牡丹・椿・辻が花
夏祭りから着物の美しさだけ残して、それを着ている人の美しさを削り落としたらどうなるかなぁと思って
「牡丹」
夏の宵は、放射状に炸裂していた。
社へ続く参道を挟むように、露店が威勢よく輝いている。
時折、耳と目を焼く光と音に空を見上げながらも、やはり男の目を奪うのは隣で咲く牡丹だった。
散ろうと花弁が離れて石畳に落ちていこうとするその一瞬。男は電燈で少し色素が弾けた牡丹が、歩く度に陰影で色を取り戻す様を、写真にしたいと思った。
少しレトロな音が花火に消える。紫紅色の色目が夏風に流れて、男はそこに妙齢で艶やかな花園を見たのだった。
「椿」
赤い花弁が、耳心地よい音色を奏でる。雲の間から溢れた天照の肌の艶が、そのまま椿に乗り移っていた。
雲海の如く、何物にも染まらないと気高い絹に、高貴でありながら微かに微笑みを向ける椿が寄り添っていた。
雲が恐れ多くなって上空を立ち去る。心なしか青みがかった、空の色が残された椿は、まさに夏の写し鏡だった。
ラムネが照れ隠しで鳴る。雪駄がそそくさと道を開ける。
これまた同じ椿の簪が、肌を焼く熱に向かって優雅に首を垂れたのだった。
「辻が花」
夜風の抱擁は、辻が花には少し肌寒かったらしい。
団扇は縁側に置き、風鈴も鳴らないようにテープで仮留めする。残るは、草葉の影で歌う錫蟲と、河岸で踊る蛍だけだ。
吐いた息は色っぽく、しかして夏夜の熱より暑かった。月明かりで光る薄い桜色の花弁が、少し濡れて光沢を帯びている。
言葉は存在せず、ただそこに在るための呼吸だ。
茎を流れる一筋の汗を辻が花が吸う。もしかしたら汗ではなく花弁から滲み出た水かもしれなかったが、そんなことはどうでもいい。
花は花であることを守り、蠍座が川を泳いでいる。そしてまた一つ、蛍が蠍に食べられていった。
今のうちに夏書いとかないと!




