029 解身の太刀
大きめの肉食獣が5体以上で獣使いらしきのが後ろにいるが、ランプの光をこちらに向けているので向こうは暗く良く見えない。
こんな事をしている奴はどんな顔をしているのか斬る前に見たかったが、そんな場合では無いか、まずは獣だが鎧を付けているからてこずるだろうか。
兜割りが使えるか? あれは一度に一つのはずだが5体以上できるのか?
そう思ったとたん頭の中で声が聞こえた。
『 解身剣 』
かいしんけん? それは・・・・ 理屈を考える間でもなく体が覚えている。
人も獣も、体の構造、骨も筋肉も内臓もどこにどんなのが有りどこをどう切ると良いのか、そして鎧ですら隙間や弱点ができるかが手に取るようにわかる。
そう思ったのは一瞬の事で、既に獣たちは飛び掛かって来ていたがその動きはゆっくりに見え体が透けて筋肉や骨までわかり、自分の体が動いていた。
鎧の隙間、継ぎ目から刃を滑らせ筋肉を、健を、血管を、神経を、内臓を、斬る!
解体するが如くさばく剣技、それが「解身剣」。
飛び掛かってきた獣が牙をむき出して大口を開けるが、何も噛めずに鎧の間から血しぶきを上げ手足を失い腹を裂かれ血を吐き叫びながら床を転がる。
それが2体3体と増えて飼い主はようやく状況を察したか立ちつくした。
「な、なんだ? そんなバカな!? 」
4体目の首の動脈と筋肉を裂いた血しぶきを浴びた男は血まみれで叫んだ。
5体目の獣は鎧がずれていたので首を飛ばして胴体は床を響かせ頽れた。
6体目の足元に仲間の首が転がったとき、最後の獣は何を思ったのか踵を返し飼い主へ向かって飛び掛かり首から肩に噛みついた。
「ぎゃっ」
仲間割れかと思いながらもどちらも放っておく気はない。
獣の背中、鎧の隙間から剣を突き刺しそのまま飼い主まで貫く。
どちらもろっ骨の間から心臓を突き刺すことになった。
剣を抜くと彼らの血が床へほとばしりビシャッと音を立て、今までの血と合わせ一面血まみれとなっているが暗いため黒ずんで見える。
シンと静まった部屋に窓の隙間から月の光が差し込み青白くなった部屋に立っているのは自分だけで、敵の加勢が来るかと思いきや音が途切れた。
なぜだ? これで終わり・・ではないよな、それではあまりにあっけない。
そう思った刹那、奥から金属の音がした。
ガラガラと柵が動いてるかのようで、足音がズシリズシリとそれに続く。
そして部屋の明かりが点いた。
四隅に小さなものだが今までよりはずっと明るく、入ってきたものが良く見える。
それは立ち上がった恐竜の様で手足は全部で6本、上下の4本は鳥のような鉤爪で間の2本はカニのようなハサミが付いて頭は長い牙が並び大きな顎で、肉食獣の代表といった顔付きである。
それが長い鎖を引きずりながらゆっくりとやって来る。
しかしそいつはこちらを見るより床の獲物が気になるようだ。
床に倒れている獣たちにいきなり噛り付いた。
強力な顎で骨をかみ砕きながら引きちぎり血を吹きださせ咀嚼する。
鉤爪の手足で押さえつけ、ハサミの手で切り裂きながら内臓さえ食らいつく。
餌になった獣と格の違いを示すような食いっぷりである。
血しぶきが近くまで飛んでくるので思わず下がると目がこちらを向いた。
獲物をかみ砕きながら上体が起き上がって睨みつけてくる。
動いたせいで標的を変えてしまったろうか?
しかしこちらも見逃す気は無いと剣を構えようとしたとき、体が拒否を?
ビクリと体が痙攣し動きが止まった。
ーー 解身剣とは体の構造を知ってこその剣技、未知の敵では真価を発揮せず ーー
そんな言葉が頭に響いた。
この獣は見た事が無い? 勇者の知識にも無い相手か?!
よほどの希少種か、あるいは造られた魔物なのか。
それでは形が近い獣から想像するか、又は別の剣技にするかだが・・ どうする?
一瞬のためらいで反応が遅れ、敵が先に動き大口を開けて飛び掛かってきた。
でかい体なのにかなり早く、かろうじて躱し剣で弾くと牙と爪が服を切り裂き自分の血が飛ぶのが見えた。
あと少し遅れたらやられていただろう、血の気が引いたとはこのことだ。
少し剣に当たっただけで手が痺れる。
相当な力が有る、それが4本もあるし2本は刃物の様とは厄介な相手この上ない。
刃物の方は腹を狙って繰り出され腕は顔から首を狙い振り回し、避けるだけで精一杯の素早さだ。
一度退却するかと思うがおそらく逃がさない仕掛けがあるだろうし、この動きでは背中を見せればやられるに違いない。
自分には「5分」の時間制限もある。
どうするか?
考える間もなく顔にハサミを突き出され剣で受けるがすぐにあと3本の手が向かってきて体をねじりながら避けるが数か所を刺され、先ほどより深い。
「ぐっ」
どうする? このままではやられる! 何か手は・・
その時、ガシャッ と鎖の音がした。
鎖? そう言えばこいつは鎖を引きずって出て来て今も繋がれている。
つまり鎖が無いと都合が悪いのだろう、ならば。
「兜割り!」
兜ではないが、これなら太い鎖でも切れる。
部屋の外まで伸びていた鎖が断ち切られ床に落ちた。
すると獣の体がピタリと止まった。
ゆっくりと振り向いて切れた鎖を眺めているように見えるが、これで状況が変わるか・ どうだ?
「おい、鎖が切れたぞ!」
「まずい」
部屋の外から小さな声だがそう聞こえた。
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