第二十八話 勝利の余韻
「やった、のか……?」
部屋の奥に現れた転移の魔法陣を呆然と眺め、ライムはまだ実感が湧かないのかそんな呟きを漏らした。
まあ、今まで倒せなかったボスを自分の手で倒したんだ。俺も一緒だったとは言え、感慨深いものがあるんだろう。
「大丈夫か?」
崩天剣を放つと同時にライムは膝を付き、剣を杖代わりにしている状態だ。クリスタルゴーレムの時と同じ様に肩で息をしている。
「ああ……ダメージは殆どない。それにしても、本当に私が思っていた以上だな」
クリスタルゴーレムの時よりも幾分か元気そうなのは、休憩所で休んだおかげだろうか。
俺を見るライムの目は驚きを通り越して呆れている様にさえ見える。多分だけど、俺ならミスリルナイトをもっと楽に倒せてしまう事にも気付いているんだろう。言及してくるつもりはないみたいだし、約束も守ってくれそうだ。
「今日はここまでにしておいた方が良さそうだな」
休めば体力は回復するだろうが、精神的な疲労もあるだろう。それに、ここから先はライムは足を踏み入れた事がない領域だ。つまり、道が分からないと言う事だ。
ライムのおかげで予想以上のスピードでここまで来れたが、そろそろ昼も回った頃合い。空腹も覚えてきている。20階まで下りて魔法陣を使うのがベストだろう。
「そう言えば、俺達がまたここに来た時はどうなるんだ? またミスリルナイトと戦わないといけないのか?」
ゲームではそうだった。一度塔から出ればボスは再出現する。逆に塔から出なければ一度倒したボスはボス部屋に入っても出て来ない仕様だった。
「聞いた話になるが、一度ボスを倒した者は同じボスの階には入れなくなるそうだ」
と言う事は、ボスドロップのチャンスは一度きりと言う事か。今回は何も出なかったし、ミスリルナイトのドロップ品は諦めないといけない訳だな。
「24階から先に進もうとすると、26階に飛ばされるらしい。まあ、私はまだ経験した事はないがな」
それもそうか。それでも、きちんと情報は得ているのは流石と言うべきか。
「それで、どうする?」
戻るかどうかの答えを聞く前に次ぎの質問をしてしまった為、俺は改めてライムにそう尋ねた。
「そうだな……私の当面の目標だったミスリルナイトも倒せたんだ。無理をする必要はない。クロウの言う通り、今日はここまでにして帰るべきだろう」
「なら決まりだな」
ボス部屋から強制退去なんて事にもならないらしく、ライムがちゃんと動ける様になるまでしっかりと休み、それから先に進む転移陣ではなく戦闘中は塔のシステムによって閉鎖されていたらしい階段を利用して階下に下った。
それから多少の戦闘はあったものの、ライムの記憶を頼りに最短ルートで20階まで降りた。
休憩所にある転移陣を利用して1階に移動し、一緒に昼食を取る算段となった。塔の近くで店を見繕っても良かったが、せっかくだから燕尾荘で食べようと言う事になった。あそこなら味に間違いはないしな。
俺とライムが一緒に戻ってきたのを見て、おばちゃんが驚いていたのは言うまでもないだろう。
燕尾荘の食堂で、パーティーと言う程ではないが少しだけ豪華めの食事をし、俺達は自分達の部屋に戻る運びとなった。
今後――
26階以降を一緒に攻略するのかなど、そう言った話は一切しなかった。まあ、同じ宿に泊まってるんだから話す機会はあるだろうが……
俺もライムも、特に話す必要性を感じなかったんだろう。当たり前の様に一緒に行くと考えている訳ではない。俺もライムも元々ソロだ。状況に応じて誰かとパーティを組む事もあるだろうし、ないかもしれない。
お互いにあまり周囲に知られたくない事がある訳だし、また二人で組む事は普通にありそうな気もする。
何にしても、今日はもう休もう。ああ、でも汗くらいは流しておくかな。ただ、今ライムと顔を合わせるのは別れたばかりだし何となく気まずい。少し時間をずらすか。女の子なんだし、早めに汗を流したいだろうからな。
俺がこの世界に来てから4日。たったこれだけの間に、随分と濃い生活を送ってるもんだ。
ゲームとして考えれば大した事ない気もするが、現実として見ればかなりのハードさだろう。それを可能にしている今の身体に、ありがたさと同時に何となく恐怖を感じる。まるで、自分の身体ではない様な……
俺は沈みかけた気分を払拭する様に頭を振る。
大丈夫だ。今の俺なら、現状怖がる様な事はないはずだ。
思考を切り替える。
明日からどうするべきか。やるべき事は金策。そしてエトルアンを探す事。後は、畑に使う種を探す事辺りか。
金策は塔の攻略を進める事で何とかなるはずだ。エトルアンだってそうだ。種も、ドロップ狙いでどうにかりそう。
あれ? 全部塔で解決出来るじゃないか。
なら、やる事は決まったな。
俺は新たに意を決し、とりあえずは時間を潰すべく覚えているスキルを思い返す事にした。
どんな状況でも最適なスキルを瞬時に選べる様に、きちんと何が出来るのか把握しておかないといけないしな。
……そうしている内に十分に時間が経っていたのは、俺のスキル量からすれば当然の事だった。