5.きっかけと繋がり
ようやく沖へ出たあたしは
波待ちをしているカオルさんに声をかけた。
「さっきは、邪魔しちゃって。すみませんでした」
カオルさんは声の主があたしだと分かると
少し驚いたように目を見開いた。
「え……ああ。さっきの? 全然。そんな」
謝られるのは意外だとでもいうように
気にしないで、と手をヒラヒラ振った。
海水が滴るその手を見て
手も大きいんだな、と
妙なところに感心してしまう。
近くで見るカオルさんはやっぱり背が高くて
美人だった。後ろで一つに束ねた黒髪が
海水で艶々と輝いている。
「そっちこそ。大丈夫だった?
ボード、当たらなかった?」
不意に聞かれて、あたしは首と手をブンブン振った。
「全然。そんな、全然です。大丈夫です」
おかげさまで、ボードもあたしも無傷です。
それよりもカオルさんが凄かったです、
つい見とれてしまいました…… と、
伝えたい気持ちは山ほどだったけれど
人見知りする自分にぺらぺらと喋れる能力はなく
あたしはもう一度だけ、頭を下げた。
「本当に、すみませんでした」
カオルさんはもういいよ、と言うように
手と、それから口元を少しだけ上げた。
そして沖からくるウネリを見つけると
さっそうとパドルを始め、
軽々と波に乗って行ってしまった。
あたしはカオルさんの後ろ姿を眺めながら
ふぅ、と息をついた。
渋い。カッコイイ。
あたしもあんな風になりたい。
無理だけど。
その日、それからは、
もう2度と彼女のお邪魔をしないように
あたしは少し離れたところに移動した。
カオルさんと言葉を交わしたのは
これだけだった。
けれどこの日を境に、あたしとカオルさんは
ちょっとづつ顔見知りになっていった。
次に、海でカオルさんを見かけた時
あたしは遠くから、彼女に向かって軽く会釈をした。
覚えていないかと思ったけれど、無視する訳にもいかない。
すると彼女は、少しだけ手を上げてこたえてくれた。
また次に、海で会った時には
あたしが会釈するのと同時くらいに
カオルさんは手を上げてくれた。
それはオハヨ、くらいの軽い挨拶。
何かを話すわけでもないし
近くに寄って一緒にサーフィンする訳でもないけれど
あたしにとってそれは、とても嬉しいことだった。
海では誰もが一目置く、カオルさん。
そんな人と顔見知りというだけで、なんとなく誇らしい。
それに女同士特有の、ベタベタではない適度な距離感が
あたしはとても心地いいと思った。




