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異世界行き切符

私は絶対に異世界に行って素敵な恋がしたい。


いや、したいとかじゃない。


するんだ。


そう堅く決めて、深夜にオークションサイトで見つけて競り落とした《異世界行き切符》


2万した。

いや、何も言うな。

分かっている。分かってるってば!


自分で稼いだお金なんだから何使おうが誰にも文句言わせないぜ!

あえて言うなら、お父さんお母さんこんな娘に育ってごめんなさいだけど、もう大人だから好きにさせてもらいますわイェーイ!


《異世界切符 使用方法:これをポケットに入れて電車に乗ることで、異世界の駅に繋がります。》


なるほどね。

ホームの隙間に激突するとか書いてあったら、今年で26歳の大人の女にはだいぶハードル高かったわ。


私は洒落臭い現実におさらばすべく、休日の朝に意気揚々と電車に乗る。


自分で言っといたけど、洒落臭いってどういう意味?


いいの!でもそんな小難しい日本語も知らなくていいの!


さぁ!明日へ!輝く異世界へ!


私は夢と希望のチケットをポケットに捩じ込んで、電車に乗り込んだ。


ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン


プシュー


おかしい。


とりあえず、あまりよく知らない路線の終点まで乗った。


最終的にあまりに過疎ってる土地なのか、車両に残っていたのは私だけだった。


終点だから、降りざるを得ない。


駅名は《伊勢海》


"イセカイ"


いや、まさかね。


めっちゃさびれた日本の駅だし。


いやほんと、許さんからな。


ホームから改札に歩くと、駅員の男性が1人いた。手を振っている。


『ようこそ〜!イセカイへ〜!』


『許さん!!!!!!!』


『?!?!』


私の魂の恫喝に、駅員の男性は直立の姿勢のままその場で跳ねた。


『あの駅員さん、お尋ねしますが、ここは何県のどちらの町ですか?』


『あー、びっくりした。ここは、イセカイ駅です。驚かないでくださいね、なんと、異世界でもあるんですよ!異なる世界の方の!』


『そのセンス許さん!!!絶対に!!!』


私の求めてる異世界にそんなダジャレみたいな要素1ミリも必要ない。


いやいやいや待てよ?


もしかしたら駅を出れば、イケメンと魔法の広がる世界?


あるいは寂れた駅だし、スチームパンクでイケメンとサバイバルで生き抜く世界?


はたまたドラゴンや騎士団?

どちらかというとドレスとかの世界観がいいなー!!


改札に走り寄ると、そこにあったのは。


壁。


一面の壁。


よく見ると、ホームの上もドーム上の壁。



『は?異世界は?』


『異世界の駅ですよ?』


『魔法とイケメンに溢れたファンタジーな大国は?』


『駅だけの異世界ですよ!』


『その世界どこに需要が?!?!』


『需要があるから存在するのではありません、存在があって、初めて需要が生まれるのです。』


心底どうでもいいことを語る駅員を無視して、私の目からはハラハラと大粒の涙が流れ落ちる。


『わ、私の2万円…異世界の恋人…』


『2万円?』


『オークションサイトで2万円で買った異世界切符でここにきた。』


『…(うわぁ〜…)』


『うわぁ〜って顔しないでもらえます?』


そのままメソメソうずくまる私の周りをぐるぐる歩き回る駅員さん。


『あの、歩き回るのやめてもらえます?落ち着いて落ち込みたいので。』


『魔法が見たかったんですか?』


『…まぁ。』


『ありますよ、一応魔法。』


『ほんとに?!』


『ついてきてください。』


私は駅員に導かれ、ホームに戻る。

そして階段を登って、通路をわたり、また階段を下って反対のホームにでる。


『はぁはぁはぁ、なぜこんな小さな駅なのに無駄に階段が長い。』


『ほら!見てください!』


先にホームに着いた駅員さんが、しゃがみ込んで、線路の方を指差す。


さっき私が乗ってきた電車がまだ止まっている。


私もしゃがみ込んで見てみるが、普通に電車の車輪と線路しか見えない。


『これのどこに魔法が?』


『よく見てください!』


『??』


『…2ミリだけ車輪が線路から浮いてるんです』


『…』


『…』


『無茶苦茶どうでもいい魔法!!!!』


『ええ?!すごくないですか?!しかも浮いてるから摩擦で走れないから魔法で進んでるのに!!』


『つーかもう現実にもリニアあるし!浮いてるし!』


『え?!そっちでも浮いてるの?!すごくない?!魔法いらなくない?!』


そういうんじゃないんだ!

私が欲しかったのはそういう世界観じゃないんだ!


絶望。


期待させられて2回目の落胆に立ち直れなくて再びうずくまる。


『まぁまぁ、元気出してくださいよ。あ!そうだ!』


ゴソゴソとポケットを探る音。


『僕耳かき持ってるんですよ!落ち着くように耳掃除してあげますよ!』


『チェストーー!!!!』


私の後ろ回し蹴りが、華麗に駅員さんの右手の耳かきをへし折った。


『何?!何が起こったの?!チェスト?!』


『耳かきはだめ!ASMRでそのまま寝落ちして現実に戻る定番ですよ?!私意地でもこのままじゃ戻れないんです!異世界を!私異世界でイケメンと幸せになりたいんです!』


『おぉ、なんという欲望へ忠実な叫び…。』


言い切って肩で息をする私と、勢いにたじろぐ駅員さん。



『…分かりました。そこまで言うなら、来てください。』


駅員さんは改札の脇の、駅員さんの部屋に入っていくと、大きめなガチャマシンを抱えて出てきた。


『これ本当は設置する予定なかったんですけど、お姉さんの勢いに負けましたよ。』


《異世界ぐるっと一周ご当地ガチャマシン》


ガチャマシンにポップな字体でそう書いてあり、魔法使いや、ドラゴン、剣や、ユニコーンやドレスのイラストが描いてある。


『いや、さすがにガチャガチャで機嫌良くなっちゃう情緒は二十年前に通り過ぎたんで…』


『このガチャガチャ、何を隠そう各異世界の神様がコラボしてて、出たカプセルのアイテムのある世界に飛べるんすよ!』


『いくら?!』


『一回五百円です!』


『高っ!一万円両替できる?』


駅員さんがロッカーの隣にある両替機に案内してくれて、大量の百円玉を用意して、ガチャマシンの前で深呼吸する。


カッと目を開く。


いざ行かん!今度こそ!当たりな異世界!



チャリンチャリンチャリンチャリンチャリン


ガチャリ


コロコロ


『いでよ!目が覚めたら裕福な貴族の娘で、幼馴染のイケメンと両片思いのじれじれの世界!!』


パカッ


入っていたのは、ミニチュアの剣??


『えー?なぜか異世界転生したら女嫌いのイケメン騎士団長に執着される世界線かなぁ??』


私がカプセルの中の剣を手に取ると、急に眩しい光に包まれる。


『あ!!触っちゃダメですよ!!!転移してしまう!』


眩しさに目を瞑った瞬間に、駅員さんの手が反対の手に触れた気がした。



光が収まり、意識が戻ってきた時。


私は剣を持っていた。


デカい剣を。高々と掲げていた。


『あ、あの娘!抜きおった!!』


『真の王しか抜けないはずの剣を!!』


『奇跡だ!新王だ!新王バンザーイ!』


私は筋肉マッチョの猛者たちに囲まれて、高々とデカい剣をかがげていた。


どうやら元々目の前の石台に刺さっていたのか、亀裂が入っている。


『違う!!!!!なんか違う気がする!!!!』


『だから触っちゃダメと言ったじゃないですか〜』


白い髭長い付け髭をくっつけて、水色の魔法のローブを着た駅員さんがいた。


手には先端が渦を巻いた木の杖を持っている。


『駅員さん、これはなんなんですか?』


『今は予言の大魔法使いですよ。あなたは伝説の剣を引き抜いて真の王になったところです。』


『ふざけたこと言う口をぶった斬ってやろうか?』


『暴君?!?!』


『なんで私が剣引き抜く方なの?!両片思いの幼馴染は?!貴族の暮らしは?!騎士団長は?!』


私が剣を突きつけながらズンズン大魔法使いコスプレの駅員さんを追い詰める。


壁に追い詰められた駅員さんは、両手をあげて降参の姿勢で、鼻先ギリギリの剣先を見つめている。


『と、とりあえず、この世界の課題を解決すれば次のガチャが引けるんじゃないですかね?』


『ほんとに?』


私の構えた剣先が怪しく煌めく。

駅員さんは慌ててローブのポケットをゴソゴソすると、いつの間に持っていたのか、さっきのガチャガチャの中に入っていた小さい説明書きを読み出す。


《本商品は、気軽に色々な異世界を簡易的に楽しむことを目的としています。異世界のトラブルを解決して、どんどん異世界旅を楽しみましょう!もしかしたら一時の恋も生まれたり?!》


『って、書いてあります!』


汗でローブの脇のとこ色変わっとるやん。


『チッ!早くこんなゴリマッチョな世界とはおさらばするよ。私はキュンキュンするトキメキ系だけを堪能したい。』


『え、…この状態から、そんな簡単にできるものですかね?年単位はかかりそう。』


『大変だーーー!隣の大国が攻めてきたぞーー!!!』


『騎士団を集めて直ちに戦況を知らせろ!王に続くのだ!!!!』

『新王バンザーイ!!うおおおおおーー!!』



とりあえず私が一騎当千で無双して、大国を統一して駅に戻ってきた。



『どゆことどゆことどゆこと???何が起きたの????君、何者なの????』


『早く!次のガチャを!!』


チャリンチャリンチャリンチャリンチャリン



ガチャリ


コロコロ



今度は7つの星が入ったオレンジの玉が入っていた。


触るわけがない。

人によったら大喜びだろうけど。

違うよ、そういうんじゃない。


ガチャリ ガチャリ ガチャリ


その後も、鎖鎌とか、鉄鍋とチャーハンとか、リコーダーとか、渦巻きの額当てとか


たぶん違うのばっかり出てくるから絶対触らない。


『異世界の神様、ジャン◯にハマってる?!もっとコバル◯文庫とか読んでよ!!最高だよ?!』


最後の百円玉五つ。


チャリンチャリンチャリンチャリンチャリン


ガチャリ


コロコロ


心なしかげっそりした駅員さんと、私は食い入るようにガチャマシンの吐き出し口を見る。


パカリ


白いベールと宝石の着いた十字架のミニチュアが転がりでる!


『役立たずの聖女が隣国で愛される系!!!!』


『え?聖女なのに?役立たずなんですか?』


『行ってきまーす!!』


『ちょ!待って!』


迷わず被ったベールが光り、また眩しさに視界を失う。


光が収まると、なんか、暗い。



『もうこんなことはやめてください!』


『あいつには言葉など通じない!この聖剣で!トドメを刺す!』


『待ってください!彼女にもまだ人としての意識が残っているかもしれない!たとえ!魔王になってしまったとしても!!』


『こっちなんかーーーーい!!!!』

『魔王様落ち着いて!』


髑髏の飾られた玉座に座った私の前で、聖女とイケメンの勇者が対峙している。


駅員さんはいかにも魔王の部下っぽい格下の悪魔みたいなツノつけて、肌紫になってるし。


私も爪とか長くなってるし。


なんか力漲ってるし。


『これで終わりだ魔王!聖女アイリーン!俺に力を!』

『分かりましたわ!天に祈りを!ホーリーアロー!』

『うおおおおおおおーーーーー!!!』



『チェストーーーーーー!!!!!』

『でたーーー!!!!チェストーー!!なにそれー!!!』


魔力を込めた、必殺魔王後ろ回し蹴りに寄って、勇者は吹っ飛んで壁にめり込んだ。


『きゃーーーー!!!!勇者さまーーーー!!』


『恐るべしチェスト…。』

『ただの鹿児島の方言だから。』


何も解決してないはずなのに、駅に戻る時のように視界が白んでいく。


『ここの世界の神が、あなたが手に負えないのでとりあえずおしまいってことにしたのでしょう…。』


駅員さんが白けたように呟く声を聞きつつ、私は神に問う。


神よ、何ゆえ私を、ランキング上位の異世界恋愛の世界に転生しないのか?


神よ


『…あまりに適性がないからでは?』


気がついたらまた駅に戻っていた。


もう財布も空だ。

百円玉もない。


また、振り出しに戻った。


『お姉さん…。』


駅員さんは落ち込む私に声を掛けるか迷っているのだろう。


『あの、お姉さんは、何者ですか?』


『私?』


『チェストの回し蹴りといい、一騎当千といい、あなたは一体…。』


私は立ち上がる。


『帰ります。どうやってここから帰れるの?』


『ここから、帰るには、あ、耳かき折れちゃったしな。』


『え、ほんとに寝落ちで帰るんだったの?じゃあいいです、床で寝るの慣れてるんで。』


床でうずくまって眠ろうとする私の隣にしゃがみ込んだ駅員さんが、頭を撫でてくる。


嫌ではなかったので、そのままにしておく。


『お姉さん、名前はなんていうの?』


『佐野愛。偽名だけど。』


『偽名教えてくれるなんて、そっちはセキュリティ意識すごいね〜。僕はアノイだよ。本名だよ。』


『…あっそ。』


心底興味なさそうに、それだけ返事をすると、愛はあっという間に眠りに落ちてしまう。


『愛は、面白い人だな。もっと一緒にいたいなぁ。あ!そうだ。』


アノイはいそいそと、うずくまる愛の近くに自分も寝転ぶと、愛のお腹に頭を乗せて、自分も目を閉じる。


『僕も一緒に転移しよ〜と。おやすみ、愛。あとでね。』


現実世界で目が覚めた時、この2人がどうなるかは、また今度のお話。


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