第十四章 二人
14 二人
その頃、カザマン共和国に続く街道上に、二人の姿はあった。
「そろそろ目を覚ましたかな」
頭上の太陽を眺めてギルバートが言う。
彼は隣を歩くヒラコニアに視線を移すと、
「まだ怒ってるのか?」
「当たり前だろう! 二度も人を騙しておいて、よくもそんな口がきけたものだ!」
ヒラコニアはそう言って、ギルバートの二の腕を殴った。
「だって死んだことにすれば、もう追われる心配しなくてすむじゃん」
「それは分かっている! 私は、芝居を打つなら事前に言っておけと言っているのだ!」
「言ったところでお前、演技なんてできないだろ」
「馬鹿にするな、私だってやろうと思えば演技くらい」
「無理、無理。馬鹿正直なんだから」
「何を!」
「ほら、すぐにムキになるし」
ギルバートはそう言って、ヒラコニアの二発目の拳をかわした。
攻撃を避けられたヒラコニアは、ぶ然とした表情で口を開く。
「それにしたって、お前まで国を出てどうする。第一王子のくせに」
「だって、俺、王様とか嫌だし」
「そんなことで!?」
「大事なことだと思うぞ。一度しかない人生なんだから、好きなことして生きないと。まあ、アシルには可哀想なことをしたと思うが…」
「そう言えば、拷問がどうのと言っていたが、何のことだったのだろう?」
オルセン城の方を眺めて、ヒラコニアが言う。
「さあね」
「何か知っているな」
「まあ、ちょっと煽ったのは認める。こっちだって危ないところだったんだぞ。結婚の話とか出てたし」
「やかましい。私なんてずっと投獄されてたんだぞ、貴様に」
「だから、悪かったって言ってるだろ」
「そう言えば、身体に槍も刺さってた」
「だから、ごめんって。でも、痛みはなかったろ?」
「それはそうだが…」
「カザマンで何かおごるから」
「むう…」
「ありがとう。お前は心が広いなあ」
「まだ許すと言ってないぞ」
「でもどうせ許してくれるだろ? 友人の俺には分かる」
「お前という奴は…」
ヒラコニアはため息を吐いて、「しかし、これはこれで良かったのかもしれん。お前のような奴が王になっていたら、オルセンは滅んでいたかもしれんからな」
「そだな。それは俺もそう思う」
「がんばれ、アシル。私は友としてお前を応援しているからな」
「そうだな、まあ…」
ギルバートは後頭部で両手を組んで空を仰いだ。
彼は小さく息を吐いてから、
「何事も経験だからな」
と言った。
読んでくださり、ありがとうございました。
これで、優しい魔女の殺し方は完結します。
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