【第8話】閃光の一撃
「第1陣、位置に着け!」
モネさんが号令を掛けると、5人の騎士達が前に出る。
ピリピリと張り詰めた空気が僕にも伝わって来た。
「構え!」
前に出た5人は槍を両手で持ち直し、腰を低く構え、次の号令を待つ。
「突撃!」
その号令が掛かった瞬間、5人は一斉に地面を蹴りつけ、数十メートル先の鎧を被せたカカシ目掛けて、一直線に飛び出した。
とんでもない爆風で3歩ほど、後ずさってしまった。
飛び出してから1〜2秒で、5人の槍は鎧の胸を貫通させていた。
「次! 第2陣、位置につけ!」
第1陣が終わると、次は第2陣の人達が構える。
第2陣も余裕で槍を鎧に貫通させる。
立て続けに、第3、第4と次々と鎧を貫いて行く。
こうして、全員が終わると、
「的を回収し、次の用意!」
『はっ!』
騎士達は号令に従い、忙しなく動く。
モネさんは指示を出し終わると、僕の方に歩いてきた。
「今の訓練どうだった? 直進飛行訓練って言うんだけど」
「凄いです! 皆とても速くて、目で追うのが精一杯です」
「うんうん! でも、満足するにはまだ早いよ!」
「隊長! 的の用意、完了しました!」
あの鎧カカシの用意ができたらしい。
という事は、先程の直進飛行訓練を繰り返すのだろう。
騎士隊の天使達は次の号令に備えている。
そんな騎士達にモネさんがニコニコしながら物申す。
「諸君! 先の訓練、どうやら目で追える程度らしいぞ」
『…………』
「いや、そういうつもりで言ってないですよ!?」
僕そんな風に言ったっけ? 言ってないよね?
ほら、騎士隊の人達もぐぬぬって顔してるじゃないか。
「我々聖天騎士隊にとって速さこそが力だ!
とは言っても、まだ入隊して間もない者もいるだろう。
アタシが手本を見せる!」
『はっ!』
モネさんが槍を手にして構えると、茶髪の男性と青髪の女性の2人の騎士が僕と先輩の前に立ち、槍を通せんぼするように持った。
「クークラ嬢と少年、この槍に掴まっておきなさい。
隊長は恐らく、本気で飛ばれます」
「飛ばされねぇようにしとけよ?」
取り敢えず、言われた通りに槍に掴まってみる。
モネさんは準備が終わったようで、騎士隊の1人に号令を求めていた。
「構え!」
号令がかけられると、翼が薄く光だした。
モネさんは遠くの的を見つめて、瞬き1つしていない。
「突撃!」
号令が掛かかると、モネさんの翼が眩い光を放った。
目がくらみ、その瞬間は見る事が出来なかったが、どうやら既に的を貫いた後のようだった。
まばたきをする間も無いような一瞬の出来事だ。
モネさんが的を貫いたのが確認できたすぐ後、乱れ狂う暴風が辺り一面を殴りつける。
「うぉっ! 大丈夫か坊主!?」
「だ、だいじょばないです!」
僕は辛うじて槍には掴まっていたものの、体は完全に宙に浮いている状態だった。
先輩は大丈夫か? 僕より軽そうだし、飛ばされてないだろうか?
「先輩は大丈夫ですか!?」
「……ん…見ての通り……乙女としてピンチ」
先輩は青髪の騎士の腰にしがみ付いて耐えていた。
少なくとも僕よりは大丈夫そうだったが、いつもはサラッと綺麗なブロンズ髪も今や爆風のせいで荒れ放題である。
まぁ、確かに乙女と言うにはボサボサ過ぎるな。
暴風は数秒経つと収まり、僕もようやく地に足を付けることが出来た。
先輩はムスッとした顔で手ぐしで髪を整えていた。
そうこうしていると、この惨事の原因がドヤ顔で飛んできた。
「ナツメ君どうだった!? 凄いでしょ?」
「まずは、先輩に一言詫びを入れた方がいい気がします」
「?……うわっ、ホントだ。すっごい怒ってるよアレ」
先輩は服のしわを直しながら、ジト目でモネさんを睨んでいる。
「クーちゃん…その、ごめんね? でもね、ナツメ君にいいとこ見せたかったの!」
「……で?」
「いや、だからその〜。あはは」
「……正座」
「いや〜ほら! 一応アタシ騎士隊長だし面子とかも……」
「……正座」
「はい……」
先輩は正座させたモネさんの頬を両手で左右に引っ張りながら説教をしている。
その様子を眺めていると、あの暴風の時に槍を掴ませてくれた騎士に話しかけられた。
「隊長にあんな事ができるのは図書館の人達だけですよ…」
「騎士隊の人達はああいう事しないんですか?」
「正直、やってやりたい時はありますけどね……
でも、一応私達の上司であり、憧れでもあるんですよ」
やってやりたい時はあるんだ……
でも、モネさんは騎士隊の人達に慕われていることは伝わってきた。
「私達聖天騎士は基本的に街の治安を護る為にいます。
ですが、人によってはもう1つ目標のような物があります」
「目標……ですか?」
「ええ、聖天騎士隊には速さこそ最大の力であると言う考えがあります。故に、ある境地に至った者には2つ名が与えられる事があります」
2つ名! なんかかっこいい響じゃないか!
「ちなみに隊長の2つ名は『閃光』です。
二つ名が与えられた者は過去にも数人しかいないので、私達もそこに上り詰めるため、日々研鑽しています」
「他にはどんな二つ名があったか聞いてもいいですか?」
「そうですね、私達でも面識がある人物だと、『紫電』と『轟雷』ですかね。
ちなみに『轟雷』の2つ名持ちは、今ではオラシア様に毎日振り回されていますよ」
「もしかして、メイレールさんですか!?」
あの人、そんなかっこいい2つ名持ちだったのか。
でも、あの人の雰囲気とか思い出すと納得な気もする。
「メイレール様は凄い人でして、騎士でもないのに自分を磨きたいって理由だけで2つ名を貰うに至ったんですよ」
「僕と先輩…あ、クークラさんもメイレールさんにだけには盾つかないようにしようって決めてます」
「ふふっ、それは賢明な判断ですね」
そんな話をしていると、先輩に引っ張られて頬が真っ赤になった『閃光』がトボトボと歩いてきた。
「誠に申し訳ございませんでした……」
「いや、全然いいですよ! 凄い物見せてもらいましたし、何より二つ名を持ってる人の本気ってなかなか見られないんですよね?」
そう言うと、モネさんの顔はパァっと明るくなり、
「ナツメ君は分かってくれるんだね! 嬉しいよ!」
「でも程々にしてくださいね、騎士の人達もたまに困ってるらしいので」
「はい……」
その後も時折訓練に参加しては、先輩に説教されるモネさんを眺めつつ、聖天騎士隊の訓練を見学した。
騎士同士の模擬戦は特に見応えがあった。
夕方前には訓練も無事終わり、モネさんが訓練の終了を告げる。
「今日の訓練はここまで!」
『はっ!』
「いや〜、みんなお疲れ様!」
「隊長もお疲れ様です」
「モネ隊長〜、疲れた〜!」
「この後みんなで飯でも行こうぜ?」
訓練が終わった途端、もう少し前までのピリピリとした空気は無くなり、みんな砕けた口調で和気あいあいとしていた。
「そう言えばその子って図書館に来た新しい子だよね?」
「そう言えば紹介してなかったね! ナツメ君、自己紹介をしてあげてくれるかな?」
「はい。つい最近、図書館で働く事になったナツメです。
今日は訓練を見せてくれてありがとうございました。
まだ分からないことが沢山ありますけど、よろしくお願いします!」
「うんうん、私はマイン! よろしくね〜」
「ミナです。よろしくお願いします」
「俺はザック! よろしくな!」
訓練終わりにモネさんの周りにいた、3人の騎士が挨拶をしてくれた。
薄桃色の髪の活発そうな女性がマインさん、青髪の礼儀正しい女性がミナさんで、深い茶髪の豪快そうな人がザックさんと言うらしい。
「この3人はアタシと同期で、昔からの仲良しなんだ!」
「そうそう! 仲良し〜」
「腐れ縁の間違いでしょ?」
「ハッハッハ! そう言うなミナ!」
とても仲の良さそうな3人だ。
今思い出したが、最初の訓練で僕を掴まらせてくれた騎士はミナさんとザックさんだろう。
それからしばらく、今日の訓練の感想や雑談を僕と先輩、騎士隊4人で語り合っていると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「……後輩…そろそろ帰らないと……夕飯に間に合わない」
「そうですね。モネさん、今日は誘ってくれてありがとうございました!」
「また遊びに来てね。次は前に約束した武器庫を見に行こうね! たぶん、近い内にここには来るとは思うけど」
「その時はまた案内よろしくお願いします!」
挨拶を済ませた後は先輩と2人で帰路についた。
家に着くとリオ爺が出迎えてくれた。
「随分と楽しい療養だったようですね」
「「…誠に申し訳ございませんでした……」」
「夕飯が冷めてしまいます、早く中に入りなさい」
僕は夕飯を食べ、明日の準備を終えた後、自室のベッドで横になっていた。
今日は色々あったけど、明日は何が起こるんだろう。
病院にいた時は人の体験談などを聞くことしか出来なかったけど、自分が体験することがこんなに楽しい事だったとは思わなかった。
まだ見ぬ明日に胸を膨らませ、僕は眠りについた。
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