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維月と十六夜は、碧黎に相談することにして、碧黎を呼んだ。

碧黎はすぐにやって来て、赤子ながら鋭い目でジーッと見つめる維心に苦笑しながらも、言った。

「そうか、こやつは特別であるしの。」と、維心を見つめた。「そうであるな…やはりまだ早い。今こやつの記憶の封を解いたら、将維とは違って膨大な記憶が一気に襲うからの…今少し、育つのを待ちたいところよ。」

十六夜が、言った。

「でもよお、百年とかは待てねぇぞ?さすがにそこまでは他の王達が疲れちまう。とりあえず体だけでもちょっと大きくできねぇか。それを定期的に繰り返したら、見る間に元の維心だろうが。」

碧黎は、十六夜を見た。

「天黎ならばそれが可能ぞ。我には気を与えて本神の力で身を物理的に大きくするのを助けるだけしかできぬ。どちらにしろ、まだ早いわ。やっと自我が芽生えたばかり…心が拒絶したら、最悪何もかも消えてなくなる。それでもこれが維心なのには変わりないが、主らが知る維心ではないということよな。」

それでは困る。

維月と十六夜は、顔を見合せた。

「…天黎様がお手をお貸しくださるとは思えませぬ。何しろあのかたは、何事も見て見ぬふりをなさる。助けてもらおうとは思いませぬ。」

どうやら維月は、すっかり天黎が嫌になっているようだ。

十六夜が言った。

「でもよ、そうなったら親父が維心を手伝って、維心自身が育とうと頑張らなきゃならねぇって事だぞ?いくら維心でも、子供相手に酷じゃねぇか。」

言われてみたらそうなのだが、そうするよりない。

維月が黙っていると、別の声が割り込んだ。

「…そんなに嫌わぬでも良いではないか。」驚いて見ると、そこに天黎が出現していた。「あの時手をかさなんだのは、主らで何とかできるのを知っておったからよ。我は極力手を出さぬのだ。もしどうにもならなんだら手を出そうと、ずっと見ておった。まさかそれで主がそこまで我を嫌うなど、思いもせぬで。」

そう言う天黎は、確かに困惑した顔をしていた。

維月は、むっつりとした顔で天黎を見上げた。

「それでも、あれほど難儀しておりましたのに。私は誠にどちらも失うのではないかと肝を冷やしました。」

碧黎が、言った。

「主の心地は分かるが、天黎は基本手を出さぬスタンスであろうが。そのように取り決めたし、今さらなのだ。何とかなったのだから、これ以上これを責めるのはやめよ。あの時夕貴や維心が死んでおったら文句を言えば良いが、そうではなかろう?」

維月は、確かにそうだが、ならば来るだけでも来て、どうにもならなくなったら助ける、と一言言ってくれたら気も楽だったのに、と横を向いた。

天黎は、息をついた。

「しようがないのう…放って置いても、こやつは碧黎の手を借りて、さっさと己で身を育てようが、主に恨まれるのだけはかなわぬわ。では、維心は時が来れば我が大きくしてやろう。だが、碧黎が申す通り、今はまだ早い。こやつは無駄に力があるゆえ、今の心の状態では、甦って来る記憶に恐怖を覚えて己の中で押し潰す可能性がある。ゆえ、今少し物事を弁えるまで待て。そうしたら、己の記憶を知識欲で興味を覚えて受け入れる。それまで待つのだ。」

維月は、パッと顔を上げた。

「お手をお貸しくださるのですか?」

天黎は、渋々ながら頷いた。

「しようがない。主が我を情がないなど思うておるのは心外ぞ。我だって、案じて見ておったのだ。だが、干渉するのはそこまでぞ。分かっておろう、主らが決めた事なのだ。我は基本、手を出さぬ。」

維月は、確かにこちらが決めた事なので、バツが悪そうな顔をした。

「はい…つい、感情的になってしもうて。申し訳ありませぬ。」

碧黎は、天黎を見た。

「良いのか?」

天黎は、頷いた。

「だからしようがないのよ。確かに将維を地にしたのは早すぎた…あちこち弊害が出てしもうて、あれも責任を感じて苦しんでおる。此度、維心が早く出て参ったのも、結局地から離れてもまだ干渉しておる将維の心のせいであるしな。あれが焦っておるから、自然伝わってしもうて。地の王である維心には、外に異変を感じて腹でおとなしゅうしていられなかったのだろう。」

やっぱりそうか。

碧黎も、十六夜も維月もそう思った。

皆が顔を見合せている間、維心はじっとその話を聞いていたが、天黎はその維心と目を合わせて、言った。

「誠に赤子であろうとなんと大きな命であるのか、主は。他とは比べ物にならぬの。では…少し、我の話を聞け。」と、じっとその目を見つめた。「維心よ、主はこの地上の王ぞ。全てを守り、治める存在。早う育て。主の大切なものを守れるのは、主だけぞ。分かるな?主はあらゆる脅威から己の大切なものを守れる力を持っておる。そのままでは、守られておるだけで宝の持ち腐れであるぞ。これよりは、主の心の成長に合わせて、主の身を我が育てよう。大切なものを守りたければ、育つのだ。我らのように。心を育てよ。」

そんな難しい事を。

維月は、思って聞いていた。

いくら維心でも、まだ赤子なのだ。いくらなんでも、心を育てよなど、意味が分かってもどうしたら良いのか分からぬだろう。

だが、維心はじっとそれを聞いていたかと思うと、急にクタ、と脱力してぐったりと維月の腕に身を委ねた。

驚いた維月は、慌てて維心の顔を覗き込んだ。

「まあ維心様?!大変!気を失われておるわ!」

だが、碧黎も天黎も慌てる様子はない。

十六夜が、慌てて言った。

「おい、赤ん坊に何したんでぇ!」

碧黎が、言った。

「見ておらなんだか。話しただけよ。」

維月と十六夜が困惑していると、二人の目の前で、小さな維心は、見る間にぐんぐんと体が大きくなって、幼稚園児ぐらいの大きさにまで育った。

「え…ええ?!」

維月は、膝の上に維心を乗せて、小さくなった着物に目を白黒させた。

「今ので育ったのか?!こいつ、理解できたのか!」

天黎は、頷いた。

「これには守りたいものがあったのよ。赤子ながらにの。それで、守られるのではなく守るのだと自覚した。それでここまで大きくなった。とはいえ…先は長い。」

碧黎は、頷く。

「できたら身が百年ぐらいまで育たねば。だが、第一歩よな。」

維月は、眠る維心を抱きかかえながら、困って言った。

「でも…こんなに大きくなったら、お外に出られないのはとてもお可哀そうですわ。龍の宮では…もう限界かと。」

碧黎は、頷いて手を翳した。

「月の宮へ連れて行く。」と、光を発した。「あちらで世話しておるから主も準備を終えたらあちらへ参れ。」

維月は、その光にスーッと消えて行く維心に慌てて言った。

「お待ちくださいませ、いきなり一人になられるなんて…!」

碧黎は、首を振った。

「大丈夫よ。これは維心ぞ。案じるのなら早う準備をせよ。あちらで待つ。」

そして、パッと消えた。

天黎も、いつの間にか居なくなっている。

十六夜は、言った。

「じゃあ、オレは一足先に行ってるよ。お前は、維明に話して里帰りの準備をしろ。で、オレは月に居て用事がある時こっちに来るようにするから。呼べばすぐに来れるから、こっちは問題ねぇ。そもそも政務は全部維明がやってるんだから、オレは維心のふりをする時だけ来たらいいわけだからな。」

維月は、頷いた。

「分かった。維明にそう話しておくわ。すぐに行く。とりあえず、できることは済ませて行くわ。」

そうして、十六夜はその場から消えた。

維月は、急いで維明に会いに走ったのだった。

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