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第二十七話 層を隔てるボス・ミスリルナイト

 その部屋は、檻の中の様な冷たいイメージだった。

 周囲は鉄らしき金属の壁。多分正方形の大部屋だが、広大と言う訳ではない。20階の休憩所と同じくらいの広さだろうか。光源がある様には見えないが何故か明るい。

 鉄の処刑場。ボス階にはエリア名が設定されていて、ゲームの時はそんな風に呼ばれていた。

 壁や天井はまだ良い。ここの一番の問題は、床も鉄で出来ているところだろう。真っ平ら且つ傷もない鉄の床は、履いている靴にもよるだろうが意外と滑る。歩くだけなら問題ないが、戦闘を行なうとなると踏ん張りが利かない事もあったりするので注意が必要だろう。


「来るぞ」


 俺達がボス部屋に突入してから十数秒で、何もなかった空間に黒い靄が現れる。それが晴れると、そこには人を模した甲冑の姿があった。頭から足先まで全てミスリルで出来ているそのモンスターが、ボスであるミスリルナイトだ。全身鎧とは言え、関節部には隙間がある。そこを覗けば中身が何もない事が分かるだろう。動く甲冑。ただし、その動きは重量を感じさせない程機敏。にも関わらず当然攻撃にはその重みが加わる。レベルやスキルがなければ、本来ならば人間が勝てる相手ではないだろう。まあ、それはボスに限った話じゃないが。


「スロウ!」


 ボスへのステータス変動系のスキルは成功率が低い。相手によっては元より効かないものもある。ミスリルナイトにスロウは効くはずだが、ボス補正による耐性。そしてそもそもの敏捷値の高さから初手のスロウは失敗してしまった。


「ライム、スロウは効かなかったから気をつけろ!」

「ああ!」


 俺とライムが戦闘を行なう場合、基本的にはライムが前衛で俺が後衛だ。入れ替わる事はあるし、場合によってはお互い前衛と言う事もある。しかし、支援スキルを持つ俺が後衛から始めるのがここまでで培ってきたパターンだ。今回もそれに当てはめての行動だったが、出鼻は挫かれた感がある。

 それでもライムはミスリルナイトの動きに対応し、相手の振るう剣を自分の剣で弾く。何度か戦っているだけあって、ある程度の動きには十分対応出来る様だ。

 俺はライムの動きを阻害しない様に、合間を縫って遠距離型の攻撃スキルを飛ばす。とは言え、ミスリルナイトに大ダメージを与える様な高威力のスキルではない。俺のレベルを悟られない様にするのもあるが、何となくライムはやっぱり一人でミスリルナイトを倒したいんじゃないだろうかと思ったからだ。俺は基本的に補佐役に回る。ボス戦が始まる前から、俺はそう決めていた。


「エアリアルガード!」


 ミスリルナイトの一撃がライムの防御を突破したのを見計らい、俺は防御スキルを発動させた。

 エアリアルガードは指定座標に空気の盾を発生させるスキルで、突貫力の高い攻撃じゃなければかなりの防御性能を誇る。当然、ミスリルナイトの放つ物理攻撃くらいなら余裕で防げるスキルだ。


「助かった!」


 ライムが感謝の言葉を紡ぐ頃にはエアリアルガードの効果は消えていた。発生時間が極端に短いのがこのスキルの難点だ。

 渾身の――かは分からないが、勢いのある攻撃を弾かれたミスリルナイトは態勢を崩し、ライムはその隙を突いて剣を振るう。ライムの持つ剣はミスリルにも負けない硬度を持つ大鋼鉄製の剣だそうだ。大鋼鉄は下の鉱山洞窟で採れる鉱石で、おそらくミスリルナイトに物理攻撃で対抗するには下層では必須の鉱石だろう。

 硬度は同程度。つまり簡単に折れたりはしないが、身体がミスリルである相手を斬る事は叶わない。ダメージは与えられるが、剣としての性能は活かせない。ミスリルに勝るスキルのない者は、当たり前だがミスリルナイトには勝てないのが道理だ。

 だが、ライムはエンチャントスキルも使えるし、何よりもあの崩天剣がある。当てる事さえ出来れば、十分倒せる可能性はある。それでも今まで勝ててないのは、ライムがソロでしか挑戦していないからに他ならない。だが、今回は俺がいる。


「スロウ!」


 再度使用可能になったスロウを発動するが、結果は今回も失敗。俺は舌打ちしつつ次の手を考える。

 おそらくライムには崩天剣以外に決定打になり得るスキルはない。だとすると、ミスリルナイトの動きを止めさせるか鈍くさせるのは必須だ。しかし、ボスには拘束系のスキルは効かない。そうなると、スロウ以外には攻撃で足止めするくらいしか……

 そこまで考えて、ふとある疑問が浮かんだ。

 ボスに拘束系のスキルが効かないのはゲームでの仕様だ。抵抗力等に関してはおそらく同じ様なものみたいだが、あくまでもここは現実。スキルの効果やステータスだって物理法則の影響を受けている。どちらが優先されているのかは曖昧な部分もあるが、影響という点では確実に存在している。だとすれば、直接動きを止める様なスキルじゃなく、遮蔽物を作ったりするスキルなら物理的にミスリルナイトの動きを阻害出来るはずだ。少なくとも、試してみる価値はある。


「ライム、少し距離を取ってくれ。少し試したい事がある」

「分かった」


 俺の言葉に頷きライムが距離を取る。ミスリルナイトはそれを追う様に跳躍するが、ライムが攻撃態勢に入っていなければ十分だ。


「エアープリズン」


 空気の檻を作り出す拘束系のスキル。ゲームではミスリルナイト相手には通用しないスキルだが、それは効果上の話。実際に檻を生成した事で、ミスリルナイトは中空で動きを止める。檻に触れた事で追加ダメージもきちんと入ったっぽい。

 しかしエアープリズンの効果は5秒しかない。ライムが崩天剣を使うだけの時間はないだろう。

 でも、これで拘束系スキルを活用出来るのは分かった。後は、ライムの崩天剣で倒せるくらいにダメージを与えれば隙は作れる。

 俺はその旨をライムに伝え、少しばかり攻勢に出る事にした。ライムを少し休ませる意味も込めて、前後衛を交代する。と言ってもライムはサポート系のスキルを持っていないが。それでも消耗品である回復アイテム等はあるのだから、サポートが出来ない訳じゃない。まあ、まずは自身の回復に努めて貰う訳だが。

 最高職に良装備とは言え、ステータス的には決して高くない俺の物理攻撃力では、物理防御力の高いミスリルナイトに通常攻撃で致命傷を与える事は出来ない。時間をかければスキルを使わなくても勝てるだろうが、今は削りたいだけだから都合が良い。

 本来なら俺なんかがミスリルナイトの動きについていける訳はないのだが、ステータスのおかげがそれも叶う状態にある。特にスキルを使うでもなく、何度もミスリルナイトと斬り結ぶ。相手の攻撃はいなし、隙を突いて攻撃を当てる。その繰り返し。流石はボスと言う感もあり、かなりの集中力を要した。

 どれくらいの間攻防が続いたのかは分からないが、ミスリルナイトに変化が現れた。その動きを止めたかと思うと、全身が淡く光を放ち始める。その行程はほんの2、3秒の事で、ミスリルナイトはその動きを直ぐに再開させる。

 ボスならば確実に同系統のスキルを持っている、実に厄介なスキル。ミスリルナイトの持つこのスキルは、逆境の真打。体力が一割を切った時に常時発動するスキルで、物理攻撃と物理防御の基礎値が倍になるスキルだ。一見武器を持つミスリルナイトだが、あれは身体の一部であり武器ではない。ミスリルナイトには装備と言う概念がないはずなので、単純に攻撃力と防御力が倍になったはず。

 出来れば、このスキルを発動させる直前で留めたかったが……まあ、これで崩天剣ならば確実に倒せるだろう。


「スロウ!」


 一応スロウを再びかけようとしてみるが、結果はまたも失敗。なら、さっきの案でいくしかないか。


「ライム、今からあいつの動きを止める。崩天剣の準備をしておけ!」

「了解した!」


 俺の言葉に素直に頷くライム。大分信頼されてきたな。

 エアープリズンはまだ使えない。だが、手はまだまだ残っている。


「ストーンウォール!」


 本来は防御用のスキルであるストーンウォールを発動。俺とミスリルナイトの間に石の壁が現れる。石ではあるがそれはスキルが造り出した特殊なもので、物理防御は相当なものだ。ミスリルナイトには突然現れた石の壁を回避する事が出来ず、それでも何とか破壊しようと攻撃するが無駄に終わった。そして、ならばと迂回しようとする。が、遅い。


「ピラァ・オブ・レイ!」


 その名の通り光の柱を生み出すスキル。人一人分くらいの太さの光の柱が十本。ミスリルナイトを囲う様に天井から降ってくる。おそらく、直撃させればミスリルナイトを倒してしまっていたであろうスキルではあるが、相手の動きをある程度誘導していた為その心配もしていなかった。上空からの攻撃後、障害物として10秒その場に残るピラァ・オブ・レイ。エアープリズン同様触れればダメージを与える。更に柱と柱の間には特殊な結界が張られると言うおまけつき。まあ、これはダメージを覚悟すれば抜けれない程のものではないが。それでも、今のミスリルナイトにとってこのダメージは無視出来るものではないはずだ。

 そして、10秒あれば十分だろう。とは言え、ピラァ・オブ・レイでは完全に動きを止めさせる事は出来ない。だからこそ、もう一つスキルを発動させる。


「マジックスフィア!」


 ミスリルナイトの跳躍力ならば、柱を飛び越える事は十分可能だからだ。だからこそ、通り抜けられない様にを作ってやれば良い。

 20個フルでマジックスフィアを使用し、完全にピラァ・オブ・レイの欠点である上空部を埋める。

 これで準備は整った。


「ライム、あと5秒で効果が切れるぞ!」

「分かった!」


 4、3、2――


「崩天剣――」


 1――


「破の太刀!」


 青い衝撃波がミスリルナイトを襲う。光の柱が消え、一切の妨害もなく。それは同時にミスリルナイトも足止めから解放されたと事を示すが、既に回避は不可能。迫りくる衝撃波に呑まれ、ミスリルナイトは、跡形もなく吹き飛んだ……

ボス戦と言う事もあっていつもよりはちょっと長めです。

少し余裕が出来たので更新ペースを速めようと思います。とは言っても、月2回を目処にしていますが……とりあえず、次回は中旬くらいに更新予定です。

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