第7話 そうちゃん
図書室の静寂。今日は図書委員の当番の日。俺と薫は図書室の裏、本が整理されている倉庫で作業していた。
もう図書室に置かない本たちなどを箱に詰め、新しい本を箱から出す作業。
山積みになっている本を綺麗に箱に詰めながら、横で同じ作業をする薫に話しかけた。
「な、なぁ薫。この前言ってた、ミステリーの本、面白かったよ!」
薫は一瞬動きを止めたが、すぐに作業にもどる。
「ほ、本当に読んだんですね…。」
「読んだよ!いやぁ〜最後の展開には圧巻だったねぇ。この、分かるかなっ、ミステリーならではの最後の怒涛の伏線回収!」
俺は薫の横顔を見つめながら、作業なんかそっちのけで身振り手振りしながら語る。
「そう…ですね。最近読んだ中で、結構面白い部類でした。」
「あ、やっぱり?初めて読んだ俺でも分かりやすくてめっちゃ面白かった。」
(よし…ちゃんと会話できてるぞ…)
「蒼太くんがミステリー読むの…意外です…。もっと…スポーツものとか、バトル系とかかと…」
薫は作業の手をとめないまま、淡々と喋る。
「んーまぁそうか…本とかはあんまり読まないからな…」
(ま、まずい…!会話のながらが終わりそうだ…なにかネタ無いか…?)
俺は喋りながら必死に目だけで周りの情報を見回し、話題を探す。
たまたま目に入った小説を手に取り、薫に話しかける。
「あーえっとー…こ、こういうの!こういうエモそうなやつとか結構俺は気になるかもな!」
手に取った本の題名は『リョウオモイ。』表紙は、男女の高校生が並び、夕焼けの空を眺めている、王道な恋愛小説の様なものだった。
薫はじっとその表紙を眺めた後、作業に戻る。
「恋愛小説…読むんですね。」
「いや、読んだりはしないけど…ほら、年頃的に?こういうの興味は多少あるさ…はは。薫は読まないのか?」
「そうですね…あまり恋愛に興味が無いので…読んだりしないです。」
「そ、そうか…恋愛興味無いのか…。」
(なんかちょっと寂しいな…。)
「蒼太くんは…恋愛…してるんですか…?」
ドサドサ!バタバタ!
急な問いかけに俺は慌てて、積んであった本を倒してしまった。
「え…、!いや、あ、本が…」
震える手で本を集め、机の下に落ちた本に手を伸ばす。
ゴチンっ!!
「痛って!!!」
起き上がる際に頭をぶつける。まずい、完全に動揺している。どんどん赤面していくのが自分でもわかる。
「ふふ……はは…そうちゃんは…変わらないね…」
俺はその言葉と光景に耳と目を疑う。
『そうちゃん。』薫からかつて呼ばれていたあだ名。そして、こちらを見て笑っている。あの頃と変わらない笑顔。
「あっ…。」
薫は自分の言った言葉に戸惑い、思わず自分の手で自分の口を塞ぐ。
そしてそのまま何も言わず、恥ずかしそうに作業へ戻った。
しばらくの間沈黙が続いた。2人ともすっかり黙々と作業をしている。気まづい空気が流れる中、俺は口を開いた。
「あだ名で久しぶりに呼ばれたな。」
「気にしないでください…蒼太くん。」
「え、いや、前みたいにあだ名で呼んでくれよ。そっちの方が、薫はしっくりくる。」
「……。」
薫は俯いたままだった。
しばらくして、2人とも作業が終わった頃。
「よし…!今日はこれで終わりだな。薫、良かったら一緒に帰ら………」
「私は…もう少し、図書室いますので…お先帰って大丈夫ですよ。」
いつも通り断られる。でも今日は薫に近づけた気がする。
「そうか、夜道気を付けろよ。じゃあ、また明日!」
嬉しさとこれからの期待を込めて、元気よく別れの挨拶をした。




