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沙汰

志心、炎嘉、箔炎、焔、駿、翠明、高湊の七人は、地下牢へと維明について向かった。

維明から連絡を受けた明蓮が、帝羽と共にアマゾネス達十人を引き出して地下牢脇にある裁きの間へと揃えて、他の軍神達と共に待っていた。

完全に拘束されているので、暴れる事もなかったが、しかし地下牢最下層へと放り込まれていたので、もうそんな気力もないようで、ぐったりと床に膝をついて項垂れている。

だが志心に記憶を取られているナターリアとエイダの二人は、何も分かっておらず、ただこちらに怯えて泣きながら床に座り込んでいた。

そんな二人の姿に、他の八人はもう、抵抗など考えられない様子だった。

炎嘉が、言った。

「命を取っても良かったが、主らは己の王に従っただけだろう。」と、レイティアそっくりのナターリアを見た。「だが、主らの王はこの通りよ。もう何も覚えておらず、赤子の状態ぞ。ここから新たに記憶を作って行くしかない。さすれば生きる事もできよう。とはいえ、主らの里であるかつてのアマゾネスの城にはもはや新しい王が居り、アマゾネスの城ではない。主らの命の責任は、その王が取るので我らとしては、主らの記憶を綺麗さっぱり取って、あちらへ帰す。生かすも殺すも今の王次第ぞ。何もかも忘れて、あちらで王の沙汰を待つが良い。…とはいえ、我がこうして話した事も、主らは覚えておらぬがな。己がどうなるのか、今の主らに説明したまでぞ。」

八人は、恐れおののいた顔をした。

記憶が失くなる…死ぬのと変わらぬのでは。

「いっそ、殺してくれれば良いのに…!」

一人が言う。

志心が、それに答えた。

「別にそれでも良かったが、無抵抗の女を手に掛けるのは我らの流儀に反するのでな。主らの沙汰は、主らの王が下す。だが、そのままではさすがに甘い。やはり主らはこちらでやったことの責任はこちらで取ってからあちらへ帰ってもらわねばならぬ。ゆえに記憶をもらうのよ。案じずとも、何も覚えておらぬから、苦しい事もない。ただ、何も分からぬから怯えはするだろうがな。問題ない。」と、手を上げた。「さて、手分けしようぞ。皆記憶の玉は取れるか?」

高湊が言った。

「我の気では完璧には無理やも知れぬ。」

志心が、振り返った。

「…確かにの。玉にする前に力が尽きそうであるな。駿は…できそうだがどうする?かなり集中力が必要であるが。」

駿は、首を振った。

「しくじって残してしもうたら後が面倒であるから、任せる。」

翠明は、重い口を開いた。

「…我はできる。公青の気になってからこのかた、できない事がなくて逆に面倒な。ややこしい術は掛けるのが難しいのに。」

箔炎は、クックと笑った。

「力があるのも良し悪しであろう?」と、手を上げた。「ならば、こっちの三人は翠明と二人でやるわ。主らはそっちの五人を頼む。」

志心は、頷いた。

「炎嘉、その二人を。焔はそっちの二人。我はこの一人を取るわ。」

頷いて、皆一斉に手を上げた。

維心などは気が半端なく大きいので、何人でもまとめて取ってしまうのだが、これは力の問題だけでなく、一人一人の記憶に合わせて術を調整するのであまりに多いとさすがにしくじる事がある。

二人か三人が、一度に取るのに確実な人数だった。

箔炎が、脇の翠明に言った。

「そら、記憶の量に合わせて。」と、目の前でもがくアマゾネス達を気にもとめずに力を放ちながら説明した。「そうそう、あまりにやり過ぎると息の仕方も忘れるゆえな。そうよ、上手いではないか。」

痛みは感じないはずだが、アマゾネス達は皆、その力に捉えられると悲鳴を上げてのたうち回った。

それを、軍神達が気で押さえ付けて、逃げられないようにしている中、次々に王達の手の平の上には、コロコロと記憶の玉が出現し始めた。

玉が完全に構成されると、全員がバッタリとその場に倒れて、そうして今の騒ぎが嘘のように静かになった。

「…よし。全部取れたか?」

炎嘉が箔炎を見ると、箔炎は頷いた。

「翠明も綺麗に取ったわ。コツを覚えたようよ。」

翠明は、己の手の上に浮いた玉を息をついて見つめ、箔炎に渡した。

「…あまりやりとうないな。終わってホッとした。」

焔が、言った。

「複製を作る方法もあってな。後は最近の記憶だけを取るとか。コツさえ覚えたらいくらでも調整して好きなようにできるわ。戻すのもそのうちに教えようの。」

翠明は、頷いて言った。

「では、そろそろ帰って良いかの。これで終わりであろう?気疲れしたわ。そろそろ休みたい。」

炎嘉が、答えた。

「良い。後はこれらをエラストに帰すだけよ。」と、じっと黙って見ていた維明を振り返った。「この玉をどうするかは維心が回復したら決めさせたら良い。主に預ける。後は我が書状を書くゆえ、それを持たせて軍神達にあちらへ護送させよ。それで終いぞ。」

維明は、頷いてその玉を受け取り、言った。

「いろいろ感謝し申す。」

志心が、袖から二つの玉を出した。

「これが首謀者二人の分ぞ。まとめて十個、確かに預けたゆえな。まあ、砕くのが一番よ。記憶は持ち主に戻ろうとすらゆえ、何かのきっかけで戻らぬとも限らぬし。砕くだけではぬるいので、欠片は焼き消した方が良い。もし、あれが消せと申したらであるが。」

焔は、言った。

「維心のあの様子では恐らく消せというだろうな。もしくは、戻して処刑させろと言うかどちらかであろうが…ま、あれに任せるわ。」

そうして、王達はそこを出て行った。

維明が脇で見守っていた、帝羽に頷き掛けると、帝羽はもはや呆けて何も分かっていないもの達をまとめて引っ立てて行った。

維明は、ともかくは維心の今の様子だと、蒼に任せたままの維心の様子を見に、奥宮へと向かったのだった。


義心は、ハッと目を開いた。

急いで飛び起きて構えたが、回りが明るく自分の記憶の最後の洞窟ではない。

慌てたように、治癒の女神が駆け込んで来て、言った。

「まあ、義心様!なりませぬ、龍封じの術がまともに当たっていて意識も戻らぬであられたのですから!」

龍封じ…。

義心は、どんどんと記憶が戻って来るに連れてまずいと思った。

あの時、維月を肩に担いでいたアマゾネスは、あれからどうなったのだろう。

匂いを追えない軍神達が、それを追えたとは思えない…。

「…維月様は?!」義心は、必死に言った。「あれからどれぐらい経った?! 」

まさか消滅してしまったのでは。

治癒の女神は、なだめるように言った。

「王妃様はご無事に月へと戻られておりまする。王が元のお姿にお戻りになられましたが、ただ今はお熱を出されていて…長が治療に参っておりまする。」

長は、明花だ。

王は、戻られたのか。

そして維月様は、ご無事に月へ…。

義心は、ガクと力を抜いて膝をついた。良かった…ならば、自分は恐らく術を掛けた輩が殺されて、術から解放されたのだろう。

治療の女神は、急いで義心を助けて寝台へと促した。

「さあ、まだお休みにならなければ。二日もそちらで意識を失っておられたのですから。」

義心は、寝台へ座りながら、言った。

「皆処刑されたのか?」

だとしたら、今殺したはず。

だが、女神は首を振った。

「記憶を取ってあちらへ返すのだと聞いておりまする。軍神達が、呆けた女神達を移動させるのだと今、他の女神達から聞きました。そうしたら、義心様がお目覚めになられて。」

記憶を…。

義心は、手を見た。記憶を失うだけでも、術は解けるのか…。

龍封じには、かなりの気を消費するが、解くのは簡単なのだと聞いていた。

だが、それも強固な意思のもとに掛けられていた龍封じであったので、これまで義心は弾き返せず眠るままになっていたのだろう。

それが失くなって、自分は術を弾き返したのだ。

まだ不自由な体で身動きもままならなかったが、義心はすぐにでも任務に戻りたかった。

だが、この状態では皆の足手まといになるだろうし、そもそももう、皆終わってしまったのだ。

義心は、龍封じなどに打たれて眠っていた自分が不甲斐なく、とにかく早く体を元に戻さねばと、治癒の女神の治療をおとなしく受けて横になったのだった。

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