私は日風に還りたい
ほぼ愚痴みたいになってもうた希ガス
私の視界は、黒の中折れ帽子に遮られていた。
青は黒にされ、繊維の隙間から金烏の輝きが差し込んでいる。
風はまだ冷たく、草木と人の温度を求めて今日を流離っていた。斜光を真に受けるように萌芽の坂に寝そべり、和服の袖を風に遊ばせている。
耳では、活気に溢れるラグビークラブの声、ジョギングしている人の靴音、ベビーカーを押す家族連れの車輪音が聞こえていた。草と風の音は耳元で囁いているのに、鼓膜を通るのは人間の生活音。少なくとも私はまだ、自然に還る資格がなかったようである。
私は、皮肉にも自分が好きで選んで、好きでやっていることに少し苦しめられていた。こちらが立てばあちらが立たず、という慣用句を己が身で体験していたのである。動画制作、小説、音楽制作と、好きなことだけでいいと息巻いていた結果がこれなのだ。
だがありがたいことに、どのジャンルでも少なからずファンがいる今のおかげで、辞めようなどとは微塵も思っていない。だが、何かに注力しすぎると他が疎かになるし、休んでしまえば鈍って今後が気になってしまう。そんな、身から出た錆、二律背反が私の首を綿で絞めていたのだ。
もし私が大学生に戻れたら、きっとすべての時間を創作に費やせるだろう。しかし、残念ながら私は名実ともに大人になってしまった。今の私は、想像力を完全燃焼させるにはどれか一つ欠けても駄目なのだ。
鬱を都会の細やかな緑風で誤魔化しながら、日輪に祓われている。涼しさと暖かさを纏った熱の匂いは、未だ遠い夏の匂いによく似ていた。
私はこの壮大な心地よさに微睡んでしまいたかったが、風がそれを許してくれないだろう。風は愉快な攫い人で、私の帽子を空か、川か、はたまた知らないところへと腕を引いていってしまう。だから私は、目を閉じるだけで、風の悪戯に瞼の裏で目を光らせていた。
瞼を少し貫通する日曜を感じながら、私はふと月のことを考えていた。月の光は、太陽の反射光の一部だ。私はこの同じ場所で、曲がりなりにも同じ光に対して、このように微睡めるだろうか。
暗く、風は少し身震いし、人の息も声もせず、耳に届くのは遠くと錯覚するほど小さい足音と家内の生活音だけである。
感じるのは風情というより、先に形容し難い淋しさだろう。それでも私は、その黒い世界が人に温かみ、温度というものを齎してくれることを知っている。人生から一才の不幸を除くと幸福も失せるように、痛みがなければ快感を得られないように、人は冷たさを知らなければ温みを得られない生き物なのだ。
目を薄く開ける。帽子はまだ無事のようだ。黒い和装が熱を吸い取り、少し暑くなってきていた。
私は起き上がり、カラカラと軽快になる下駄の音と並んで、まだ暖かい風に背中を押された。
ドラ◯も~ん、アシスタント出して~




