6.それなりの自由
以来、あたしは海に行くと自然に
カオルさんの姿を探すようになった。
彼女は目立つのですぐに見つけられる。
最初は会釈くらいだった挨拶も、そのうちに
たまたま駐車場で車が近かったり
海の中で声の届く範囲にいる時には
「おはようございます」 とか
「お疲れさまです」 とか
「今日は(波が)良くないですね」 とか
「海水が冷たくなりましたね」 とか
そんな簡単な言葉も交わすようになった。
と言っても、あたしが声をかけるのに対し
彼女からは相槌が返ってくる程度で
会話が弾むようなことはなかったけれど。
どうやら彼女は海の近くに住んでいて
毎日サーフィンに来ているようだった。
いつ来ても、朝の海には彼女がいた。
きっと地元の人なんだろうなと思う。
そしてこの辺りのサーファーのほとんどがそうであるように
カオルさんも毎朝サーフィンをしては
その後、仕事に向かっているのだと思った。
どんなに波が良くても、必ず朝9時前には海からあがっていく。
そんなカオルさんの生活が、あたしは羨ましいと思った。
休みの全てを海に費やしたとしても、
あたしの場合はせいぜい週に2回くらいしか行けない。
サーフィンの為に、海の近くに引っ越そうかと考えた事もあった。
けれど仕事と家族と、時には恋人と
あたしを思いと留まらせるものは十分にあって。
でも海までの2時間は、やっぱり近くない。
あたしは看護師で夜勤もあるから
場合によっては寝ずに車を走らせる事もある。
そうまでして海に行かなくても、と
友達にはよく言われるけど
そうまでしてでも行きたくなってしまうのが
サーファーの悲しいサガなんだと思う。
休みを少しでも無駄にしたくないので
その日も、あたしは寝ずに車を走らせていた。
海に着いた時、辺りはまだまっ暗だった。
夜明けまで、まだ時間がある。
少し仮眠をとろうと
あたしは海の見える駐車場に、車を停めた。
あたしの車はワンボックスカーで
後部座席はフルフラットになる。
いつでも仮眠がとれるように布団もひいている。
外から見えないようにカーテンを締め切ると
そこはあたしだけの快適な別荘になった。
かすかな波の音を聞きながら
あたしは毛布にくるまって
心地よい眠りにおちていった。




