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理不尽な襲来

 アクセスありがとうございます。

 一頻り天沼さんが見せ終わり、飯田くんとのヒエラルギーをはっきりさせた後、酒場で会議の時間が始まりました。

 四人は並んで席に着き、天沼さんは飯田くんのお金で購入したごはんを貪るように食べています。両手を振り回して次々口に食べ物を放り込むその姿は、食欲旺盛な猫のようにも見えました。飯田くんはあからさまに溜息をついています。この人、将来ちょっと苦労するかもです。

 「おれ達がここに迷い込んだのは、昨日の学校の昼休み。初花の言っていたウロコの生えたウサギを発見してな。不覚にもつい追い掛けてしまって、そのまま死ぬほど深い穴に落っこちて、不用意に扉を潜ったらこうして迷っちまった」

 豊彦くんは両手を晒しながらそう言います。その表情には反省の色が浮かんでおりました。

 「それから丸一日、飯田と二人で死にそうになりながら過ごしたぜ。町の連中は、どいつもこいつも同じことしか言わなくて気味が悪いし、おまけに性質が悪いのは帰る方法が分からないということなんだ」

 と、豊彦くんは深く溜息をつきました。げんなりとした空気がこちらにも伝わって来ます。それを気にした風も無く、漫画みたいに巨大な骨付き肉を頬張っていた天沼さんが、静かに顔をあげました。

 「帰る方法がない? それって、セーブポイントとやらが関係しているんじゃないのかい?」

 天沼さんが陽気に問いかけて、豊彦くんが肩を竦めます。

 「良く分かったな。もっとも、そこら中で触れ回っていたものだから、おまえならまあまあ察しがつくというものだろう」

 「宇和川」

 と、そこで飯田くんが言葉を発しました。

 「結局、メモリージェムは買えたのか?」

 「買えん。道具屋には売ってないアイテムみたいだな。……まったく一縷の希望が費えた具合だぜ。こりゃ本格的にレアアイテムっぽくなって来たぜ。セーブ用のアイテムが一日がかりで手にはいらないなんて、どんな無理ゲーだっつーんだよな」

 豊彦くんは不満そうにぶつくさ呟きました。「どういうことなの?」わたしが口を挟みます。

 「いいか初花。この町には教会ところがある。でっかい十字架があって神父がいて、敬虔な子羊達がわらわらと両手を合わせて『お救いください。我らが偉大なる神よ』とほざいてる場所なんだな。そしてここはRPGの世界、セーブポイントがあるならここだと思った訳」

 豊彦くんは皮肉たっぷりにそう説明し、わたしの方に憂うような視線を送ります。

 なんだか責任を感じているような、ふがいなさを感じているような、そんな表情。巻き込んでしまった、と、思われているようでありました。

 分かりません。

 「教会にたどり着いて、おれは神父に尋ねたんだよ。『そろそろこの世界から出て行きたいんですけど』ってな。神父はにこにこしながら答えたさ。『でしたら、そこのセーブポイントを使いなされ。あなた達を元の世界に戻してくれましょう』セーブポイントは、何か良く分からんが妙に幾何学的な足場だったぜ。その上に足を乗せてさぁ現実世界に帰還するぜ! って時に、現われたメッセージがこうだ」

 豊彦くんは飛びっきりお間抜けな顔を作って、それから棒読みのような口調で言いました。

 「『このセーブポイントは封印されています。使いたければメモリージェムで開放してください』

 「もうやめろ」

 飯田くんがそこで口を出します。

 「そんな風に言ってもしょうがない。宇和川、こうなったら一刻も早く」

 「そうだな。分かってるよ」

 と、豊彦くんは立ち上がります。スタイリッシュな、飯田くんのものよりは軽そうな青黒い装甲に、漆で塗ったような細い剣を一本腰に携えておりました。腰の剣を確認する豊彦くんの姿は、これから戦地に赴く剣士そのもの。飯田くんが立ち上がり、それに続こうとします。

 「……待って、待ってよ」

 わたしは豊彦くんにすがり付いて言いました。

 「どこに行くの?」

 「町の石垣の外だ。メモリージェムがあるとすれば、そこしかない」

 豊彦くんは覚悟を決めたように言いました。

 「つまりお二人は。さっさとこの世界から出て行く為に、それに必要なアイテムを探しに冒険に出る訳なんだぁね」

 天沼さんが楽しげに口を挟みました。

 「そうだ」

 「そりゃぁまあ、ここも意地悪な作りになっているようだぞよ」

 けらけら笑って、天沼さんはにこにこしながら食事に戻りました。大きな骨付き肉に食らい付いて、頬を汚します。

 「初花。おまえはここで待っているんだ。すぐにもとの世界に返してやる」

 「やだよ」

 わたしは突っぱねました。

 「置いてかないでよ。せっかく会えたんだから。外に出るんでしょ? 町の人に外は魔王が放った魔物が出るって聞いたよ? 豊彦くんだけじゃ絶対危ないよ、わたしも行くっ」

 言うと、豊彦くんは困ったように眉を潜めました。飯田くんがわたしと豊彦くんを交互に見据えて、豊彦くんに何やら視線を送ります。『おまえが説得しろ』そう言っているような、そんな気がしました。

 男の子って、どうしていつもこうなんでしょう。

 こんなことして格好が付くと思っているんでしょうか。わたしは頬を膨らませます。豊彦くんはいこんなとき、いっつもわたしを置いてけぼりにしてばっかりです。わたしだって行きたいです、一人で待ってるなんて嫌ですよ。良いじゃないですか連れて行ってくれたって。子供みたいに、そう抗議しようと思いました。

 その時でした。

 「う。うわー、大変だぁ!」

 酒場の扉が機械的な動きで開かれました。機械で作ったような声色は、なんとか驚きを表現しようとしているようです。現われた男に、今まで決められたとおりの行動だけを取っていた酒場の人達が注目しました。

 「ど、どうしたんだ。何があったんだ?」

 男は酒場の中央までどかどか歩いて来ます。どうしたんでしょうか? 今までこんなことって、一度もありませんでした。人々は身を乗り出して男の言葉を待ち受けていて、寡黙だった店の主人もグラスを拭く手を止めています。

 「や、奴が来たんだぁ! 石垣を乗り越えて、ま、町の中に。憲兵団もまったく歯がたたない。つ、強すぎる!」

 「奴って? あの高い石垣を乗り越える、その、奴っていうのは?」

 トランプをしていた大男が唾を飛ばしました。すると男は恐ろしげに口にします。

 「竜だ。竜が出たんだ! 翼の生えたドラゴンが、この町を襲いにやって来たんだっ!」

 店の主人がグラスを落とす音が鳴り響きました。ぱりーん! 店中はしばし混乱に包まれます。人々は皆、抱き合うようにその場に蹲りました。


 ドラゴンというのは空想上の生き物の中でも、神聖でかつ強いものだとされています。

 ニーズヘッグ、ハバムート、ワイバーン、ドレイク。わたしでもこれくらい知っているくらいなのですから、一口にドラゴンと言っても枚挙に暇がありません。ですが共通して言えるのは、どれも体がとても大きくて、それに相応しい巨大な口と、ずらりと並んだ牙があることでしょうか。食事をする器官であるところの口は、その生物が生態系において如何に強大な存在であるのかを指し示す基準です。捕食に向いたその大口は、ドラゴンの強さを示す象徴の一つだと言えるでしょう。

 酒場から外に出た瞬間、わたしが目にしたのは巨大を極めたドラゴンの肉体と、その獰猛な、ワニのものよりもさらに巨大な口でした。

 『ドラゴンが、現れた!』そのメッセージと共に、緑色の巨体がこちらに飛び掛ります。威嚇するようにして備わった四肢を大きく開き、鳥のものとは違う爬虫類の翼で滑空しながら、ドラゴンはこれでもかとその口の中を見せびらかしました。ずらりと並んだ牙は鋭く、口内は血を吸ったように赤黒かったです。人間などスナック菓子のようにばりぼりと噛み砕いてしまいそうな、その迫力にわたしはただ驚愕するばかりでした。

 ドラゴンの滑空は凄まじいスピードでした。まるでロケットのような勢いで飛び掛ってくる緑色の怪物を、どうすれば避けることができるというのでしょうか。わたしは真っ白になっていた頭の中を、恐怖一色で塗りつぶされることになりました。

 その時です。わたしの隣にいた豊彦くんが、剣を抜いてドラゴンの頭に切りかかりました。無謀です。ですがそうしなければならないことを、わたしは知っていました。

 飛び掛る豊彦くんに、ドラゴンは噛み付き攻撃を繰り出します。一度喰らえばぺしゃんこのぐちゃぐちゃに噛み砕かれてしまう、それは必殺技でした。ですが豊彦くんは怯みません。表情は完全に降参していました。恐怖に歪み切って、涙が出そうにぐしゃぐしゃでした。しかし豊彦くんは突撃するのをやめません。怖がっていても、怯んだり諦めたりしていないのです。

 ドラゴンの大口に、豊彦くんは自分の剣を勢い良く突き立てました。豊彦くんの身を一口で食べてしまおうとしていたドラゴンは、突然のその攻撃にたじろぎます。

 それは、踊り食いしようとしたエビのハサミが、喉に突き刺さったような、そんな程度の感覚だったのだと思います。

 「……っ! っが、がはぁっ!」

 ドラゴンの突進の衝撃を受けて、豊彦くんは体を地面に勢い良くぶつけてしまいました。その手に持っていたのは細身の剣、先端にはドラゴンの出血がこびり付いています。

 助かったのです。喉を僅かに切り裂かれたドラゴンは、口の大きさからすると少量の(とは言えバケツ数杯分はありそうな)血液を地面に向かって吐き出すと、魚の骨が外れたことを確認するかのように、鋭い爪の生えた指先で口の中を確認しました。

 「おいおい。なんだこいつは……」

 豊彦くんは苦悶の表情で、しかし立ち上がります。

 「今のって、おれは防御に成功したんだろ? だのにHPが三分の一も持っていかれた。なんつー攻撃力だよ、レベル一桁のおれ達に課されるイベント戦としちゃあ、ちょっと難易度が高すぎるんじゃねぇの?」

 「だったら逃げるのかい?」

 天沼さんがドラゴンの方を注視しながら言いました。

 「ここがRPGの世界なのだとすれば、町を襲うドラゴンを倒すのは、勇者たるプレイヤーの勤めだぁね。事実、酒場の連中は『竜を倒せ。ドラゴンと戦え』とあたし達を無理矢理外に出しやがったぞい。こりゃあ嫌でも戦わなくっちゃいけないパターンなんじゃないのかい?」

 「分かってるよ」

 豊彦くんはポケットから何やら、真っ黒い球体のようなものを取り出しました。それは魔法の実のような外見で、何かのアイテムみたいでした。

 「飯田ぁ、アレやるぞ!」

 「おう!」

 と、そこで剣を引き抜いていた飯田くんがドラゴンに向かって飛び掛ります。その足取りはたくましく、ドラゴンに対する怯えなんて一縷も感じさせないものでした。

 空を飛んでいたドラゴンは、自分の方に飛び掛ってくる生意気な人間を排除する為に、いったん地面に足をつけます。その離陸行動が隙となったのでしょう。飯田くんは思いっきり振り上げた大剣を、凄まじい勢いでドラゴンの頭から叩きつけます。

 『義人は、気合い切りを、使った!』

 途端、わたしの視界にそのような文字が流れ込みます。圧倒的な気迫を剣に込めた飯田くんの一撃は、岩をも砕く威力があることを容易に想像させるものでした。ドラゴンは気合いのこもったその一撃を頭に受けて、僅かに仰け反り、苦しそうな表情を浮かべました。 

 「今一つ、だぁね」

 天沼さんがけらけらと口にします。

 「HPの十分の一に届かない威力だぁよ。他に狙いがあるんじゃないのかい?」

 そこに豊彦くんが真っ黒い球体を持って飛び込みました。その時、わたしの視界にはこんな文字が

 『気合い切りの反動で、義人は、攻撃力が二段階下がった』

 飯田くんの全身が、透明がかった青の霧に包まれるのが分かります。下方向に向かって渦巻くそれは、飯田くんの腕力の低下を表しているのでしょうか。今飯田くんの使った技は、威力がある代わりに使用後に攻撃力を下げてしまうリスキーな技だったようです。

 「なるほど。……そのアイテム」

 天沼さんがほくそえみます。豊彦くんはドラゴンと飯田くんの間に飛び込むと、右手に持ったそのアイテムを掲げます。

 途端、その真っ黒い球体が眩く光り輝きました。するとどうでしょう、豊彦くんの体を纏っていた透明な青い霧は、もやもやと移動してドラゴンの体を包み込みました。ドラゴンは不愉快そうにそれを払いのけようとしますが、霧を凪ぐことは如何にドラゴンと言えどもできることではありません。

 『イクスチェンシを使った! 義人と、ドラゴンのステータス変化が入れ替わった!』

 文字が視界に流れ込みます。豊彦くんと飯田くんも同じようにそれを確認したのでしょう。少しだけ安心したような表情でドラゴンから距離を取りました。

 一連の動きを、天沼さんが愉快そうに説明します。

 「豊彦らしい冴えた作戦なんだぁね。飯田が技を使って自分の攻撃力をわざと下げた後、ステータス変化を入れ替えるアイテムで、その攻撃力下降をドラゴンに押し付ける。なかなか大した連携なんじゃないのかい?」

 地面に降り立ったドラゴンは、どこか気だるそうに豊彦くん達に襲い掛かります。大立ち回りをした後の隙、豊彦くんは防御行動が一歩遅れたようでした。ドラゴンが予備動作の少ない爪で攻撃を仕掛けて来たということもあります。剣の腹で爪を弾こうとしますが、二段階下降しているとは言えその威力は本物です。豊彦くんは苦悶の声をあげながら一歩後ろに仰け反ります。わたしは咄嗟に豊彦くんにヒールを唱えると、助太刀の為、ドラゴンの方にあるちめっとせいばーで立ち向かいます。

 「バ……バカ来るなって!」

 いいえ、聞いてられません。聞いていられませんよ。わたしはあるちめっとせいばーを振りかぶり、ドラゴンに向かって勢い良く切りかかります。ようやくわたしのターンなのです、戦わないでどうしましょうか。 

 「どうせおまえが切っても大した威力にならん」

 うるさいです。知ったことじゃありません。ドラゴンは次の切り裂き攻撃の為に振りかぶる動作をしています。もしわたしが攻撃をして怯ませることができなけらば、誰かが爪の餌食となるのです。行かなくちゃいけません。

 眩く光る純白の剣、わたしがウロコの生えたウサギから貰ったのは、実に頼りになる素敵な剣です。勇気を持ってきちんと使っていけば、みんなのことを助けられるはず。

 ドラゴンの頭に向かって振り落とした剣から、腕が千切れそうな手ごたえがありました。

 全身に迸るようなその感覚は、ドラゴンの身に剣が深く食い込んだものでした。硬い硬いドラゴンの肌は大きく裂けて、隙間から鮮血が迸っています。ここまでリアルに作らないでください! 怖いです! これはえげつないです! 

 「グオオオオオオオオオーーーっ!」

 ドラゴンの悲鳴が響きます。苦痛に満ちたその叫び、ドラゴンはわたしのことを振り払おうと、首を上に向かって振り、牙を突き立ててきます。わたしはあわててドラゴンの頭から剣を引っこ抜きますが、遅いです。ドラゴンが首を振るった勢いで、わたしの体は宙を舞いました。頭が痛くなるような浮遊感、地面に叩きつけられると思ったその時、わたしの体を受け止める両手がありました。

 「無茶しやがって」

 豊彦くんです。豊彦くんはわたしをその場に立たせると、ほっとしたような表情を見せました。いつもこんな風に分かりやすく感情を表現してくれると、とっても助かるんですけどね。

 「今のは効いただぁよ~」 

 けらけらと、天沼さんがこちらに向かって歩き出しました。

 「ドラゴンのHPの三割弱くらい削ったんじゃないのかい。ただの通常攻撃で、この威力ってんのはすごいだぁね」

 「おまえ」

 豊彦くんはいぶかしげな顔をして、天沼さんを見詰めました。

 「ドラゴンのHPが分かるのか?」

 天沼さんはニヤニヤとして

 「『分析』っていうスキルだぁね。ちなみにあのドラゴン、弱点は腹部と口ん中だからそんな感じで。後ろからの攻撃はほとんどんダメージにならないと思うぞよ」

 「分かった」 

 飯田くんが反応してドラゴンに切りかかります。ドラゴンは鬱陶しそうに爪を振るいますが、飯田くんの大剣もさるもの。攻撃力の低下したドラゴンの爪攻撃を簡単に弾き飛ばし、懐に入って腹部に剣を突き立てました。

 「グオオオオオーーっ!」

 ドラゴンが悲鳴を上げ、巨大な尻尾を振り回します。地面を抉りながらのその一撃は、先ほどの爪攻撃の何倍も威力があったようです。攻撃後の隙があったとは言え飯田くんは、その尻尾を受け切れず跳ね飛ばされてしまいます。

 「飯田くんっ」

 わたしがすかさずヒールをかけると、飯田くんは立ち上がってこちらに微笑みました。親指を立てて余裕をアピール、まだまだ平気、格好良いです。豊彦くんがそれに続こうとした、その時でした。

 「グオオオオオーーっ!」

 ドラゴンが唸り声をあげます。爬虫類の翼を大きく広げ、乱暴に何度も何度も羽ばたきました。壊れた扇風機のように、暴虐な風をあちこちに振りまきます。わたしは飛ばされまいと必死、天沼さんもローブを抑えて蹲ります。

 「グオオオオオーーっ!」

 先程の悲鳴とはまた違った声色でした。わたし達の方を血走った目で見据え、意思のある羽ばたきで空へと飛翔していきます。

 怒っている、とわたしはそう感じました。

 「空に逃げているんだぁね」

 天沼さんが言います。

 「攻撃力も下がってるし、このまま地上にい続けては効率が悪いと考えたんじゃないのかい。そして、飛竜が宙を舞って遠距離から仕掛けてくる攻撃と言えば……」

 わたし達の攻撃が届かない遠距離に飛び立って、ドラゴンは凶悪な表情で首を捻って主意の空気を大量に吸い込みます。その面相は、自らに噛み付いたネズミを叩き潰す人間にも、酷似したものでした。

 「何をする気だ……」

 豊彦くんが戦慄します。ドラゴンはたっぷりの空気を吸い込むと、どんな大砲よりも巨大な口を持ってして、真っ赤に燃え滾る炎の玉を吐き出しました。

 マグマのような色をした赤黒いそれは、人間一人を包み込むほどに巨大で、また弾丸の如き速度を帯びているようでもありました。それに狙われたのは飯田くん、火の玉と真っ向から対面し、弾き飛ばそうと剣を前に掲げます。

 火の玉が飯田くんの体まで届き、大剣がそれを吹き飛ばすように薙いだところで、大爆発と表現したくなるような現象が起こりました。

 地上に到達した火の玉は、凄まじい爆音を轟かせながら突如として膨張し、周囲に爆風を撒き散らしました。飯田くんの体は暴力的な炎に包まれながら宙を舞い、地面にぶつかってしばし動かなくなりました。

 「おい飯田てめぇ! 何くたばってやがるっ!」

 豊彦くんがあわててそれに駆け寄ります。わたしがすかさずヒールを唱えようとした時でした。

 ドラゴンが空気を集める音がします。宙に浮き、わたし達の攻撃が届かないところで、一人ずつ火の玉で仕留めていく算段なのかも知れません。酷いです、卑怯です。

 「ヒールなんて使ってる暇はないんだぁね」

 天沼さんがそう口にします。

 「口元を良く見るんだぁね。あのブレス、放たれてから届くのは速いけど、撃つ前にちょいと予備動作があるだぁよ。そして急に方向は変えられない。つまり、ずっと気を張っていればかわすことができる。その為にゃぁしょうがない、飯田は放っておくんだぁね」

 「そんなっ」

 わたしは抗議の声をあげます。

 「このままだと死んじゃいます!」

 「来るだぁよ」

 見ると、ドラゴンはもう既に口中に炎の原料となる酸素をため終えて、火の玉を吐き出そうとしているところでした。ブレスを吐き出すその首の方向は、飯田くんのところに集まったわたし達のほうに向けられています。

 このままでは、わたし達が逃げることができても飯田くんが二発目を食らってしまいます。絶望的な気持ちになっていた時でした。

 「大丈夫。立てる」

 と、飯田くんが苦しげに立ち上がります。 

 「だからおまえらも逃げろ」

 ドラゴンがブレスを吐き出しました。当たれば炎に包まれ、爆風は地面を抉り取る暴力の塊です。わたし達はちりぢりになってそれを回避。背後からは耳を覆いたくなるような、圧倒的な破壊の音が鳴り響きます。

 地面にできたクレーターの深さを見て、わたしは血の気が引いて来ました。たっぷりにえぐり取られた大地の穴は、お風呂が作れそうなくらいにぽっかりとしたものです。飯田くんはあんなのを喰らって生きていたのです。

 「最初に狙われたのが、タフネフな義人で良かったんじゃないのかい?」

 天沼さんはそうコメントしました。

 「さあドラゴンはもう一発打つ気だぁね。今ので分かった猶予期間は、だいたい六秒ってところじゃないのかい?」

 ちょうどそれくらいの間中、わたし達は身じろぎもできませんでした。ドラゴンが口に空気をため、ブレスを吐き出すまでのその緊張に満ちた六秒間。まるで時間が止まったかのような、圧倒的に密度の濃いその時間は、しかし唐突に終わりを告げて火炎弾が到来します。狙われたのは飯田くん、素早い身のこなしでそれを回避し、舌打ちしました。

 「埒があかん。このままじゃいつかやられちまう!」

 苛立った声。その面相は、苦渋と恐怖とに彩られておりました。わたしは心からそれに同調します。このままではいけません、どうにかしなくては。

 「一つ思いついたんだぁね」

 と、そこで天沼さんが口を出しました。

 「今のあたし達には空中に攻撃する術は無い。そして思うに、奴が空を飛んでいるのは、地上にいるあたし達の中の誰かが恐ろしいからじゃないのかい?」

 ドラゴンが空気を吸い込みます。狙われていた豊彦くんは天沼さんの話に耳を傾けながら、その攻撃に備えます。 

 「どういうことだ?」

 「ぶっちゃけ今の状況は奴にとっても厳しいぞい。あの火炎弾だって、そもそも無限に打てるとは思えないだぁね。だからできることなら、地上に降りて戦いたいと思っているはず……」

 ドラゴンがブレスを吐き出しました。豊彦くんは大振りな動きでそれを回避すると、天沼さんに促します。 

 「すると?」

 「奴はそのうち、狙いを絞ってくるはずだぁよ。つまり、あたし達四人の中で一番攻撃力がある人間を狙って、ブレスを吐いてくるはず……」

 ついにわたしの番が来ました。避けるタイミングは、ドラゴンがこちらに首を向けた後。方向転換が効かなくなったその途端です。わたしは気を引き締めて、その到来を待ち受けます。

 「そして初花。これは作戦だぁね」

 天沼さんはわたしの方を向いて言います。ドラゴンが口からブレスを吐き出す体制になりました。わたしはすぐにその場から離れ、放たれた火の玉を回避します。体が飛びそうな爆風、ぽっかり空いた巨大なクレーター、圧倒的な威力。

 「次に飛んで来るドラゴンのブレス、避けずに喰らうんだぁね」

 どうしたら良いか分からなくなりました。

 あんなの喰らったら死んじゃいます。そりゃあ飯田くんは生き残りましたが、わたしも同じように行くとは限らないのです。それにどうしてそんなことをするのでしょうか。わたしは天沼さんの方に視線を向けます。ドラゴンは発射の体制を整えておりました。

 「おい天沼」

 飯田くんが眉間に皺をよせ、掴みかからないばかりに天沼さんを睨み付けました。

 「どういうことだ? 本気で言っているのか?」

 「本気だぁよ」

 天沼さんはどこか楽しげに

 「勝ち目があるとすればここなんだぁね。ドラゴンが地上に逃げた理由、これはおそらく初花のアルティメットセイバーの威力に恐れをなしたから。ドラゴンの表情を良く観察していれば、それは分かるんだぁね」

 ドラゴンは口に空気をためて、またしてもわたしを狙ってきます。わたしは混乱しながらもしっかりそれと相対し、ドラゴンの口元でどんどん大きくなっていく火の玉を見詰めます。

 「だから。もしかしたらひょっとしておそらくきっと多分案外、初花が死んだとドラゴンが認識した時点で、ドラゴンはいったん地上戦に切り替えて空から降りて来ると思うんだぁね。そこで死んだ振りをしていた初花が起き上がり、ドラゴンに全身全霊を込めた必殺技を使う。それで一気に決着を着けるんだぁね」

 身振り手振りを交え、天沼さんは作戦をそう説明しました。ドラゴンは炎を吐き出す寸前、天沼さんはわたしを見ておりました。

 「まあまあ大分リスキーな作戦だとは思うぞよ。成功するかも分からんし、とは言えこのままじゃあ単にジリ貧なんじゃないのかい? 他に条件が無い以上、拮抗を破るのはこの判断しかないだぁね。このままじゃ向こうは打ち続けるしかなく、こちらは避け続けるしかない……」

 ドラゴンがブレスを放とうとしました。長い長い六秒間。わたしは静かに決意していました。

 もしブレスを受けたら本当にわたしは死んじゃうかもしれません。

 ですが、この状況を打破するにはこれしかないということは、わたしにだって分かります。そして、そこに成すべき判断が存在している以上、実行しなくてはならないと思いました。

 いっそ、この武器を捨ててしまえば、受けなければ良いのかしら。

 そんな風にも思いました。ですが、捨てただけでは意味がないでしょう。叩き折ってしまわなければ。それに、なんでかは分からないけれど、そんなことは絶対にしたくありませんでした。

 「バカがッ!」

 豊彦くんがわたしの両手を掴んで、乱暴に引き寄せました。

 「ちょっとは避けろ間抜け! 殴るぞ!」

わたしの体は豊彦くんによって地面に投げ出されます。その手には大変に力が篭っていたので、わたしは結構な勢いで地面を転がることになりました。

 「豊彦くん?」

 その動作に気持ちを使いすぎてしまったのでしょうか。豊彦くんはドラゴンのブレスをすぐに避けることはできず、慌てて逃げ出しても爆風を僅かに足に食らってしまったのです。転ぶようにしてその場に倒れ、苦しそうに足元を抑えます。

 「豊彦くんっ!」

 「そいつから離れるんだぁね」

 天沼さんの声がしました。ドラゴンはまたもわたしの方を向きながら空気を吸収しています。このまま豊彦くんに近づいたら、足をやられた彼が巻き添えになってしまうことでしょう。わたしはその場から離れるしかありませんでした。

 「天沼……てめぇ気に入らねぇ奴だな」

 豊彦くんにそう言われて、天沼さんはけらけらと笑いました。豊彦くんは次にわたしの方を向きます。

 「おまえもおまえで気に喰わねぇ。死ぬ気か? 死ぬ気だったろこらこのクソ野郎。ふざけんな、おまえが死ぬときゃ許可とらなきゃいけねぇ奴が何人もいるだろうが!」

 乱暴に荒々しくそう言って、足を庇うようにして立ち上がりました。 

 「次に避けなかったら殴る。容赦しねぇ」

 「しょうがないだぁね」

 天沼さんはどこかおかしそうにそう言いました。

 「この作戦は諦めるんだぁね。なぁに問題ない、第二プランはちゃんとあるぞよ」

 飄々とそう言う天沼さんに、飯田くんが信じられないといったような顔をしました。掴み掛かりそうな勢いで声を荒げます。

 「今思い付いたんだぁね」

 天沼さんはそれだけ言って、僅かに表情を引き締めて、わたしの方を一瞥してから、宙を舞うドラゴンの方を注視しました。天沼さんの言ったとおり、ドラゴンはわたしの方ばかり狙ってきます。ですのでわたしはみんなからできる限りの距離を取って、ドラゴンの火炎弾を避け続けなければいかませんでした。

 「その作戦というのは?」

 豊彦くんは冷静な風に天沼さんにそう問いかけました。今度は天沼さんは焦らすことはせずに、自分の作戦をこう明かします。

 「ジョブが魔法使いのあたしには、空を飛んでる相手にも攻撃できるスキルがあるんだぁね。でもそれを使う為の杖がない」

 「それで?」

 ドラゴンの方を忌々しげに見詰めながら、豊彦くんが促します。

 「あたしが今から杖を買いに走るんだぁね。だけどみんなから離れようとするあたしを、ドラゴンはきっと狙うんだろうが、そこはおまえ達に守って欲しいんだぁね」

 「ふん。作戦もクソもないな」

 豊彦くんが忌々しく口にしました。

 「文句言うなよ、のびたくん。だからこその第二プランなんだぁね。ともあれそこの彼女さんが火炎弾に被弾しない内に、あたしにその財布を寄越すんだぁね」

 詐欺師の手付きで天沼さんは右手を差し出します。わたしは迫り来るブレスから逃れるのに必死で、二人のやり取りを禄に聞いてはいませんでした。ドラゴンはなかなかわたしを倒せないことで苛立ったのか、心なし表情が怖くなっているような気がします。へ、へるぷみー! もういい加減疲れてきました。さっき一回当たりかけましたし、もうそろそろ限界って感じです!

 「気張れや初花ぁ!」

 豊彦くんの声がします。

 「当たったら承知しねぇぞ!」

 人の気も知らないで良く言いますよ! わたしは泣きそうな心境で、じょじょにリズムが乱れて来た火炎弾を交わし続けます。

 「それでは行って来るぞよ」

 と、天沼さんは豊彦くんの財布を手に走り出しました。きっと道具屋の方でしょう。ドラゴンは天沼さんの方をちらと見据え、しかしすぐにわたしの方を向き直りました。しばらくは、わたしが囮になっていられそうです。

 「もしあたしの魔法でもそいつを倒せなかったら、初花にその火炎弾を避け続けてもらってMP切れを狙う第三プランで行くだぁね」

 「絶対にごめんです!」

 「大丈夫だぁね。あたしの魔法攻撃は169、きっと仕留めてみせるぞい!」

 そう言って天沼さんは走り続けました。わたしはわんつーすりーでブレスをかわします。もうこの頃には地面はクレーターでぼこぼこ、写真で見た月面みたいになっていました。ドラゴンはなかなか当たらないことに腹を立てて徐々に接近してきますし、火の玉の大きさも心なし大きくなっているような気がします。

 もう何発目になるのか分からないブレスを回避し、わたしの足腰は限界を向かえたようでした。ドラゴンはそんなわたしを見て、爬虫類の笑みを浮かべて空気を吸い込みました。何とか避けなければと思うのですが、体が上手く言うことを利かず、このまま膝をついてしまいそうになりました。

 全身に冷たいものがほとばしります。きっとこれは、あの時命を粗末にしようとした報いなのかもしれません。

 そんな風なことを、つい思い浮かべた時でした。

 「大丈夫か」

 硬直していたわたしの両肩に、豊彦くんの両手が乗っかりました。

 「もう少しがんばれ」

 と、豊彦くんは険しい顔で言いました。その表情は汗に塗れ、悔しさに満ちてとても痛々しいものでした。いつもの不遜さがどこやらな、そんな豊彦くんの顔を見て、どうしてかわたしはしゃきっとしました。

 「豊彦くんこそ、こんなところに来ちゃ危ないじゃない」

 わたしはそう言いました。

 「もう空気は吸い終えたみたいだよ。すぐに次のブレスが来る」

 「ようし。それじゃあそろそろ」

 「うん」

 ドラゴンがこちらに的を合わせると同時に、わたし達は右側に向かって飛びました。どちらに逃げるか確認しておいた方が良かったような気がしますが、そこは息を合わせてどうにかします。

 「よし次だ。いけるぞ」

 「うん」

 豊彦くんは体力も気力も限界に近いわたしを、そう言って支えてくれます。

 なのでわたしは、どこかしら勇気が沸いてきました。

 わんつーすりーでブレスをかわします。心が挫けてしまいそうになりますが、我慢です。

 だって本当は死にたくなんてないんです。こんなところで理不尽に、怪物に襲われて火達磨になって死ぬなんて絶対に嫌。人間はふつうはベッドの中で死ぬものです。

 だから、豊彦くんが投げ飛ばしてくれた時は、本当にほっとしたものです。あの時は全身の水分を吸い取られたようにからからで、全身を鉛で固められたような金縛りにあっていました。涙が出そうで吐きそうで、立っているのもやっとだったのです。

 嬉しかったのです。

 わたしは生きていたいのです。

 ドラゴンはわたしの顔くらいある巨大な瞳で、忌々しくこちらを睨みつけています。絶対に当たってなるものかと、わたしがそれを睨み返します。するとドラゴンの視線はわたしの頭を通り過ぎていきました。

 「……?」

 わたしと豊彦くんが顔を見合わせます。すると背後で、急き立てるような声がしました。

 「危ねぇ!」

 天沼さんを追い掛けていた飯田くんのものでした。一目散に道具屋に走っていた天沼さんが、その言葉に振り返りました。

 きっとそこには、凶悪な面相でブレスを放とうとするドラゴンの姿があったものでしょう。

 「い、いへへへへ……へ?」

 天沼さんは表情を歪ませて硬直しました。ちょうど天沼さんが走るのに合わせてブレスの軌道を修正していたドラゴンは、その硬直を見て取って顎の向きを固定しました。驚いた天沼さんは緩慢にその場を離れようとしますが、もう遅い。

 「バカ女!」

 飯田くんが走りました。そして天沼さんの軽い体を突き飛ばします。天沼さんは地面に尻餅を着いてしばし呆然とします。ブレスが吐き出され、地上に大爆発を引き起こします。

 飯田くんはまたしてもブレスによって吹っ飛ばされました。火傷塗れで地面を転がった飯田くん。飛び跳ねるように天沼さんは立ち上がりました。

 「痺れただぁねジャイアン! 生きてるだぁか?」

 飯田くんは地面に寝転んだまま、右手だけを上げて親指を立てました。どこまでもタフネフです。天沼さんは心底ほっとしたような表情になると、忌々しそうに眉を潜めて何やらつぶやいた後、顔を背けるようにして道具屋の方を向き、一目散に駆け込んで行きました。

 ドラゴンはきょろきょろと動かしますが、しかし天沼さんは道具屋に入ってしまっておりません。なので、ドラゴンは他の照準を探して首をもたげましす。

 ドラゴンの視界には、わたし達三人の姿がありました。

 寝転がったままの飯田くん、倒れそうなわたしとそれを支える豊彦くん。

 飯田くんはもう戦闘不能にしたと思ったのでしょうか。

 ドラゴンはすぐにわたし達の方を向きました。好都合と冷静に勘定する心と、再び始まるチキンレースに恐怖する心とが入れ混じります。

 「もうちょいだ。耐えるぞ」

 豊彦くんがわたしの肩を握りました。

 「分かってるよ」

 わたしはそれに答えました。

 ドラゴンは今度はさっきまでとは比べ物にならないほどの時間、周囲の空気を吸い集めていました。次にどんな攻撃が来るのか、想像もできません。

 ドラゴンはまずはわたしを片付けて、それから地上に降りて他のみんなを倒す算段だと言います。

 あるちめっとせいばーは本当に強力な武器です。しかし今は、それに頼っても解決しないのです。わたしのやるべきことは、次の攻撃をかわすこと。

 「大丈夫さ。どうにかなる」

 豊彦くんはそう言って笑いました。

 「いざとなりゃおれが壁になる。飯田だって二発食らったんだから、一応鎧着てるおれなら一発くらいどうにかなるさ」

 「嫌ですよ。そんなの」

 わたしは唇を尖らせます。

 さっきわたしが避けなかった時は怒ったのに、本当に勝手な人だと思いました。豊彦くんがこういう人だっていうのは良く知っているのですが、これは一度話しあった方が良いかもしれません。ごはん食べたらどうせ忘れちゃいますけど。

 「嫌か。嫌ならな」

 豊彦くんは肩を竦めました。

 「死ぬ気でかわせ。それだけだ」

 ドラゴンがこれまでになく強烈なブレスを蓄え、吐き出しました。

 今までのブレスが炎の弾丸だったとすれば、継続的に繰り出されるこのブレスはまるで火炎放射器のようでした。いっそ理不尽な程に太く長い真っ赤なレーザーが、わたし達を追い回します。

 逃れても逃れても、その度ドラゴンは軌道を修正して炎を浴びせようとします。わたし達はただただ逃げ回りました。熱気に地面が削がれる気配、わたし達は分散した方が良いのにバカみたいに一緒に逃げ続けます。

 ドラゴンはとんでもない肺活量で息吹を吹きかけ続けました。酸欠で死にやがれです。わたしは本当に心からそんな悪口を言いました。

 こんなの逃げ切れる訳ないのです。わたし達が逃げる速度より、向こうが首を傾ける速度が上回っている限り、いつかは追い付かれて焼かれてしまうものでしょう。

 しかし諦める気はさらさらありませんでした。

 「グオオオオオオオオオオーーっ!」

 ドラゴンから発せられる火炎放射がやみ、その獣の叫びがわたし達を震わせました。

 空を見ると、隕石のごとく降り注ぐ巨岩に、爬虫類の翼を貫かれるドラゴンの姿がありました。

 「これ、『メテオ』っつー何の捻りもないネーミングの攻撃魔法なんだぁが……」

 と、道具屋の前で、装飾過剰な杖を携えてた魔法使いが言いました。

 「上空から無数の隕石を注いで攻撃するA級魔法。まあ空を飛んでるおまえにゃぁこれ、きっと効果抜群なんじゃないのかい?」

 天沼さんは勝ち誇ったように笑いました。ドラゴンは尚も悲鳴をあげ、翼を畳んで降り注ぐ巨岩に耐え続けます。無数に穴を空けられ、全身を隕石のように降り注ぐ岩に打たれ、翼を畳んだドラゴンはそのまま地面に向かって下降していくしかありませんでした。

 「さぁさぁお二人さん。そしてそこで寝転んでる男も」

 天沼さんは杖を前に突き出して、哄笑とともにこう言いました。

 「そいつにとどめを刺すんだぁね!」

 豊彦くんが真っ先に駆け寄って、ずしりと着地したドラゴンの腹部に突きを繰り出します。地上で体制を立て直そうとしたドラゴンは、その一撃によって地面にのたうちました。

 飯田くんが起き上がり、巨剣を携えてドラゴンに突撃しました。さっきも見た強力な大技『気合い切り』で、のたうつドラゴンの顎を地面に向かって叩きつけます。

 あるちめっとせいばーを握り締め、わたしは最後の攻撃を繰り出しました。ドラゴンは血だらけになった口をこちらに向けて、苦し紛れにブレスを吐き出そうとします。しかし誰に通じても、わたしはそれを簡単にかわすことができるので、まったく怖くありません。構わず突進し、空気を吸って隙だらけのドラゴンの頭を、あるちめっとせいばーで思うさま叩き切りました。

 ずん、とした手応えがありました。体全体に衝撃が走ったかと思うと、剣はドラゴンの硬い肌をずしずし貫いて、その首を大きく切り裂きました。

 それはもう信じられないほど深く食い込んだのです。わたしは当惑するのをこらえながら、今まで暴れまくっていたドラゴンを注視しました。断末魔の悲鳴すら上げなくなったそのドラゴンの首は、わたしが剣を抜き取ると同時に動かなくなり、がくりと地面に伏しました。

 『ドラゴンを、やっつけた!』

 その時、わたしの視界にそんな文章が流れ込みました。

 全身の力が抜けて、その場に倒れこみます。豊彦くんが駆け寄って、安心と脱力に満ちた、しかし自分では不遜な風を装った表情で、わたしの方を見下ろしてきました。

 わたしは余裕を示そうと微笑み返そうとしたのですが、立ち上がることすらできませんでした。

 読了ありがとうございます。

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