020 付与儀式の始まり
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これを糧にこれからも頑張ります !
研ぎが終わりすっかり磨き上げた剣が目の前にある。
「これで問題ないだろう、実戦用でないのは残念だが試作だからな」
今朝庭を見ると儀式が数時間後でありながら観客が溢れていた。
敷地の外にもどれほどいるのかわからない。
まだ試作に過ぎないのにあれほど集まるとは、みんな気が早いな全く。
剣を鞘に納め、机に置く。
既に柄や鞘の仕上げも出来て完成状態となっている。
儀式準備全て終了だ。
「朝ごはんで~~す、 えへへ、剣完成ですね」
鍛冶場にルアンがやって来て剣を見つめてにやける。
「おう、手伝いを色々としてくれて助かったよ」
「まだそれほどじゃないです、地元ではもっとやりましたよ」
小さいながらもなかなか元気で体力があるようだ。
ハンマーを使っていてもふらつくことなく、最後までしっかりと打っていた。
「ルアンも儀式に出るのか」
「出るよ、鍛冶師手伝いだもん絶対出なきゃね、アリシアがメインだけど」
アリシアが儀式を取り仕切り、自分が剣を扱う役だが少し緊張する。
「ヘマをしないか心配だよ、初めてだからな」
「間違ったって、これが正しいって顔をしてればいいんですよ、開き直りで~す」
「いいのか? それで」
「あわててうろたえるよりずっといいです、サマになりますから」
そうなのか? 聖職者なら落ち着いていれば格好つくからか。
笑われるよりはいいか。
朝食の間、他のシスター達がそわそわとしている。
彼女達も出席をするので緊張と好奇心か、食べながらも落ち着きがない。
今日は司祭も一緒に食事だが、黙っているのは儀式での緊張を感じているからか。
「司祭様も今日はよろしくお願いします、自分は不慣れなので」
「いえいえこちらこそ、私も初めてですよ、勇者の鍛冶様など数十年ぶりですから」
そう言えばそうだったか、勇者剣の鍛冶師はしばらく絶えていたのだったな。
「それに儀式のメインはアリシアでしてな、私は司会程度で」
アリシアがぎくりとしたような顔をした。
「司祭様、緊張させないでください・ 考えないようにしていたのに」
「考えてくれなきゃ困るんだけどねえ、頼むよほんとに」
「はい・・・ 何とか頑張ります」
アリシアも初めての事だから緊張するかと思ったが、これはみんなそうか。
食べ終わると皆がパタパタと準備を始めた。
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皆が着替え終わり、控えの間に勢ぞろいをする。
白を基調とした服に赤い帯など巫女服の様で洋風、司祭は赤と金が広めで豪奢?か。
自分のは白に薄い青、銀、それにそれに特殊な金属の糸か、ミスリルか何か?
こちらの方が目立つような気がするが仕方ない。
だが自分のする事は剣を渡し、儀式の最後に受け取るだけ。
主にはアリシアと他のシスターによる祈りと踊りなのだ。
礼拝堂に集まった客の前で大きな青い火が灯され、周りには小さく緑と青の明かりが交互に並んで付き、いつもと違った雰囲気を漂わせている。
そして司祭が始まりを宣言した後、神への供物がシスター達により運び込まれ祭壇に置かれそこは小さな赤い灯に照らされる。
供物はほとんどが植物で肉は加工したものが少々、血生臭は無い。
この国は農作物が豊富だからか。
そしていよいよ剣を出し、自分からアリシアに渡す。
落ち着いて、落とさないよう慎重に・・手が震えそうになるのをこらえて差し出して
無事に渡ると彼女は祭壇の中央へ掲げて置く。
後は最後まで自分は見ているだけで、アリシア達の祈りが始まる。
祈りというより歌の様で抑揚と音程が変わりながらで、徐々に動作が入り踊りを始めると他のシスターが剣の両脇から寄って聖水を注ぎ、剣への付与が開始となった。
神の力が剣に与えられ、魔物や零体への殲滅力を持つ。
そのための儀式、以前の自分なら知る由もない事が繰り広げられていく。
アリシアの踊りがだんだんと熱が入り他のシスターの祈りの声が大きくなり、いつのまに持ったかアリシアの両手の短い杖がシャランと音を立て始めると観客たちも祈りの声を上げた。
客は練習に参加していなかったのに皆一斉に祈り始めて、少し驚いた。
他の儀式と共通しているのか、皆が当然のように声を合わせて祈るのは神懸かりのような不思議な感じがする。
そしてシスター達が炎に香をくべると更に火が大きくなり香りと紫の煙が上がり、体が吸い込まれるような感覚が訪れるが、幻覚剤だろうか?
炎で照らされたアリシアの服が透けてずいぶん色気があるが、教会なのに良いのかとつい思うほど色気があるが、まあ裸ではないからな・・・良いのだろう。
と、今気づいたが教会の外、庭からも祈りの声がする。
外の人達も祈りを挙げているのかさらに広がり塀の外からも聞こえるようだ。
事前に聞いた話では祈る人が多いほど付与効果が高まるという。
だから信者を招いて儀式を行うのだと、聖職者だけでは済まないとのことだ。
踊りと歌に見とれていると最後の時が来た。
魔石を剣の周りに並べて念を込める、他のシスターも・・・ 魔石が光る、だんだん強くなる光は最後爆発したかのような眩しさで礼拝堂を光で満たし、真っ白になる。
ようやく光が収まり目が慣れてくると剣を掲げたアリシアの姿が見えた。
その手にある剣はやや青みががった光沢ある銀色に輝き、感じが変わっている。
これが神性なのだろうか、自分が作った物とは違うような・・・・・?
そしてその剣が自分に渡される、これで儀式が終了だ。




