、会議、特別講義で国内外を飛び回り、その知識欲を満たすためにあらゆる場所に顔を出すマコヴィチュカが学院長室に足を運ぶのは、一年の半分以下だ。


リーフェはどうしてもハルムが定めた期限前に、彼に相談したかった。

タイムリミットは一月を半分も過ぎてしまった。それまでに、マコヴィチュカに面会できる機会は―――一度しかない。


次のアルフォンスの家庭教師の日は月一のチェック日。外国に長期出張をしていたマコヴィチュカが久し振りに王宮を訪れる事になっていた。







「あの」


予定していた課程を修了した後、リーフェは口を開いた。


「ご相談があるのですが、ちょっとお時間いただけないでしょうか」


マコヴィチュカとアルフォンスは、リーフェの顔をじっと見た。


「どっちに?」


アルフォンスが、代表して尋ねた。


「えー、と。お二人に……」


一瞬逡巡してから、リーフェはそう切り出した。

そう言えば二人とも、リーフェの雇い主である。


マコヴィチュカは王立学院の学院長として、アルフォンスは家庭教師を受ける生徒として―――今後の勤務形態の変更の相談をしなければならないのだ。

リーフェは少し緊張で上擦る声を抑えて、しっかりと二人を見つめ口を開いたのだった。



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