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真相は

「おい、維心が熱出してるって?!」

蒼が必死に癒しの気を送っていると、十六夜が慌てたようにパッと出現した。

びっくりした明花達が目を丸くして、それでもプロ根性で治癒の術を止めずに維心に放っていると、蒼はもう慣れているので、言った。

「あのね!いきなり出るなよ、みんなびっくりするんだから!命と体、両方が無理かかっててお熱なんだよ!」

十六夜が、手を上げた。

「みんな慣れろよ、オレはせっかちなんだからよ。それよりオレがやる。親父が維月の熱を冷ますのにやってたのを見てるから、問題ない。どいてくれ。」

蒼が仕方なく場を空けると、十六夜はじっと真剣な顔で力を放った。

十六夜はこんな風だが、力はあって優秀だ。

蒼もそれは知っていたので、黙って横でそんな十六夜を見つめていた。

すると、蒼があれだけ癒しの気を放ってもなかなか落ち着かなかった気が、スーッと見る間に落ち着いて、熱が下がって行くのが見えた。

「…よし。」十六夜は、手を下ろした。「これで問題ねぇ。」

明花が、ホッとしたように言った。

「体のお熱も、落ち着きましてございます。」

蒼は、頷いた。

「やっぱりこじらせてしまっていたんだな。こうなってから、本当なら気を失って強制的に休んでてもおかしくなかったのに、維心様は精神力で意識を保って動き回ってらしたんだ。維月を助けるために、気を失ってられないと思われたんだろうな。」

十六夜は、頷いた。

「炎嘉が気を失ってる場合じゃねぇって叫んでたしな。維心もそれが分かってたから、踏ん張ったんだろう。このまま、自然に目覚めるのを待とう。」と、窓の方を見た。「維月も眠ってるし、目が覚めて大丈夫そうだったらこっちへ連れて来るよ。それにしても、厄介なことをしてくれたな。」

蒼は、ホッとしながら明花達に頷き掛けてその場を離れた。

「居間へ行こう。」

十六夜は頷いて、相変わらず寝台を取り巻いている治癒の龍達をそこに置いて、蒼と二人で奥の間を出た。

居間へ出て来て椅子に座ろうとすると、炎嘉と志心がちょうど入って来た。

炎嘉は、蒼を見て急いで言った。

「維心は?落ち着いたか。」

蒼は、頷いた。

「十六夜が来てくれたんで。今は眠っているだけです。今は奥で治癒の龍達に任せております。」

炎嘉は、肩の力を抜いて椅子へと座った。

「そうか、ホッとしたわ。主らも座れ。」

蒼は、言われて十六夜と共に椅子へと座った。

本来主が居ないのに勝手に居間を使うのはおかしいのだが、そこは慣れ親しんだ宮なので、遠慮もないのだろう。

志心が、座りながら言った。

「沙汰を下して参った。全員の記憶を取って、あちらへ返すことにしたのよ。翠明が無抵抗な女を殺すのは気が退けるとか申すし、後はエラストに任せようと思うて。記憶があったらあちらも処刑しかなかろうが、全て忘れておったらあちらも選択肢が増えよう。」

蒼は、頷いた。

「そうですか。では、もうあちらに?」

炎嘉は、頷く。

「我が何があったかを書いて帝羽に持たせてあちらへ護送させておる。エラストにしたら寝耳に水だろうが、こちらも同じ。まさかアマゾネスが今頃こんなことをしてくるなどとは、思わずでおったしな。」

十六夜は、言った。

「だよな。親父は知ってたみたいだったが、失敗すると思ってたみたいだ。維心が居たらなあ…ま、仕方ねぇけどよ。」

志心が、言った。

「まあ、もう戻ったし次はここまであちこち無かろう。誠にあれには頭が下がるわ。いろいろ見て処理してくれておったのだの。居らぬようになってやっと分かる事もあるものよ。とはいえ、確かに将維の代ではあれと主が何とかしておったのだから、主らはあの頃ようやっておったと褒めてやりたいわ。」

蒼は、苦笑した。

「あれは将維が頑張っていたので。なので、維明だってできたはずなんですけど、今回みたいな事があっては…まして、維心様が居ないことを公表していなかったんですしね。」

炎嘉は、頷いた。

「確かにの。特殊な事態であったわ。とはいえ、これで終わりか。はぐれの神を放って置いた結果がより面倒になっておったのも分かったし、主が少しずつあれらを拾っておる意味も分かって来たわ。」

蒼は、それには顔をしかめた。

「それでも、まだまだですがね。全部は無理なんです、やっぱり気ままにしていた神達なので、一気に受け入れると面倒を起こすんで。最近では赤子優先で、赤ん坊が居たら女神ごと受け入れて、育ててる感じですけど、全て把握しているわけではありませんし。女神でも、性質が悪いのも交じってるんで難しいんですよ。」

それを聞いて、十六夜はハッとした顔をした。

「…忘れてた。」と、蒼を見た。「アマゾネスの首謀者が見つかる情報をくれた奴が居たんでぇ。奈河って男で、八重って女と河玖って赤ん坊が居てな。そいつらと月の結界に入れてやるのを条件に情報を教えてもらった。」

蒼は、びっくりした顔をした。

「え、約束したの?」

十六夜は、頷いた。

「した。緊急だったし。」

蒼は、また顔をしかめた。

「また勝手に。でも、十六夜がそう思ったってことは、大丈夫そうだったのか?」

十六夜は、頷いて答えた。

「大丈夫だ。奈河はどっかの軍神崩れの神の子だったみたいで、言葉もしっかりしてたし、多分大丈夫だ。変な感じはしなかった。」

蒼は、仕方なく頷いた。

「じゃあ、仕方ないな。維心様が落ち着いたし、これから帰るから関の房に連れて来て。」と、炎嘉と志心を見た。「では、そろそろオレも帰ります。皆帰ったんですよね?」

炎嘉は、頷いた。

「後で維心の様子は教えると他は帰した。終わったし、我らも帰るわ。」と立ち上がった。「志心も、ご苦労だったの。あちこち飛び回らせてしもうて。」

志心は、笑って頷いた。

「良い。たまにはの。あと少し、維心が戻っておるのだから、皆で励もうぞ。」

炎嘉は頷いて、そうして蒼と志心と共に、維心の居間を後にした。

十六夜は、それを見送ってすぐにその場から、パッと消えて行ったのだった。


維明は、維心の様子が気になって、奥宮へと訪ねた。

もうその時には、蒼も立ち去って誰も居なかった。通常皇子でも入る事ができない奥の間へと、緊急事態なので入って行くと、あり得ないほど多くの治癒の神達が、維心を取り囲んでいた。

「なんぞ?蒼では手に負えぬと帰ったのか?!」

維明が驚いて言うと、明花が首を振った。

「いえ、蒼様には命の熱を十六夜様と共に収めてくださいまして、後は我らに任せるとお戻りになられました。只今は王のご様子を見ておる状態で。」

維明は、ずらりと並んだ治癒の龍達の間から、寝台に横たわる維心の様子を見た。

見た感じ、維心はもう熱もないようで、穏やかに眠っているようだ。

「…父上は、常についておらねばならぬほど重篤な様子には見えぬが?」

明花は、それには少し、バツが悪そうな顔をした。

「それは…確かに。ですが、お加減が良くなった直後でありますし、我らも案じておりまして。」

維明は息をついた。

ならば、こんなに大勢で取り囲んでいる必要はない。

「ならば、もう良い。また何かあれば呼ぶゆえ、主らは戻れ。奥の間に長居することはそれでなくとも許されぬのに、このような大勢で。父上がお目覚めになられたら何を申されるか分からぬぞ。下がるがよい。」

維明に言われて、皆分かっていたのだろう、顔を見合わせていたが、頭を下げた。

「はい。では、御前失礼を。」

維明は、頷く。

「ご苦労だった。」

治癒の龍達は、明花を先頭にぞろぞろとそこを出て行った。

維明は、息をついた…滅多に入れない奥の間なので、治癒の龍達と言えどもここに入れるということが、ある種のステータスのようになっているので、長居したくなる心地も分かる。

だが、維心が許したわけでもないのに、もう特に悪い所もない維心の側についてここに居させることは、維明にはできなかった。

維明がため息をついて脇の椅子へと座ると、維心が微かに、う、と唸った。

驚いた維明は、思わず側に駆け寄って、前世の記憶バリバリで言った。

「維心?!気が付いたか、維月は月で眠っておるぞ。」

維心は、薄暗い中何も眩しいことなどないのに、光を避けるように目を細めて開いた。

「叔父上か…?」

維明は、そうだった、ついごちゃ混ぜになって呼び掛け方を間違えた。

「…その、申し訳ありませぬ、父上。維明でございます。」

維心は、目をハッキリと開いた。

そして、維明を見ると、しっかりした口調で言った。

「維明。」そして、大儀そうに体を起こした。「維月は、まだ月か。」

維明は、頷いた。

「は。十六夜が様子を見ておるかと。」

維心は頷いて、窓から空を見上げた。

「…そろそろ夕刻か。皆帰ったのだの。」

維明は頷いて、袖から袋を引っ張り出した。

「こちらを。如何様にもすれば良いと、アマゾネス達の記憶を預かりましてございます。王達の判断で、全員の記憶を取り出してエラストのもとに帰す事になり、只今護送中でございます。」

維心は、途端にぐっと眉を寄せた。

「…処刑せなんだのか。」

やはり怒るか、と維明は思ったが、頷いた。

「はい。無抵抗の女を処刑するのはと渋る王が居りましたので、このように。とはいえ、後はエラスト殿が決めるので、あちら次第でありましょうな。」

維心は、しばらく眉を寄せていたが、維明から袋を受け取ると、中から玉を全て出して宙に浮かせた。

そして、手を上げて光を当てると、じっとそれを見つめてしばらく黙っていた後、手をサッと振った。

すると、十個の玉は一瞬にして燃え上がり、煙りを残して消えて行った。

「…面倒なことを考えおって。とはいえ、二百年も狡猾に待っておったのは敵ながらあっぱれよ。思うたより早く維月の居場所を追えたのが勝因であったようよな。」

今の一瞬で、中身を全部見たのか。

維明は、さすがにその能力の高さには舌を巻いた。

あの数の記憶を全て一度に頭に入れて整理するのは難しかっただろう。

だが、維心は頭の中でその処理ができるのだ。

「…は。間に合ったのが幸運でありました。」

しかし、維心は首を傾げた。

「だが…この様子では、誠に間に合ったのかと疑問になるわ。確かに我らはあれらが考えたより速かったが、あれらは二重三重の罠を敷いておった。それにまんまと踊らされていたのに…しかも、あれはベンガルの血筋の女がそれと知らずに放っていた術。本来、維月はとっくに消えておったはず。…どうも解せぬが、碧黎でも手を貸しておったのか?」

維明は、眉を寄せて首を振った。

「あれも天黎に眠らされていたと聞きました。無理なのではありませぬか。」

維心は、うむ、と顎に触れた。

「…だとしたら、天黎か。」

維明は、ますます眉を寄せた。

「あれはもっと手を出さぬでしょう。ならば碧黎を籠める意味などありませぬし。」

維心は、また空を見た。

「消去法ぞ。あんなことができるのは、天黎しかおらぬ。まして我が見つけた時、きっちり膜を着ておった。助けて保護して見つける直前に膜ごと再現など、あれにしかできぬし、仮に膜の中に居たまま保護するにしても、神にも碧黎にもできぬこと。碧黎なら膜を消すしかできなんだ。ならば天黎しか居らぬ。」

維明が絶句していると、脇から声が聴こえた。

「…誰にも言うでないぞ。」何事かと維心と維明がそちらを見ると、そこには天黎がずっとそこに居たかのように浮いていた。「主は賢すぎるのだ。我が関わってはならぬこと。此度だけぞ。分かったの。」

やはり天黎なのか。

維明が驚いていると、維心は言った。

「…手を出さぬのではなかったか。もしや、維月だからか?」

天黎は、苦笑して首を振った。

「違う。我のせいだと思うたからぞ。将維に身に過ぎた力を与えて主は死んだ。そこから隙ができてあのように。なので、此度だけ。」

維心は、頷いた。

「ならばそのように。確かに主が将維にあのようなことをせねばこうはならなんだと我も思う。これよりは、真実手を出さずに見ていることぞ。とはいえ、此度は助かった。礼を申す。」

天黎は、頷いた。

「此度の事で分かった。やはり地上のことは、主らに任せる事にする。ではの、維心よ。」

天黎はまた、パッと消えて行った。

維心は、小指にはめた維月の指輪に触れて、月で眠る維月を思った。

早う主に会いたい…会って礼を言いたいものよ。

維心は、昇って来た月を見ながら、維月を待っていた。

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