第二十六話 鉱山洞窟
バベルの塔21階。
休憩所である20階を出て、鉱山洞窟型のダンジョンであるその階に突入してから十数分。俺達は未だにモンスターと遭遇せずにいた。
ここまでで、これだけ移動して全く遭遇しないと言うのはかなり珍しいケースだ。
ライムは25階までの道順を完璧に覚えている為、戦闘がなければ階段まで辿り着くのはそれなりに早くもなる。と言うのも、22階への階段は距離的には結構近い位置にあるらしい。道さえ分かっていればすんなり上がれると言う訳だ。
「結局、1匹も遭遇しなかったな」
「ああ。流石に嫌な予感がしてくるな……」
階段を目の前にした俺の言葉に、ライムが神妙な面持ちで答えた。
嫌な予感、ね……下層での最強モンスターと言えるクリスタルゴーレムと遭遇した時点で、十分運が悪いとも言える。勿論、俺からしたら幸運の部類に入るが。
「もしくは、ちょっと前に誰かが狩り尽くしたとか」
モンスターは塔が生み出す。その数は神が管理でもしているのか、基本的に総数は変わらないと言われているそうだ。とは言え、倒してから再び生まれるまでのタイムラグは存在する。俺達が通る直前に誰かが倒し尽くして行ったのなら、全くモンスターと遭遇しない可能性もゼロではない。
「考えられなくはないが……その場合、もっと危険な事になる可能性も出て来るな」
「どう言う事だ?」
ライムの言葉に、俺は素直に疑問をぶつけた。
「誰かが短時間でモンスターを一掃したとして、新たに生まれる場所は決まっていない。普通なら色々な場所に生まれるのだろうが、極稀に一か所に纏まって生まれる事もあるそうだ」
ふむ。一時的なモンスターハウスの出来上がりって訳か。ゲームではリポップが一か所に纏まるなんて事はなかったけど、どうやらそう言う事もあり得るらしい。
「なら、そうならない内にとっとと上に行こう」
「ああ」
そんな会話をしているとフラグが立ちそうなものだが、生憎と階段は既に目の前だ。
俺達は結局21階では一度も戦闘をする事なく22階に上がった。
さて。22階もライムの案内の元階段を目指している訳だが、道中鉱石を採掘出来るポイントなんかも見つけた。が、ライムはそれには目もくれない。俺は視線だけは向けるがライムがどんどんと先に進むものだからそれを追うしかない。いや、声をかければ止まってはくれただろうが。
今回の俺の目的は塔攻略がメイン。ライムもミスリルナイトを倒すのが目的みたいだから、採掘なんて最初からするつもりがないんだろう。俺としてはそれくらい……と思わないでもないが、効率良く先に進む為にはライムの案内はありがたい。だからライムの意にそぐわない行動をして機嫌を損ねるのは失策だろう。
なんて勝手に判断してる訳だが、今度見かけたら採掘して良いか聞いてみようかね。
「クロウ」
「ん?」
モンスターの気配はない。道すがらあまり雑談をするタイプではないライムが俺に声をかけてきた為、一瞬モンスターがいたのかと思ってしまった。まあ、普通に話しかけてくる事だってあるよな。
「クロウは、何か鉱石が必要なのか?」
おぅ。これはあれか。もしかして俺の視線に気付いていたって奴か……
「いや、そう言う訳じゃないんだけどな……」
何だかんだ、モンスターのドロップアイテムも手に入れてるし、ある程度のお金にはなるだろう。それでも鉱石に視線がいってしまうのは、現状お金になる物は手に入れておきたいと言う心の現れなのかもしれない。
「気にしないでくれ。俺もここからは鉱石の事は気にしない様にする」
ライムのおかげで予定よりもかなり早く進めているんだ。資金稼ぎはまた改めてすれば良い。今は塔攻略に集中しよう。
「分かった」
俺の決意を読み取ってくれたのかどうかは分からないが、ライムは俺の言葉に頷いた。
そこからはまた無言の進行。周囲の気配を探りつつ、先へと進んで行く。
道中ストーンゴーレムやロックタートルと言った堅さが取り柄のモンスターや、自爆技を持つボムバッドと言ったモンスターと遭遇。それらを倒しつつ23階へ。
23階も出てくるモンスターは変わらない。22階ではたまたま遭遇しなかったブラッドウルフは、高い攻撃力と機動力が売りの狼型モンスター。スノウサーベルの強化版と言った感じだろうか。種族的には違うが、タイプ的には。
ライムの言う通り19階以下のモンスターより基本的には強い。が、まだまだ余裕がある。下層のモンスター相手に手こずる様じゃ塔攻略など不可能だ。何となく安心しつつも気は抜かない様にする。
24階も変わらない。階段に近付くに連れ、ライムがどことなく緊張していく様な気がしたが、それはボス戦を前にしてのものだろう。
このエリアにもクリスタルゴーレムが出るらしいが、流石に一日に何度もレアモンスターと遭遇したりはしない様だ。いや、今出られても困るから良いんだが。
それでも雑魚モンスターとは何度か遭遇しつつ、俺達は25階へと続く階段まで辿り着いた。
ライムが息を呑むのが分かった。今までになく緊張している様子だ。
「ライム」
だから、聞いておかないといけない。
「何だ?」
「今回も一人で挑戦するのか?」
ここまでは一緒に来た。が、元々ライムはソロだし、一人で倒したいんじゃないかと思っている。だからこその質問だ。
「いや……クロウさえ良ければ手伝って欲しい」
ふむ。どうやら、結果的にソロだっただけでソロにこだわりがある訳じゃない様だ。
「分かった。ただ、そうなると言っておかないといけない事がある」
下層のとは言えボスだ。クリスタルゴーレムと近しい強さだとは思うが、あまり楽観視していると痛い目に合うかもしれない。となると、もう少し本気を出さないといけないかもしれない。
「何だ改まって?」
「もし俺がライムの予想を上回る実力だったとしても、それを他言しないで欲しい」
「あ、ああ。勿論だ」
元々そのつもりだったのか、ライムはどこか拍子抜けした声で答えた。
まあ、バラされたところでライムをどうこうしようとは思わないが……いやいや、ここはライムの言葉を素直に信じておこう。それに、出来る限りは出し惜しみするつもりだしな。
「なら良いんだ。それじゃあ、行くか」
「ああ」
ライムはしっかりと頷き――
俺とライムは、25階への階段を昇り始めた。