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274  作者: Nora_
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01

「ふざけんじゃねえよ!」


 忘れ物をして教室に取りにきたのにその教室から大きな声が聞こえてくればびびる、少なくとも私はそうだ。


「このまま続けてもなにも変わらないよ」

「はっ、別にそんなのどうでもいいんだよ」

「嘘だね」


 担任の先生かと思ったものの、知らない男の人と話しているみたいだ。

 ついでに言えば叫んでいる女の子もクラスメイトではなかった、それなのにこんなところでなにをしているのか。

 はぁ、なんか面倒くさくなってきた。

 そもそもの話、なにも気にせずに物を取って帰ればいいのだ。

 こうして盗み聞き的なことをしている方が危ないという話だ。


「はいはい、失礼しますよーっと」


 あった、課題のプリント。

 残念ながら「忘れました!」と可愛く笑いながら言っても教科担任の先生が大爆発する類の物だ。

 これはいつでもそこに繋がっている危険なアイテム、……いや本当に途中で思い出せてよかったと思う。


「きみは?」


 え、それはこっちが聞きたいところだけど。


「当たり前のように机の中を漁ってこれを取ったように私はこのクラスの栗林一葉《くりばやしひとは》です」

「そうなんだ、この子のことはなにか知っていたりする?」

「いえ」


 正直、クラスメイトだっての名字や名前だって一部しか分からないのに他クラスとなれば無理だ。


「ごめん」

「いえ、それではこれで」


 そりゃ大して知らない相手に頼んだりはしない。

 というか、頼られても困るからすぐに帰ることができてよかった。


「ただいま」

「おかえり!」


 だって私は小さい妹の相手をしなければならないから他の存在に構っている時間はないのだ。


「乙葉《おとは》、もう勉強はやった?」

「うん!」

「偉いっ、そんな乙葉にはこれよ!」

「お姉ちゃんのゲームだ!」


 ソーシャルゲームにはまりませんように。

 こういう買い切りのゲームで楽しく遊んでほしい。

 少し工夫すれば何周でも楽しめるものだ。

 ただまあ、視力が悪くならないようにそれでも程々にしてほしいところだけど。


「お母さんは?」

「さっき出ていっちゃった」


 なにも言わずに? 母はそういうところがあるから違和感はないけど、娘を不安にさせないためにもちゃんとどこにいくのかを言ってから出かけてもらいたいところだった。


「でも、ご飯は作っていると」

「『お姉ちゃんが帰ってきたらいっしょに食べようね』って言っていたよ?」

「じゃ、帰ってくるまでは部屋にでもいればいいか」

「わたしもいく!」


 ああ、本当に可愛い。

 でも、不安になるから安定して話せる女友達や男友達がいてほしい。

 特に男の子、そこは重要だ。


「ねえ乙葉、いま好きな子とかいないの?」

「……好きな子ならいるけど」

「いいわねそれ!」


 よしきた、これきた!

 こちらがなにかで悩んだときにすぐに解決に導いてくれる天使が乙葉だ。


「お、お姉ちゃんは?」

「いないわねー乙葉のことは大好きだけど」


 魅力的な子は沢山いるだろうけど、関われていないからそこ止まりだ。

 そういう存在とそういう関係になるために積極的に動く私もらしくないし、少なくとも二十歳を超えるまではこのままだと思う。

 私が焦るようになるのは二十代後半ぐらいからかなと、もしかしたらそのまま最期まで一回も特別な感情を抱くこともなく終わってしまう可能性もあった。


「いい感じになったら教えてね」

「う、うん」


 まあ、同性でも、相手が姉でも言いづらいことはあるか。

 逆に「抱きしめたよ!」とか「今日ちゅーしたよ!」とか言われても反応に困るのはある。

 姉としてお手本になってあげられたらいいのに……残念ながら悪い方向でしかそうはなれないと。

 ま、まだ悪影響を与えているわけではないからいいと思いたかった。


「ただいまー」

「どこにいっていたのよ」

「いやー……ね?」

「いや、ね? じゃないわよ」


 どうせスーパーとかそういうところにいっていたのだろうし、ここで隠すだけ無駄というものだ。

 それに一人ということを考えれば仮にいま男の人と会ってきたとしても問題はない、だからそれでも隠す必要はない。


「一葉ちゃん、私にだってお友達はいるのよ?」

「や、別に乙葉のために二十四時間付き合えとは言っていないわ。でも、どこかにいくならどこにいくかぐらい言ってからにするべきでしょ」

「うぅ、一葉ちゃんが意地悪を言うー」


 や、これで意地悪判断は厳しいでしょ。

 今日のあの子みたいに「ふざけんじゃねえよ!」とか叫んだならともかくさあ……。


「さ、ご飯を食べましょ?」

「はぁ……乙葉、いくわよ」

「はーい!」


 乙葉の可愛さだけが救いだ。

 まあでも、一人で私達二人を支えてくれているわけだからこれぐらいにしようと片付け、母作のご飯を三人で食べたのだった。




 なにこれ……ここだけ台風にでも襲われたの? という感じの教室だった。

 ただ、固まっていても仕方がないから早く来たのをいいことに運んで直していると「ええ!?」と大きな声が。

 しまった、これだと私がしてしまったように見えてしまうぞ……。


「幽霊さんが遊んだのかな? でも、ちゃんとお片付けをしないと駄目だよね」


 不思議ちゃんか? 疑われてしまうよりはいいけど、なんとも反応に困る発言内容だ。


「栗林さん、私もお手伝いするよ」

「よ、よろしく」

「うん!」


 あ、こういうところは乙葉に似ているかも。

 一つ似ているところがあると段々とこの子が乙葉に――はないとしても安心できる。

 そんなに広い場所というわけでもないし、二人でやったから他のクラスメイトが登校してくる前に終わらせることができた。


「協力してくれてありがとう」

「ううん、だって自然と直るわけでもないから普通だよ」


 普通、普通ねえ。

 咄嗟に言い訳をして離れることだってできたのにこの子はそれをしなかった。

 そのおかげで「栗林お前……」とならずに済んだのだ。


「ねえ、友達になってくれない?」

「いいのっ? 私、前々から栗林さんと話してみたいと思っていたんだ!」

「よろしくね」

「うん!」


 さ、さて、担任の先生に頼んで名字と名前を把握しよう。


「お、二人は今日も――待て待てっ、なんでいま来たばかりなのに出ていかないといけないんだっ?」

「落ち着いてください」

「いやそれは栗林がな!?」


 まだまだ学生でもいけてしまいそうなこの人は大矢翔大《おおやしょうだい》先生だ。


「え、あの子の名字と名前を知りたい? おい栗林……もう冬だぞ」

「でも、それでも分からないままのことも多いじゃないですか」

「はぁ……で、なんで急に?」

「さっきあの子があることで手伝ってくれたんです、それで友達になってほしいと頼んだまではよかったんですが……」


 協調性がなかったつもりはなかった。

 普通にしていれば誰か一人とぐらいは安定して話せるようになると思っていた。

 が、あの子が言っていたように自然と変わったりはしないのだ。


「なるほどな。本田衣都《ほんだいと》だ、二人が仲良くやれるように願っておくよ」

「大矢先生も協力してください」

「え、でも、栗林の方から友達になってくれって言えたんだろ?」

「……上手くいかなかったら嫌なので」

「はは、それなら困ったら言ってくれ」


 くそう……大矢先生はこういうところがずるい。

 担任だからだとしても学生時代はこういう風に攻略してきたに決まっている。

 実際はないとしてもこういう人になら乙葉みたいな子を安心して任せられる。

 好きなのにわざと悪く言うことでしか関われないような男の子に引っかかりませんように!


「あ、おかえりなさい、大矢先生となにを話してきたの?」

「うんまあ、今日もよろしくお願いしますとかそんなことかしら」

「そっか、挨拶は大事だよね」


 いやこれ、マジで高校生版の乙葉みたいだ。

 だからいつも乙葉にしているみたいに頭を撫でてみたら「おぉ」といいのか悪いのか分かりづらい反応だった。


「今日はまだなにか頑張れたわけじゃないけど、頭を撫でてもらえて嬉しいよ」

「そ、そう」


 もう少し仲良くなるまではやめておこう。

 でも、今日は本田のおかげでいい一日となった。

 これで実際は友達的な存在といられてもいないのに「今日も楽しかったわね」みたいに乙葉に対して嘘をつく必要がなくなる。

 とはいえ、放課後はやっぱりすぐに帰りたいタイプだから本田に挨拶をして帰ろうとしたときのことだった。


「あ、やっと見つけた」


 昨日の男の人に遭遇したのは。

 なんだか嫌な予感がして「さようなら」と挨拶をしてから帰ろうとしたのにできなかった。

 それでも「どうしたんですか?」と聞くこともしたくなくてただ時間だけが経過していたそのとき、本田が現れて「ナンパはよくないと思います」と……。


「本田、これはナンパではないのよ」

「えっ、そうなの!?」


 それはそうだ、学校内でナンパなんかあるわけがない。

 ただ、彼女が勇気を出して前に進めてくれたから助かったのも確かだ。

 日に二度も他人に助けられてしまった日になる。


「栗林さんに付いてきてほしいんだ」

「もしかしてあの子と……?」

「うん、栗林さん達と同じ二年生だから同級生の友達ができれば違うかなって」


 ま、マジかあ。

 近づいたところで「来るんじゃねえよ!」と言われてしまう気がする。

 メンタルが強い方ではないからたったそれだけで次はなくなりそうだ。


「今朝、教室がすごい状態でした」

「残ったのはそのためだったのか……ごめん」

「私と彼女で直したので騒ぎにはなりませんでしたけどね」


 この人はお兄ちゃん……なのかな?

 じろじろ見たわけではないから昨日のあの子がどういう顔をしていたのかも分からない。


「えっ、幽霊さんがやったわけじゃなかったの!?」


 こ、この子はこの子で冗談なのかそうではないのか分かりづらいけどね。


「いまだってそこに――」

「ぎゃあああ!?」

「はははっ、女の子がいるだけだよ!」


 は……? と後ろを見てみると確かに――昨日の子が。


「刀花《とうか》の方から来るなんて珍しいね」

「余計なことをするなよ」

「僕自身のことで栗林さんに頼みたいことがあっただけだよ」


 またしれっと嘘をつくのねと。

 彼がこのまま続けるならこういうのは避けられないから本当のことを話してしまった方がいいと思う。


「あの」

「どうしたの?」

「お二人はどういう関係なんですか?」


 ナイス本田!


「ああ、僕らはただの幼馴染というところかな」

「俺は気に入らないけどな」

「まあまあ、そう言わないでよ」


 俺か、たまにいるから違和感もない。


「で? お前はなんだよ」

「私は栗林一葉、こっちは今日友達になった本田衣都」

「まさか手伝うつもりか?」

「だってあんたの幼馴染さん、わざわざ探して話しかけてくるぐらいよ?」


 逃げられるなら逃げたいところだ。

 が、こういうタイプは逃げれば逃げるほど獲物を見つけたときみたいに追いかけてくると思う。


「やめておいた方がいいと思うけどな、特にそいつは危険だ」

「そうなの?」

「ああ」


 あれ、これなんかいけそうじゃない?

 友達を増やしたい私としてはここで頑張ってしまうのもありだ。


「それで昨日はなんであんなに叫んでいたの?」


 あ、いや、これは踏み込みすぎたか。

 まだ友達にもなれていないのに答えてくれるわけがない、みんながみんな本田みたいな子ばかりではないのだ。


「刀花、教えていい?」

「あ゛あ゛……」


 そのまま断るかと思えば数秒が経過してからこくりと頷いてしまった。

 い、いいのかーい。


「刀花に家族が増えるんだ、それで不安になってしまっているみたいでね」

「ということは親が再婚、ということですよね?」


 ここにも私と同じような立場の子がいたのか。

 母親が男の人と再婚か。

 私の母は全くそれをしないけど、もしかしたら昨日のがそれに繋がっているかもしれない。

 悪い人でなければいいか。


「そうなんだ。それでね? 相手の男の人には高校生の息子さんがいるみたいでね? 仲良くしてみたらどうかと言ってみたら『ふざけんじゃねえよ!』となったんだ」

「だ、だってそうだろ、急に家族が増える、しかも野郎がいるとなれば誰だって困惑する」


 いやまあ……気持ちは分からなくもないけど、こんな終わりか……。


「俺はな、こいつにずっと家に泊めてくれって頼んだんだっ、それなのにこいつの答えはそれだったんだぞ!」

「ん-ずっと泊めるなんて現実的じゃないでしょ? この人じゃなくたってそうなるわよ」

「お、お前は同じ状態になっていないからそんなことが言えるんだよ」

「それはそうかも」


 仮にそうなってもお金があるわけでもなし、出ていくわけにもいかないから受け入れるしかないけどね。

 私としては乙葉にちゃんと優しくしてくれる人ならそれでいい。


「み、認めるのか……」

「じゃ、たまに私の家に泊まるのはどう?」

「いいのか!?」

「た、たまにでいいならだけど」

「ありがとな!」


 あ、やっぱりいけるわこれ。

 私はこういう差にやられてしまうところがあった。

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